06話 その女もまた、一癖二癖 3
ここは異世界のとある林、というか森。
ナツキは困っていた。
どうしよう……意気込んだはいいものの、
今まで自分でご飯なんて作った事もないどころか
風呂、トイレ、着替え以外の身の世話なんてした事ない私が、果たしてこの世界で生きていけるのかな……?
事実、ナツキはこれまで殆んどの家事や買い物を人にやって貰っていた。
ナツキは見た目はかなりの美少女だ。運動もできる。大学内でもファンは多数存在した。
そういった者たちがシフト制で(あくまで勝手に)ナツキの家まで出向き世話をしていた。ナツキは性に疎いので男女問わず家に上げていた。
ナツキ的には、
「お、なんか今日もご飯作ってたり掃除してくれる人がいるぞ! ラッキー♬」
と言った感じだが、ファンからしてみれば
「こ、ここが裕月たんの部屋か……!
いい匂いがするお……! ぶ、ブヒィ!!!」
といった感じであった。まぁ、手を出そうものならナツキにフルボッコにされるので誰も手を出す者はいなかったが。
……いや、決めたじゃないか。この異世界転移を機に私は生まれ変わる!頑張ろう!
そういえば、今まで見ぬふりしてたけどなんでこんなだらしない格好の時に転移されちゃうわけ!?
もお!お腹も空いた!!
意気込んだかと思えば不平不満ばかりのナツキであった。
あ! 私には神様に貰ったチート能力があるんだった!
それを使えば食料ぐらい簡単に見つかるはずだよね!
でも、どうやって使えばいいんだろ。
『人間以外の生物』か……。本当に何でもなれるのかな?
物は試しだ! どうせならすごいのから力を借りよう!
「『百獣の巫女』! 怪獣の力を貸して!」
……………。
何も起きない。
「あれ? 変身できない? 何でだろ……。
こういう時は、多分イメージが足りなかったのかな?」
食べ物を探すのにそんなに凄い力はいらないか。
ナツキは小さい頃飼っていた犬のランドルフを思い出しイメージする。
ランドルフ……。ランドルフ……!力を貸して!
その瞬間、ナツキの身体が一瞬光る。
光が収まるとナツキの頭には犬耳、スウェットのズボンからは尻尾がはみ出ていた。
うわぁ……すごい!本当に変身した!
力もすごい漲ってくる。鼻もいつもと比べ物にならないくらい効くし、これなら食べ物を見つけられるね!見た目は少し恥ずかしいけど。
ナツキは辺りに食べられる木の実などないか探した。
これは食べられそうね。これも、これも。あ!あっちからいい匂いが!……これは絶対毒がある。
ナツキはどうやら「野生の勘」も強くなったらしく毒のあるものを見極め着々と食べられる木の実や果物を採ってきた。
「これくらいあればお腹いっぱいになりそう。あー楽しかった!なんだ、私やればできるじゃん!」
果物や木の実を一箇所に集め、
ナツキは十数分ほど変身していたので変身を解除しようとする。
あー、そうそうなんか制限があったんだっけ?まぁ気にしなくても大、じょ……ぶ……
ナツキの意識はそこで途切れた。
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「ん、んん……ここは?」
ナツキが気づくと四つん這いになっていた。それに眼鏡や帽子もなくなっている。
まぁ安物だからいらないか、というか邪魔だったし。
それよりも変身を解除した場所から移動している?
でも幸いすぐ近くに果物や木の実はある。
なるほど、変身先が乗り移るから記憶が飛んじゃうのか。気をつけないと結構危ないかも?
そう思いナツキが立ち上がろうとする。
……ん?なんだ?なんか下半身が湿ってる?どころかビショビショじゃないか?
辺りを見渡すと木々の根元に所々湿った跡が。
……ッ!
まさかまさかまさかまさかまさか!!!???
「あばばばばばば」
ナツキは事態を把握した。
そ う い う 事 か!!!
「マーキング」しやがったんだ!
ランドルフめ!「私の身体で」!
その通りであった。十数分の間、犬に憑依されたナツキは辺りにマーキングしまくってたのである。
勿論服は着たまま。
ぐすん、これじゃ私お嫁に行けないよ……!!
とりあえず、川で身体を流そう……。
静かに泣きながらトボトボと川を探しに行くナツキであった。
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【夏木 裕月】
ルックス抜群の19歳女子大生。
胸は貧乳ほどではない微乳。
極度の依存癖と、性に対する過剰な恐怖心、無知さから彼氏が出来ても続かない。
所持能力『百獣の巫女』
人間以外の生物の力を借りられる。その際、見た目も変化する。
変身解除後、通常時の姿のまま変身先が憑依される制限がある(例、犬に変身すれば通常時のナツキの姿のままマーキングしたりする)




