04話 その女もまた、一癖二癖 1
東京都内のとある小さな町、深夜のコンビニから1人の少女が出てきた。
上下スウェットで帽子と伊達メガネと見るからにやる気のない格好である。
(めんどくせぇ……。『ヘコ動』更新しようと思ったら、まさかマスクが切れてるとは……。
でも私の事待ってくれてる人達のためにも、面倒くさいなんて言ってられないよねっ!)
ヘコ動とは大手動画サイトであり、面白い動画を作成して投稿したり、声真似や歌をライブで放送する事が出来る。
どうやら少女は後者のようだ。
「おーおー! 姉ちゃん。地味な格好だけど顔は綺麗じゃねーか。 ちょっと遊ぼうぜ?」
「うっひょー! 確かにかっわいい!!」
「深夜にうろついてると俺たちみたいなのに絡まれちまうよーん!」
古!いつの時代のナンパだ!
帰宅途中の少女の前にゲヘゲヘと下卑た笑みを浮かべながら3人のナンパ男達が絡んできた。
「ちょ、ちょっとやめて下さい。 そ、そんな可愛いだなんて……」
「お?何だ、ひょっとして案外、ヤル気?」
少女も頬を赤く染め、意外と満更でもない感じだ
「なんだよ、その気なら話しははえー。 そこに車があっからよ。 それでこれからホテルにーーーー」
と、ナンパ男の内1人が少女肩に腕を回しその勢いで胸を触ろうとした瞬間。少女の身体がビクッと震える。
「 やめっ……て下さい!!!」
少女は叫びながら腕を払いのけざまに強烈なボディブローを叩き込む。ナンパ男は吐瀉物を撒き散らしながら地面に膝を着きそのままダウン。
「うげ、汚な!!」
「この女、ボクシングか!? 舐めやがって!」
「ボコった後、ぶち犯してやる!」
残りのナンパ男は仲間がやられ戦闘態勢に入った。1人は棒状の武器も持っていた。
「え、ちょ! 貴方達がいきなり……」
「もう今更おせえ!!!」
武器を持った男が少女に襲いかかる。
フワッ……ダズンッ!!!
が、少女が武器を受け止めたかと思えばそのまま男は態勢を崩され、空中で一回転。
そのまま固い地面に叩きつけられ失神してしまった。
あー、またやってしまった……。
彼女の名前は「夏木 裕月」
彼女もアリスと同じく苗字で呼ばせて貰おう。
大学1年生の19歳。
オフの時でもナンパされるぐらいだ。普段は誰もが振り返る程の美少女である。
髪型は色素の薄い栗色の髪を肩まで伸ばしたミディアムボブ。
ボクシング、合気道、空手など様々な格闘技を扱える。先程の強さはそれ故である。
勉学も出来、人当たりもいい。
趣味のヘコ動では歌い手として活動しているが、絶望的音痴な為ファンは僅か2人な部分を除き、
圧倒的完璧超人である。
しかし彼女もまた、中身に少々難があるようで……。
「ひ、ひいいい化け物!!」
「なっ! ひど! そっちが絡んできた癖に!」
腰を抜かしたナンパ男に、ガビーンといった感じのリアクションをとるナツキ。
確かにナツキは手を出して来た男しか倒していない。暴力が好きという訳では無さそうだ。
「や、やべえあの女、逃げねえと…ん?」
ナンパ男は地面に転がる何かを見つけた。どうやら女物の財布。
(へへ、やられっぱなしもだせえし、財布だけでも頂くとするか。)
先程まで腰を抜かしていた男が急に起き上がり、財布を拾い上げその場から逃げた。
「へっ、 化け物女が! この財布は頂いてくぜ!」
「げっ! 私の財布!? 待てコラー!!」
後を追うナツキ。
「確かにこの辺に逃げた筈、てかどんだけ逃げんのよ」
ナツキは今、ガードレールの向こうの林の中にいる。男を見失ったようだ。
「んー、でも冷静に考えたら、ツレの方を押さえとけば住所とか連絡先も分かるだろうから
わざわざ追わなくてとよかったかも」
そう思いナツキが元いた場所へ戻ろうとしたとき、
ガサゴソ……と草陰で音がした。
あそこか。意外と近くにいたんだね。不意打ちみたいで嫌だけど、飛びっきり強烈なの食らわしてやるっ!!
ナツキは草陰に猛ダッシュで近づきそのまま後ろ跳び蹴りを食らわせた。
「グェ……エ……!!」
物凄い勢いで影が吹き飛ぶ。
やり過ぎたかな……?
ナツキは急いで様子を見に行った。
しかし既にナツキの日常は終わりを告げていた。
見に行った先にいたのは、
緑色の肌、太く短い手足と身長の割に大きな頭部。そして特徴的なのはその醜い顔面。
ゴブリンと呼ばれる魔物が苦しみながら横たわっていた。
「きゃあああ!!!!!!!」
ゴブリンは動かなくなると雲散して跡形もなく消えた。
ナニコレ? どうなってるの?訳わかんな……い……。
ナツキはショックの余り気を失ってしまった。
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気づくと辺りは不思議な真っ白い空間。
「やぁ、異世界へようこそ〜! 僕は…面倒くさいから神って呼んで〜」
「……へ?」
ナツキもまた異世界転移してしまったのだった。