03話 その男、最凶につき 3
……ねぇ、ねぇってば!
……ん?なんだ?
意識ははっきりしてるはずだよ、しっかりしてよぉ!
なんだ、ここ。
辺りは真っ白で上下左右の感覚のない不思議な空間。アリスの目の前には子供のような何かがいた。
なんだ? このガキは、さっきまで木にもたれかかってたはず……
「やぁ! 異世界へようこそ!
ボクが君をこの世界へ送った張本人さ〜!
この空間はまぁ、夢の中みたいなもんさ。
ボクは……神、ではないんだけども。明確にはね〜。
でも神様と同じくらいどうしようもない存在だから『神様』って呼んでもいいよ〜。
ところで異世界1日目のチュートリアルは楽しかったかい?」
一方的に話す、神と名乗る子供は、
12〜13歳くらいの男の子とも女の子とも取れる見た目であった。顔立ち的にはどちらかというと美少年顔か。
髪が地面(これは地面といえるのか?)に着くかという程に長く、毛先を3つに分け、結っている。
髪の毛の色はたくさんの色を混ぜたような不思議な色で瞳の色も同じような感じだ。
そんな事より……
「なーにがチュートリアルだコラァ! お陰で散々な目にあったわ!!」
神のこめかみを万力の様にぐりぐりするアリス。
「痛い痛いいたーい!! やめてよ、もお!! せっかくチュートリアルをクリアした君にはチート能力をあげようと思ったのにぃ!!」
涙目になりながら訴える神。
パッと手を離すアリス。
チート能力……?
「よっしゃキタアアア!!! これよこれえ! 異世界といえばチート能力で無双! ったく遅えっての神さんよお、んで、どんな能力? 炎を自在に操るとか?それとも能力無効化?」
神を抱き上げ、下ろしたかと思えば肩をバシバシ叩き騒ぐアリス。目がキラキラと輝いて嬉々としている。
「ちょ、ちょっと待ってよ! ……コホン。これからする質問に答えて貰いそれによって君の能力が決まるんだ〜」
「えー、なにその面倒くさい設定」
アリスは明らかに不満そうな顔をする。
「決まりなの! 絶対に正直に答えないとダメだからね〜? それじゃ、始めるよ〜【あなたは嫌いな食べ物がありますか?】」
訳のわからない神の質問コーナーが始まった。
「……は? なんだそのくだらねえ質問」
「いいから答えて! 正直にね〜」
「……辛いもの」
「ふーん、じゃあ次の質問。 【あなたが好きなことを教えてください。】」
「俺だな! 俺さえ良ければ後は大抵どうでもいい!俺は俺を幸せにする為に生きている!」
「そ、そう……。では次の質問。 【あなたはーーー」
こんな質問が10つ程続いた。
「結果発表〜! 【あなたは傍若無人でケチで卑怯で単純な性格です!
敵がたくさん出来そうですね! クワバラクワバラ……そんなあなたに合うチート能力は……、一撃必殺! 『絶対神罰』です!】おお! 大当たりだよ〜!! アリス君!」
ヒューパチパチどんどんぱふぱふっ
と神は口笛を吹き拍手し盛り上げている。
「……性格診断の内容は気にいらねえが、なんだその『絶対神罰』とやらは」
「触れた物を問答無用で物質変換する能力さ! ただし制限がーーーー」
「うおおおおお!! マジかよ! チートにも程があるだろ! よし俺は決めたぜ。 魔王を倒す」
神の言葉を遮る程に、アリスは興奮を抑え切れない様子。
「ちょちょちょ! よく聞いて! その能力には制限がーーーー」
「でもなー、楽勝過ぎてもつまんないよなー。 てかこういう場合仲間いるよな?
おい、神。 他にも誰か俺がいた世界からこの世界に来てるやついるんじゃねぇか?」
「い、いい質問をしてくれた! ハア、ハア……! でもその前に! 聞いて欲しいことがーーーー」
「まぁ誰が来てもこの俺の『絶対神罰』には勝てねえだろうけどな! がはははは!!
……ん? なんか意識が遠のいてき……た……」
「あー!!! もお! なんでこのタイミングで目を覚ますのさ! もう知らないからね! ばーかばーか!!」
アリスの意識は途切れた。
ーーーーー翌朝。
「ん……くぁ……」
目覚め、伸びをするアリス。
朝だろうか昼だろうか、辺りはすっかり明るくなっている。
「やっぱり異世界に来ちまってるんだな」
昨日から景色は変わっていない。アリスは異世界転移した事を確信する。
てことはぁ、つまりぃ?
昨日の神から貰ったチート能力も夢じゃないってことだよな!!
起きてすぐだがアリスはテンション高く、
うおおおお!っと小踊りする始末。
「『絶対神罰』、問答無用の物質変換か ……試してみたいな」
とりあえずは昨日から何も食べていない。何か食べ物に物質変換してみるか。
強力な武器とかに変換もしてみたいけど、まあその後だ。
アリスは先ほど寄りかかっていた木に触れる。
そういえば、どうやって発動するんだ?
んー、何となく念じてみるか。
『絶対神罰』!食べ物へ変換!
アリスの手と木が一瞬、仄かにに光ったかと思えば、ポシュン!っと木が何かに変わった。
「これは……焼きそばパン?」
そこには袋入りのホカホカ焼きそばパンが落ちていた。先ほどまであった木は根っこから消えている。
ま、まあ焼きそばパン別に嫌いじゃないし!
でも何で焼きそばパン? 他にもたくさんあるよね?
そう思いつつも腹は減っている。
アリスはあっという間に焼きそばパンを食べきった。
「味は普通だな。でもせっかくだしステーキとか食いてえな! 極厚のやつ!」
アリスは別の木に触れ念じる。
『絶対神罰』! 極厚ステーキに変換!
再度、手と木が光る。
ワクワクドキドキ。ステーキなんて食った事ねーぜ!全く便利な能力だよなあ。
ポシュン!
そこには焼きそばパンがあった。
おいいい!!! なんでまた焼きそばパン!?
俺確かにステーキって念じたよな!?
ステーキになれ!寿司に変われ!アヒージョ!アクアパッツァ!ビーフストロガノフ!
無作為に木に触れ変換させるが、全て焼きそばパンになった。
「嫌な予感が……」
アリスは焼きそばパンを全て食べると、二度寝する事にした。
ーーーーーーーーーー
「おい」
「いやー、ボクも長いことこういう事してるけど逆に呼び出されたのは初めてだよ〜」
「初めてだよ〜。 じゃねえ!!!
なんだあの能力は! 焼きそばパンにしか変換出来ないんだけど!」
「え、好きなんでしょ? 焼きそばパン。 不良の主食は焼きそばパンだって聞いたよ〜?」
アリスが鬼の形相で迫り寄るが、
神は。はて?といった様子。
「いやそれ間違ってる! 第一俺は今不良じゃねえ!」
「でもさ、でもさ! ボクも説明しようとしてたんだよ? 君がボクの説明聞かずに目覚めちゃうからいけないんだよ〜!」
「そんなの知ったこっちゃない」
「ひど! 確かに焼きそばパンにしか変換出来ないけど、一撃必殺には変わりないじゃん。
君の能力なら魔王だろうが勇者だろうが全て焼きそばパン(笑)に等しいよ〜」
「てめえ今(笑)つけただろ。 しかしその通りだ…やっぱり俺が最強だ!
俺に逆らう奴は全て焼きそばパン(笑)にしてやるぜ!!」
アリスは人差し指を天高く突き上げて
ごちゃごちゃ言っている。
「単純だな〜、自分で(笑)つけてるし。 まぁいいや、知ってると思うけどこの世界には魔法や剣術も存在するからそういうのにも手を出してみなよ!
異世界人は魔法や剣術の才能があるのが定石だし〜」
手をひらひらさせながら語りかける神。
「俺がこの世界の覇者となるのか!
国を作って王様になって……!
楽しくなってきたぞお!! よし、まずは金だ!
焼きそばパンを売って金持ちになる!」
「もう聞いてないや、それじゃあこのチート能力をぞ〜んぶんに駆使して異世界生活楽しんでねぇ〜」
「がははがははのは……は」
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こうして最凶の男、アリスこと有栖楓の異世界伝説が始まったのであった。
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【有栖 楓】
18歳高校生。元不良。
目つきが鋭いが、ルックスはかなりいい。
以前は金髪だったが、現在は癖のある黒髪を無造作伸ばしている。
性格は卑怯、横暴、ケチ、わがまま。
所持能力『絶対神罰』
触れた物を問答無用で焼きそばパンに変える能力。