26話 お父さん!? 魔王死んじゃったよ!?
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アリス、ヤマトは離れた場所で
ナツキとナーガによる猛烈な攻防を傍観している。
「す、すごいなナツキ、あんなに魔法を使えたのか……」
「そういえば、部屋でなんだか高価そうな分厚い本読んでたな。それが魔術教本か何かだったのか」
ナツキはギャンブルに買った金で、
街の本屋で1番高い魔術教本を購読していた。
まあ、それもナツキの散財の原因の1つなのだが。
「しかし、アリス。ナツキに任せて大丈夫なのか? 確かにあいつは俺達の中で1番強いだろうが……」
「バカやろう! 俺が最強だっつーの! 俺には素晴らしい作戦があんの!」
「どんな作戦だ?」
アリスは口角をグニャリと歪め、悪そうな笑みを浮かべた。
「俺の『絶対神罰』を使う」
「……まあ、お前の『絶対神罰』は一撃必殺の能力だからな、当てれば倒せるだろうが、触れる隙が無いだろう」
「その為にお前の『支配者』があるんだろ?」
「だとしてもあんな高速移動されてては目を閉じた後、何処にいるかわからんぞ? それこそ立ち止まってくれないと」
ナーガとナツキは常に高速移動しながら戦闘している。
ヤマトは間合いを測ったりするのは得意だが、
動きの速い敵を補足する事は、目を閉じる前と後の位置にズレが生じて困難を極めるだろう。
「まあ見てろって、そろそろだろうからよ」
「ふむ……?」
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「ブハハハ!! 確かに! 吾輩の腕を折るとはのぉ! お主のその強さに免じて、吾輩も本気を出すとするかの」
「おい、来るぞ! 能力の準備しとけ!」
「あ、ああ」
ヤマトは何がなんだかわからないが能力の準備(と言っても何もないが)をした。
段々とナーガの周りのオーラが濃くなる。
「見るがよい! 吾輩の本気の姿、第二形態という奴をな……!」
ナーガは第二形態とやらに変貌する為に力を溜める様な構えをしている。
「ぎゃははは!! やっぱり魔王は第二形態があると思ったんだよね! バカだあいつ、隙だらけだぜ!」
「……なるほどな。アリスらしい作戦だな、いや作戦か? これ」
「うるせえ! 早く俺をあいつの目の前に持ち運べ!」
「はいはい」
ヤマトは目を閉じ『支配者』を発動した。
そのままいつもの様に敵の位置を補足。
目を閉じたままアリスをナーガの目前に運んだ。
絵面的にはものすごく地味だ。
ヤマトは一応、距離をとって目を開けた。
作戦通りアリスはナーガの目前に、瞬間移動した形となった。
「はぁーい」
「うぉ!? なんじゃお主!? いつの間にそんな所にいるのじゃ、邪魔をするな、あっちへ行けい!」
アリスに気づいたナーガは驚きつつも
無視して再び力を溜めようとした。
「ほいっと」
アリスはナーガに触れた。
それだけであら不思議、今までナツキの強力な打撃や魔法を食らってもピンピンしていたナーガも
簡単に焼きそばパンに変換されてしまった。
「うぉぉぉぉ!! 俺が魔王を倒したぞぉぉ!!」
ぎゃはぎゃはと高笑いをしつつ、満面の笑みで焼きそばパンを掲げるアリス。
その頃ナツキは必死にアリスを巻き込まない様にありったけの魔法を連発していた。
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「俺にかかりゃこんなもんよ」
「あんたねぇ〜!」
ナツキは自身の攻撃の勢いが余り、
魔王城の遥か下層の床に埋まっていたが、なんとか脱出しアリス&ヤマトと合流した。
「ま、まぁまぁ、魔王にとどめを刺せなかったのは残念だが、ナツキも凄かったじゃないか! 魔王と互角に渡り合ってたし!」
ヤマトが怒るナツキを必死になだめる。
「私は私の数少ない頑張りというものを
こいつに利用された事が気に入らないの!」
「けっ、あのままだと負けてただろうけどな」
「お前がやらせたんやろがい!」
ナツキは余程気に入らないのか地団駄を踏む。
強化された脚力のせいで、それだけで頑丈な床にヒビが入った。
しかし当のアリスはそんな事はお構いなしに呑気に鼻くそをほじっている。
「……もう、なんかいいわ」
ナツキは諦めたかのような顔で遠くを見つめた。
「しかし、魔王も倒した事だしこれからーーー」
ヤマトが話している途中に、
急にアリスが思い立ったかの様に立ち上がった。
「ん? どうしたのアリス?」
「みててみてて」
アリスは力を溜める様な構えをした。
「見るがよい! 吾輩の本気の姿、第二形態という奴をな……!」
急にナーガの真似をし始めたアリス。
以外にもなかなか上手い。
アリスはセリフを言い終えると、
しばらく間を置いて焼きそばパンを指差し、口を開いた。
「第二形態」
…………。
「「「ぶわーっはっはっはっは!!!」」」
3人の笑い声は魔王城全体に木霊した。
「魔王の第二形態が焼きそばパンて! こんなもん食ってやる! あーむっ」
アリスは焼きそばパン(元魔王)を齧った。
ダッダッダ。
「惣菜パン如きが魔王名乗ってんじゃねーよ!」
ダッダッダ。
「ぎゃははははーーー」
「どぉりゃああああ!!!」
バキィ!!
「ぐへぁっ!?」
爆笑していると何者かから後頭部に飛び蹴りを喰らったアリス。
ナツキとヤマトはいきなりの出来事に驚いた。
「おおお、お主! 吾輩に一体なにをした!?」
「なにをしただぁ!? 俺のセリフだこのーーーッ!?」
アリスが悪態をつきながら振り返ると……
腰まで伸びた美しい銀白色の髪は
頭頂部にはアホ毛があり他も所々跳ねている。
透き通るような白い肌に特徴的な八重歯。
世間一般でいう幼女がそこにいた。
「なんだこのクソガキ」
「クソガキとはなんじゃ!」
幼女はアリスに向かってやいやい言っている。
「アリスこの子って……」
「ああ、そうだな……」
ナツキとヤマトは何か思い悟ったかの様な、悲しげな顔をしていた。
「魔王の娘じゃない?」
「天使みたいにかわいいな」
訂正。ヤマトは下衆な顔で涎を垂れ流していた。
ナツキがヤマトの頭を叩く。腕力も強化されているので頭が勢いよく床に叩きつけられた。
「痛いが……それもイイ!!」
「こいつ気持ち悪いの……そんな事より
なんじゃお主ら!? 何故いきなり吾輩を子供扱いしておるのじゃ!?」
「だってどう見たってこと子供じゃん」
ナツキが水魔法で水鏡を作り出し幼女を写した。
「ノォォォォ!! なんじゃこりゃ!? 魔王である吾輩のあの逞しい身体がこんなちんちくりんに……!?」
「魔王なら俺が倒したぞ」
「そんな訳あるか! 現に吾輩はここにおる!」
「俺の能力で変えちまったんだよ、これに」
アリスは食べかけの焼きそばパンを幼女に見せた。
「それ吾輩ぃぃぃぃぃぃ!?」
「うるせーな、ガキのしつけがなってなかったんだな、ナーガとかいう魔王は」
「魔王だしね、子育ては向いてなかったんだろうね」
「だーかーら! 吾輩が魔王なんじゃって!」
なんでまた名乗らねばならんのじゃ、などとブツブツ言いつつも幼女は3人の前に出て、
コホン、と咳払いをし踏ん反り返った。
「吾輩の名は 第 六 天 魔 王 ナーガ!吾輩を崇め、平伏し、畏れおののけ!ブハハハハ!!…エホッゲホガハグハッ!……ちょタンマ」
むせたのか、幼女は涙目で嗚咽している。
「第六天魔王だぁ?」
「第六天というのは、仏教でこの世を3つに分けた内の1つの欲界、
というのは天界の下層6天を含むのだが、その内の最上天の他化自在天の事を指す」
「よし、なに言ってるのか全然わからん」
ヤマトの説明にアリスは無意識に口があんぐりと開いていた。
「要するに欲界というのは人間界を含むのだが、それを支配する者という事だな」
「かの有名な織田信長も第六天魔王を自称してたって話も有名だよね」
「なんじゃお主、吾輩の前名を知っておるのか?」
「おいおい、ナンシー。このガキをどうにかしてくれよ、こいつ自分を織田信長だと思ってやがるぜ」
「オウ、アリス! 確かにこいつは事件だな!……って誰がナンシーか!」
急にアメリカのコメディドラマかのような口調をしだすアリスに、ノリツッコミを入れたナツキ。
ナツキはそういうのもイケるらしい。
「じゃから吾輩、この世界に来る前の名前は織田信長じゃったってば」
「「「…………は?」」」
今度は3人して無意識に口があんぐりと開いてしまった。