25話 2ndラウンド!
ーーー魔王の間。
「なんだナツキ、トイレでも行ってたのかよ?」
「いやトイレにしては早いだろう」
「デリカシーなしか! ……いや、実際そんなとこだけど。とにかく、女の子にそういう事言うとモテないよ!」
「ぐほぁッ!!」
アリスはモテない事を気にしている。
それをハッキリと言われて、酷いダメージを受けた。
「ふっ、アリスも俺に比べればまだまだ子供だな」
ヤマトは見た目は好青年だ。更に面倒見も良い為、以外とモテる。
膝をつくアリスを見下し余裕の表情を浮かべている。
「私はヤマト君の方がナイけどね」
「ぶるぅぅあ!!」
ナツキに一刀両断されたヤマト。男陣は2人して膝をついた。
「……もうよいかの?」
どうやら魔王ことナーガはずっと待っててくれていたらしい。
「う、ごめんなさい! でも次は本気で行くよ!」
「おー! やれやれ!」
「なちゅきー、がんばえー!」
小うるさいアリスとヤマトを無視して、
ナツキは『百獣の巫女』を発動した。
「先刻と変わった様には見えんが」
「それはどうかな……っと!」
変身こそしたが一見、その姿は先程と同じ
モード、ユキヒョウ&ゴリラだ。
ナツキは強く踏み込み、ナーガへ向けストレートを放った。
その疾さはこれまでの比ではなかった。
爆発したかのような凄まじい衝撃音が鳴り響く。
見れば、ナツキが蹴った地面は抉れていた。
「ほう……」
ナーガにはこれも受け止められた。
しかし、今までの攻防ではナツキの拳や蹴りを払うのみだったが、このストレートはしっかりとその掌で受け止めていた。
「身体強化魔法を使ったんじゃな」
「お、流石は魔王だけあるなあ、一発で見抜くとは」
身体強化魔法は気属性に属する。
効果はシンプルで筋力や反射速度などを強化する魔法だ。
その効果の大小は魔力レベルの高さに比例する。
「身体強化とはいえ目まぐるしい破壊力の向上じゃな」
「元々の身体能力が高いほど上げ幅も増すからね!」
「しかしこの力、それだけとは思えんがの……」
ナーガは見定めるかのような目でナツキを見ている。
「おいナツキ! 本気出してんのに何でまたゴリラなんだよ!」
「もう! 今度はなに!」
均衡状態の中、アリスが口を挟んだ。
「パンチ力ならモンハナシャコとかの方が強いだろうが!」
「いや、色々問題あるから! ……ヤマト君、こいつよろしく」
「御意」
ヤマトはアリスを連れて離れた場所へ移動した。
「これで心置きなく戦えるでしょ」
「おぉ、分かっておったのか」
ナーガが攻撃を仕掛けなかった理由はどうやら、アリスとヤマトにあったようだ。
「では、始めようか」
「いくよ!」
ナーガは腕を振りかぶり、ナツキは得意の後ろ飛び蹴りの体勢に入った。
「暗波」
ナーガがそのまま腕を振るうと、黒い衝撃波がナツキに向かって放たれた。
「くっ、そっちもやっぱ詠唱破棄か! 浮遊!」
ナツキは咄嗟に空魔法、浮遊により緊急離脱。
ナーガの放った暗波の通った後の地面は見るも無残に酷く抉れていた。
食らえばただでは済まなかっただろう。
「だったらこれでどう? 水牢!」
水魔法、水牢。水で相手を囲い、動きを封じる魔法だ。
ナツキは浮いたまま魔法を発動し、ナーガの周りに水が発生させ水球の中にナーガを閉じ込めた。
「小賢しいぞ、こんなもので吾輩がーーー」
「まだまだ! 氷結槍!」
熱魔法、氷結槍。氷の槍で相手を貫く魔法。
水牢に向け、氷結槍を放ったナツキ。
氷結槍は水牢に直撃し、そのまま水牢を周りの水分ごと凍らせた。
巨大な氷塊となったナーガはゴトリ、とその場に墜落した。
「やったか!?」
「ちょっと! 死亡フラグ立てないでよ!?」
ヤマトがテンプレ死亡フラグを立てたところで
氷塊に亀裂が入り、内側から弾け飛んだ。
「面白いのぉ! 水牢と氷結槍で擬似的に氷獄を演出するとは! 少し効いたぞ?」
氷塊を弾き飛ばしたナーガは禍々しいオーラを纏いながら、楽しそうに笑みを浮かべている。
しかし、その目線の先にナツキの姿はない。
いつの間にか魔王の間全体に砂埃が舞っていた。
「ふん、くだらん。そんな初級魔法で吾輩の目を欺けるとでもーーーッ!?」
ナーガの鳩尾に強烈な衝撃が走る。
気付かない内に近づいていたナツキがショートアッパーをねじ込んでいたのだ。
すぐに距離をとり砂埃に紛れるナツキ。
「な、なんじゃ!? 全く姿が見えんかったぞ!?」
この砂埃の正体はナツキの発動した砂嵐という初級空魔法だ。
名前のような威力は無く、せいぜい砂埃を巻き上げ敵の目くらましなどに使うものである。
しかし、実際には至近距離で敵の姿が見えなくなる程の効果はない。
それゆえにナーガは狼狽せざるを得なかった。
ナツキは高速で砂埃の中を動き回り、
ナーガの隙を窺っていた。
(さっきのは効いてたっぽいな、一気に畳み掛けよう……!)
ナツキはナーガの背後から近づいた。
ナーガは気づかない。
よし! 今だ!
ナツキはナーガに重いローキックを放った。
体勢の崩れるナーガ。が、体勢を崩しつつも上体を捻り、ナツキを捕らえに掛かる。
その時、スルリと何かがナーガの腕にのび巻き付いた。
それはナツキの尻尾だった。
その見た目は黄緑色でとぐろを巻いており、ゴリラともユキヒョウとも違うが。
腕に巻き付いた尻尾を軸に、ナツキはジャンプした。
そのままナーガの腕に足をかけ、全体重を乗せ……
ダズンッ!!
そのまま己ごと地面に叩きつけた。
雪崩式腕ひしぎ固めである。
着地の瞬間、バキャッ! という脳髄に響く不快な音が聞こえた。
「関節技って地味だなおい!」
「しかし今、確実に魔王の腕を折れた音がしたぞ。これはひょっとすると一方的な展開になるかもな」
「……外れんな。馬鹿力じゃの、お主」
「能力のおかげだから! さあ、降参しなさい!」
ナツキは今だに腕を極めたままだ。
このまま続ければ、彼女の怪力を持ってすれば腕など引きちぎってしまうだろう。
「まだ、終わらんて」
瞬間、ナーガのオッドアイの両眼が同時に銀白色に輝いた。
「な!?」
「ほらの」
声のする方を見上げると自分を見下ろすナーガがいた。
ナツキのみ、虚空に向けて腕ひしぎの体勢のままそこにいる。
彼女は何が起こっているのかわからなかった。
「ナツキ、おばちゃんみたいなの着けてんだな」
「どどど童貞の俺には少し刺激が……!」
「おやおや、そんな格好をしていたんじゃな」
砂埃が晴れ、ナツキの姿が露わになる。
すると、何故か彼女は地味な薄茶色の下着姿になっていた。
「違うの! これは作戦なんだから!」
「お色気作戦?」
「そんな小娘になぞ、欲情するか阿呆」
「おい!?」
ナツキの尻尾を見ればそれはわかる。
実は、ナツキは2回目の変身でユキヒョウ、ゴリラの他にもう1つ、力を借りた生物がいた。
そう、ナツキは3匹の生き物の力を有していたのだ。
そして、そのもう1つの生き物とはカメレオンだ。
先程の不意打ちは、カメレオンの擬態能力と砂嵐とのコンビネーションで完全に身を隠していたのだった。
「どうやって抜け出したのかわからないけど、片腕で相手できるかしら?」
起き上がったナツキは浮遊で宙に浮かんだ。
「ブハハハ!! 確かに! 吾輩の腕を折るとはのぉ! お主のその強さに免じて、吾輩も本気を出すとするかの」
ナーガの周りの黒いオーラが段々と濃くなってきた。
ナツキ達に感じる事は出来ないが魔力が恐ろしい速度で上がっている。
「見るがよい! 吾輩の本気の姿、第二形態という奴をな……!」
やっぱ魔王って第二形態あるんだ!?
このまま長引かせてもやばそうだ、
次の一撃で決めないと!
ナツキは力を溜めた。
私の持ちうる最高出力、最高威力の魔法と打撃の同時攻撃を繰り出す!
けど、隙がないよぉ…!!
ナツキは大技を放つつもりだ。面と向かってでは対処されるか避けられる可能性があった。
そんなナツキにチャンスが訪れる。
何故か一瞬、ナーガが余所見をしたのだ。
「そこだあああ!! 豪爆発! 超風砲!」
ナツキは全筋力を最大限に使用したロケットスタートと同時に、自身の後方へ魔法で大爆発を起こした。
更に空魔法で推進力を上乗せした。
これにインパクトの瞬間、追加で爆発魔法を使うのがナツキが今、放てる最強の攻撃だった。
が、これが使われる事はなかった。
ナツキの狙った先にはナーガがいなかったのだ。
否、正確には代わりに何故かアリスがいた。
ナツキは急遽、軌道修正。しかし車は急に止まれない。
所ではないそのスピードを全て殺す事はとても無理だった。
ちょ、なんでアリス!? 止まれないんだけど!?
うわあああ!! 超風砲! 超風砲!
闇雲に空魔法を発動して、なんとかギリギリのところでアリスを交わす事が出来た。
すれ違う瞬間、ナツキは確かに見た。
満面の笑みのアリスと、彼に掲げられた焼きそばパンを。
ズガガガァァァァァァン!!!
勢い余ったナツキの攻撃の余波により、魔王城はほぼ半壊した。




