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今回の異世界転移民のチート能力は【無能】なようです。  作者: こうしさん
第2部 旅は道連れと言いますし。
23/27

23話 待ってたぜェ!!この瞬間をよぉ!!


それから一週間が経った。



「あれ? なんだあ?」

「またあの空間!?」

「うっ……! いつも皆が寝たあと暇だったからこういうのすごく嬉しい……!」


アリス、ナツキ、ヤマトが普段通り宿屋で寝ると(ヤマトは少し特殊だが)なぜか例の空間、

真っ白で、上下左右の感覚のない不思議な空間に3人は召喚されていた。


「やあやあ」


そして3人の目の前にはいつもと同じ、男の子なのか女の子なのかわからない、髪の長い子供、通称『神』


「なんの用だナメクジ野郎」

「な、ナメクジ!? どうしてそんな言われよう!?」


アリスの言葉にナツキがツッコむ。


「うるせーな、俺の中じゃ神様と言えばナメクジってのが相場なんだよ」

「だが、確かにアリスの言う通りだな。

あれ以来出てこなかったし、3人一緒というのも初めてだ、何かあったのか?」


ヤマトのその言葉にいつもニコニコしていた神の表情から笑顔が消えた。


「何も無かったんだよ……」

「「「え?」」」


消え入る様な神の声に聞き返す3人。


「だーかーら!! 何も無かったんだよ、この数日間! 全然何にも起きないよこの世界!!

異世界にきて数日経ってもまだ最初の街て!!」


神はマシンガンの様に3人を怒鳴り散らす。


「最初は良かったよ、3人がそれぞれと巡り会えて僕も上からニコニコしながら見守ってたよ。

街に着いた後もちゃんと情報も手に入れた様だし」

「だったらいいじゃねえか」


神のマシンガン乱射にアリスが口を挟む。


「いや、その後の酷さたるや!!」

「別に、普通通り過ごしてたぜ、なあ?」

「「うん」」


アリスの言葉に声を合わせ頷く、ヤマトとナツキ。


「ど こ が !!!

ボクは一応神様みたいなもんなんだからね!

ちゃんと見てたんだから!」


そう、確かにこの3人のそれから数日間は酷かった。


「まず、アリス君! 君はこの数日間なにしてたんだい?」

「なにって、普通に食っちゃ寝するか焼きそばパン売るかしてたけど?」

「自覚あったのかよ! 冒険ファンタジーしろよ!」


アリスはこの数日間、ろくに情報収集や冒険もせず、食っちゃ寝するか、気が向けば焼きそばパンを売り日銭を稼ぐといった毎日を過ごしていた。


「ぷぷー! アリス君ってばまるでニート!」

「金稼いでんだからニートじゃねえだろ」


ヤマトがアリスを茶化した。


「いや、君も酷いから!」

「む、しかし俺はちゃんと情報を仕入れようとしていたぞ」

「でも君、補導されたよね?」

「あああああああ!!!」


ヤマトは真面目に情報収集をしていた。

が、やり口は小さな女の子に向かい、

「ねぇ君、魔王について何か知ってる事ないかな? お菓子あげるからこっちおいでよ」

といった感じだった。

それにより周辺住民から不審人物が出没していると苦情が殺到。衛兵に現場を目撃され、敢え無く補導された。幸いにも、別段なにか間違いを起こした訳では無かったので厳重注意で済んだが。


「ぷーくすくす、ヤマト君ってばまるで性犯罪者ー!」

「すごく傷つくからやめて」


さっきのやり返しと言わんばかりにアリスがヤマトを茶化す。


「全くもう、 2人は本当にだらしないんだから」

「君なんて最早、終わってるよ」

「え?」


その2人を見ながらため息をつくナツキに対し、ゴミを見るかの様な目で神が言う。


「ナツキちゃん、君はこの一週間なにしてたんだい?」

「な、なにって、生活の為にお金を稼いでたけど……」

「ギャンブルでね」

「ぐはぁ!!」


ナツキは極度の依存癖の持ち主。

実はあれからなんとなーくまた賭博場に行き、それからのめり込んでしまっていた。


「またやっていたのか……」

「あ、てめえ! あの金はそれで借りたのか!」

「ぎくっ」


ナツキは正直、運もいい。ギャンブルをしても大抵勝つ。

が、彼女は勝った時の金は、その日の内に大胆に使ってしまうので手元には残らないのだ。

アリスとヤマトは時々ご馳走になっていたのだが、何故ナツキがこんなにお金を持っているのか疑問に思わなかったのだろうか。


「で、でもお金もちゃんと返したもん!」

「そういう問題じゃなあーーーい!! ヒロインとして君は終わってるよ、このヒモイン!!」

「ひ、ヒモ!?」


ヒモなヒロイン、略してヒモイン。


「いいかい? 君達は異世界転移者なんだよ?

そんな君達がこんな体たらく、あんまりにも酷すぎるよ!」


3人は返す言葉が無かった。


「大体、ボクの役目は君達に能力をあげた時点で終了してるんだ! なのに君達ときたらーーー」

「あの、神様? ずっと思ってたんですが、口調が前と違いません?」

「……だから、ボクは怒ってるんだ」


ヤマトの指摘に凄みを入れて返す神。


「しかしよぉー、肝心の魔王の居場所なんて誰も知らないっぽいぜ?」

「いや、当たり前でしょ! 魔王がそんな一般市民に居処が知れ渡ってたらおかしいでしょ!」


怒鳴りすぎて疲れたのか、神は大きなため息を吐いた。


「……仕方ない」


3人が黙っていると何か呟いた神は指をパチンと鳴らした。


「はい、事象改変。これで君達は簡単に魔王に会えるよ。倒すなり、世界の半分を貰うなり好きにすればいいさ」

「「「え」」」


3人はなにがなんだかわからないといった様子だ。


「こんなサービスあり得ないんだからね! じゃあ最後に。目が覚めたら宿屋の女将に魔王の居場所を聞きなさい〜、さすれば道は開かれるであろう〜」

「え、ちょ!なんの……こ……」


その言葉を最後に3人の意識は途切れた。



ーーーーー翌朝。


「ま、夢じゃねえよな」

「そうね、でも最後のなんだったんだろ」

「言われた通り宿屋の女将に話しかけるしかないだろう」


目が覚めた3人、神の言う通り宿屋の女将に話しかける。


「おはようございます」

「おはようございます。すみません、聞きたいことがあるのですが」

「はい? 何でしょう?」


話しかける役目はヤマトが担った。


(けっ、たかが宿屋の女将が魔王の場所なんて知ってるわきゃねーだろ)

(まあ、確かにねー、しんじらんないよね)


アリスとナツキは後ろでコソコソと話している。


「あのですね、僕達、魔王を討伐しようと思ってまして、魔王の居場所をーーー」


ガタンッ


急に女将がカウンター越しに前のめりなり、ヤマトに顔を近づける。その表情はいつもの柔かものとは違った。

ヤマトはいきなりの事にビクついた。


「……その話を何故私に?」

「あ、あの、女将さんが知っていると風の噂で聞きまして……」

「……ついて来なさい」


女将に店の裏側に案内される3人、

案内された場所には随分古そうだが堅牢な小さな扉があった。

扉には複雑な魔法陣の様なものが彫られている。


「こちらです」

「あの、こちらですとは……?」


ナツキが苦笑いをしながら女将に尋ねた。


「ですから、この扉の向こうに魔王がおります」


衝撃の言葉に3人の思考が止まった。


「ちょ、ちょっと待てよ! なんでこんな小さな扉の向こうに魔王!?」

「ああ、すみません。正確にはこの扉には転移魔法陣が組み込まれてまして、扉に手を触れてそちらを使えば魔王の間にワープできます」


意を決して口を開いたアリスに女将が付け足す。


「あ、成る程そういうことね」

「いや、納得するんかい!?」


ポンと手を打つアリスにナツキが鋭いツッコミを入れた。


「しかしまあ、こんな近くにあるとはなあ」

「あ、でも神様が言ってた事象改変ってこれの事じゃない?」

「こんな所でなに言っても仕方ねえだろ。

とにかく転移魔法でとっとと魔王討伐に行こうぜ」

「あんたは気楽でいいよね。でも私たちのチート能力があればきっと勝てる! 私には魔法もあるし〜」

「あ、そういえばてめえ俺にも魔法教えろよ!」

「やだよーっだ!」


もう行く気満々のアリスとナツキは、

はしゃぎつつも既に扉に手を触れている。


「ヤマトも早く行くぞ!」

「あ、ああ!…… 所で女将さん。どうして女将さんが魔王の居場所を?」


アリスに急かされたヤマトは扉に手を触れつつ女将に疑問をぶつけた。


「どうしてって……、私は魔王様の側近ですから」


女将が一瞬、黒い霧に覆われ姿が変わった。

角が生え、見た目としては悪魔を思わせる姿だ。


「「「えええええ!?!?」」」

「それでは、いってらっしゃい」


3人はもはや驚きを隠す事もなかった。

女将が3人に手を振りながらそう言うと扉が眩く光りだした。



転移魔法発動

座標は魔国:魔王城:魔王の間

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