22話 そうだ、異世界で情報収集しよう–ヤマトの場合–後編
ヤマト達を乗せた荷馬車は、
道中、盗賊の襲撃などを受ける事はなく、道を塞ぐ数匹の魔物を退治したのみでその日は済んだ。
今は、簡易的なベースキャンプを作って食事中だ。
商人は数人いて、ヤマト達を含め交代で見張りをしている。
今日は盗賊に襲われる事はなかったが、
剣を持てば弱い魔物くらいなら勝てるな。
俺ってもしかしてまあまあ強かったりする?
「しかしさっきの魔物は堅すぎて刃が通らなかったな。なんて魔物なんだ?」
「さっきのはトレント種だね。アンタの持ってる安物の剣じゃそりゃ無理だろ。ま、あんなノロマは相手にしなくていいさ」
「だったら早く言ってくれ! 必死に叩いてた俺が馬鹿みたいだろう!」
「アンタは馬鹿だろ?」
その言葉だけでいとも簡単に論破されたヤマトだった。
「因みにトレントにもいろんな種類があってね、
さっきのは比較的脆い方だよ。アンタらが魔界に行くってんならもっと堅いやつもいる」
「そ、そうなのか……」
ナツキが余裕で粉砕していたトレントはどうやらもっと堅いようだ。
ヤマトがそれを知る術はないが。
「ところでディアンネさん、あなたは本当に戦闘が出来ないんだな。魔物も全て俺が倒していたし」
「あ、ああ、そうだね。その代わりアタシは隠密や尾行、索敵とかが得意さね」
「まあ人には得手不得手があるからとやかくは言わないが、だったらわざわざ冒険者ランクを上げる必要はないんじゃないか? ランクを上げてしまえば下位ランクのクエストは受けられないのだろう?」
冒険者のランクはS級・上級・中級・下級・見習い、といった具合になっている。
それぞれ受けられるクエストのランクが決まっており、自分の冒険者ランクのそれ以上のクエストも以下のクエストも受注できない。
「そ、それは……」
途端に神妙な面持ちになるディアンネ。
「……アタシには弟がいるんだ。」
「弟?」
「ああ、今年で15歳になる。弟は病気でね、治療の為には高額な金が必要なのさ」
「クエストはランクがあがる程、報酬も高額になる。だから冒険者ランクを上げたいのか」
「そういうこったね。ま、このクエストが終わればアンタに会う事もないだろうし、頼る事もないから安心しな」
ディアンネは早く話しを切り上げたいのか、立ち上がった。
「なるほどそういう事か。その弟の面影を俺に写してーーー」
「いや、それはない」
まるで漫才かのようなボケとツッコミ。
「プッ」
ディアンネは堪えきれず吹き出してしまい、ヤマトの肩をバシバシ叩きながら高笑いした。
「あっはっはっは!! アンタやっぱり面白いね!」
「いや、なにが? ……ぷっ、あっはっは!!」
ヤマトは目が点になっていたが釣られて可笑しくなってしまった。
2人は暫く大笑いしていた。
「はあー。ふぅ、最高だよアンタ」
「そりゃどうも」
次第に落ち着き、ディアンネが口を開いた。
「じゃあアタシはちょっと……」
「ん? どこに行くんだ?」
「女にそういうの聞くもんじゃないよ」
(ああ、なんだトイレか。覗きたいが周りの目もあるしやめておこう)
恐らくヤマトは周りの目が無くてもヘタレなので、実際に覗きは出来ないだろうが。
ディアンネが戻って来たのは夜明け前だった。
ーーーー翌日。
「冒険者殿、ありがとうございます。
では私共は契約手続きを済ませて来ますので、帰りも護衛、よろしくお願いします」
この日もとくに襲撃などはなく、まだ日の明るい内にカルムリンクに到着できた。
カルムリンク。
魔界が比較的近いこの地域の中では一番大きな都市である。よく商人が出入りしている。
商人が用を済ませるまで時間が出来たヤマトとディアンネ。
2人はする事もないのでぶらぶら歩いていた。
「なぁアンタのその剣、新しいのに変えた方がいいんじゃない?」
「む、そうか?」
見るとヤマトの剣は買ったばかりだというのにかなりボロボロだった。
トレントを叩き過ぎたせいだろう。
「まあ愛着がある訳でもないし変えてもいいかもな」
「だったらアタシが選んでやるよ! アタシ武器に関しては見る目があるんだ」
そういってディアンネはヤマトから半ば強引に金を預かり、武器屋に飛び込んだ。
店内でガヤガヤ騒がし声がする。
暫くするとディアンネが出てきた。
「ちっ、あの親父、もうちょい負けてくれてもいいのによー」
一方通行な女だなとヤマトは思った。
「あ、これ貸しだからね」
本当に一方通行だなおい。
まぁ、確かに良さそうな剣だな。
扱いやすそうだし、礼は言っておこうか。
「べ、別に感謝してあげてもいいんだからねっ」
「アンタたまに反吐がでる程に気持ち悪いね……」
そんな事をしている内に帰還の時間になった。
ーーーーベースキャンプ。
「おかしいですねぇ、こんなに盗賊が出ないなんて。
商人会の報告では十中八九襲われたとありましたが……」
食事中、商人のうちの1人が訝しげな表情で呟く。
「なんでわざわざそんな場所を通るんだ」
ヤマトは最もな疑問をぶつけた。
「効率がいいんですよ。それにその盗賊達は最悪の場合、お金さえ渡せば商品に手を出す事は無いと言いますし。
まあでも、これだけ被害が出てるなら軍から掃討されててもおかしくないですけどね。」
要するに例え襲撃を受けたとしても差し出す金の損害よりも効率を重視した際の利益が大きいのだ。
また、運良く襲われないという事もありえる。
最悪の場合、というのは護衛の冒険者がやられた時のことだろう。
「ま、まあ襲撃されないのはいい事じゃないか!」
「うん? 確かにそうだが……」
ヤマトにはディアンネがなんだか落ち着かない様子に見えた。
「敵襲だあああああ!!」
その時、叫び声が聞こえた。
その正体は交代で見張りをしていた商人の内の1人で死にものぐるいでこちらに走って来た。
「何事だ!?」
「と、盗ぞーーー」
が、見張りの商人は言葉を最後まで言い終える前に、矢で頭を撃ち抜かれ絶命した。
いつの間にかヤマト達のベースキャンプは盗賊に囲まれていた。
「ぼ、冒険者殿! あとはよろしく頼みますぞ!」
そう言った商人達は馬車の荷台に逃げ込もうとするも
盗賊に行く手を阻まれていた。
「囲まれたか……」
どうするかヤマトが思いあぐねていると、
盗賊たちが何かを大量に投げ込んできた。
投げ込まれたものは煙を吹き出し、ヤマトと盗賊を包み込んだ。
「うっ、なんだこれはーーー」
「この煙を吸っちゃまずーーー」
煙を吸い込んだ商人とヤマトはバタバタと倒れていった。
煙が晴れると口元を覆った盗賊達がすぐ側に現れた。
「くっくっく……よくやったぜえ。ディアンネちゃんよぉ」
盗賊の頭領と思われる男が口を開く。
「すまないね、ヤマト」
その中には口元を覆ったディアンネもいた。
どうやら彼女は盗賊とグルだったようだ。
「それじゃ野郎共、積荷と金を回収しろ
商人とそのガキも縛って連れてくぞ」
「な!? 人間には手を出さない約束を昨日しただろ!?」
頭領の言葉にディアンネは憤りを見せた。
「そろそろ軍の掃討作戦も出る頃だしよ、最後に奴隷も仕入れとこうと思ってよ。もちろんお前も奴隷商に出すぜ、ディアンネ。今まで利用させてくれてありがとうよ」
「ッ! この下郎!」
ディアンネは頭領に飛びかかろうとする。が、
「おっと、変な気は起こすなよ。弟がどうなってもいいのか?」
「そ、そんな……」
ケタケタと頭領がいやらしく微笑する。
ディアンネは絶望に膝を崩した。
「成る程そういう事か」
誰かの声と共に側近の盗賊が1人斬り伏せられた。
声の正体はヤマトだった。
「な、なんだテメエ! なぜ何事もなかったようにしてやがる!?
ネムリ麻を燃やして出る煙は大の大人でも2日は目が覚めねえんだぞ!?」
「寝てたんじゃないか? 2日程。おかげで目がぱっちりだ」
ヤマトは確かに盗賊の奇襲により煙を吸い込み、
強烈な眠気によって意識を失った。
しかしその時、ヤマトの持つ『支配者』が発動。
ヤマトだけが目が覚めるまで時が進んだ。
周りの者の時は止まっている為、側から見ればヤマトは最早、そもそも眠っていなかった様に見えたのだ。
「な、なんだこいつ……! やべえ……!」
頭領は慄然としていた。
それもそうだ。己の部下が気付けば1人、また1人とヤマトに斬り伏せられているのだから。
頭領は何が起こったかまるでわかっていなかった。
「ふむ、あと6人か」
ヤマトは目を閉じる。『支配者』発動。
事前に見た光景を鮮明に思い描く。
その光景を元に、更に剣道で培った、間合いを計る能力を発揮し、敵の位置を割り出した。
あと2歩……1歩……ここだな。
目を閉じたまま、袈裟懸けに一閃。
手応えを確認すると目を開けた。
これも周りからはヤマトが一瞬で移動し、いつの間にか盗賊がやられてる様に見える。
「安心しろ、峰打ちだ」
「いやその剣両刃あああ!! 峰ないからあああ!!」
とは言うが実際、やられた盗賊の切り口は浅い。
「残り5人だな。今なら治療も間に合うだろうがどうする? これ以上やるというならいくらお人好しの俺でもーー!」
「く、くそッ! お前ら! ずらかるぞ!!」
盗賊達は負傷者を背負いながら逃げていった。
「ふん、……さてと」
ヤマトは地面に膝をついたままのディアンネの元へ近づいた。
「や、ヤマト……! そ、そうさ! アタシはアンタを騙していたのさ! 今更許してくれとは言わない、切りたきゃ切りな!」
「ディアンネさん……」
ヤマトはディアンネに向け剣を振りかぶった。
ディアンネは覚悟を決め目を瞑る。
しかし、斬撃が彼女を襲うことはなかった。
「この剣本当に切れ味いいな! お陰で盗賊を危うく殺すところだったぞ!」
ディアンネの前でブンブンと素振りを見せるヤマト。
その声色は揚々としており、微塵も怒った様子は感じられない。
「なッ!? あ、アンタ分かってんのか!
アタシはアンタを罠に嵌めたんだよ!?」
ディアンネは困惑を隠しきれなかった。
「分かってたさ、最初からな
俺は体質というか、寝る必要がない身体なんだ
だからあなたが夜中コソコソしていたの知ってたよ」
「だとしても、なんで……」
ヤマトは真っ直ぐな瞳で口を開いた。
「俺はあなたに借りがあるのだろう?」
ーーーーー
「貸しにはしないからね!」
「ああ、もちろんそのつもりだ」
ヤマトは残った商人の目が覚めるまでディアンネに後を任せる事にした。
「じゃあね、アンタの事は忘れないよ」
「こちらこそ。弟さんによろしくな!」
その言葉を最後に2人は別れた。
ヤマト……か。
面白い奴だったな。また、会えるといいな。
ディアンネは後ろ手を振るヤマトを
彼が見えなくなるまで見送った。
ーーーーー宿屋
「といった感じだったな」
「ふーん、みんな大変だったんだね」
「だけどよ、大漁じゃねえか! 俺はDr.ハックとかいう奴について、ナツキは魔法、ヤマトは裏ギルド。これで魔王討伐も間近だな!」
3人は合流してそれぞれの情報を共有した。
「ねえ、でも肝心の魔王がいる魔国ってどこなの?」
「「あ……」」
シーーーーン。
(((ま、誰かが調べてくれるだろ、俺(私)はもう疲れた。あとはよろしくー)))
やはり、このパーティは問題児だらけであった。




