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今回の異世界転移民のチート能力は【無能】なようです。  作者: こうしさん
第2部 旅は道連れと言いますし。
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21話 そうだ、異世界で情報収集しよう–ヤマトの場合–中編


「アンタ、昨日も冒険者ギルドに来てたね。

その時はなんだかおかしな格好をしてたけど」


ヤマトは今、女盗賊風の冒険者に話しかけられている。


「ーーーーー」


ヤマトは女が話している間、ずっと考えていた。


この人が全裸の俺を強い口調で罵りながら馬乗りになってくれれば最高にブヒれる、と。


「ーーーちょっと、アンタ。聞いてんのか?」

「あ、こりゃ失敬。ボーッとしてしまっていた」


失敬にも程がある。


「ったく、アタシの名前はディアンネ。

冒険者だ、よろしく」


ディアンネと名乗るその女は、握手を求め右手を出した。


「俺はヤマトだ、よろしく頼む」


そういってヤマトも右手をーーー出したかと思えばそのままディアンネの手を通り過ぎていく。


「……?」


ディアンネが困惑しているとヤマトはそのまま手を顔の近くに持っていき、左手も顔にもってきた。

そのまま顔の両隣でピース、目は白目を剥く程に上を向き、舌を出して下品に笑った。

俗に言う、アヘ顔ダブルピースである。


「……なんだい、それは」

「俺の故郷に古くから伝わる伝統的な挨拶のやり方だ。さぁ、ディアンネさんもやりたまえ。さぁ!」


ディアンネがゴミを見るような軽蔑の眼差しを向けるもヤマトは動じず、アヘ顔ダブルピースを強要した。


「……いや、なんだか知らないけど、やめとくよ」


(チィィィィィィ!!!!)


ヤマトは心の中で盛大に舌打ちした。

どうやらこの方法ならば美女にアヘ顔ダブルピースさせられると本気で思ったらしい。


「それで、ディアンネさん、何の用だ」


普通の顔に戻るとヤマトは平然と話しを進めた。


「アンタ普通の顔してた方が男前じゃないか。

いやなに、困ってそうだから声を掛けただけさ」


どうやらディアンネはギルド内での一部始終を見ていたらしく、

途方に暮れていたヤマトに声を掛けてみたという。


「なるほどね。冒険者になりたいが登録できない、と」

「ああ、そうだ。戸籍情報なんかがいるなんて意外だったな」

「前はそんなもの無くても誰でもなれたらしいんだけどね、帝都のお(かみ)さんが何年か前に条例として義務付けたんだ」


人界(じんかい)の中央部には大きな帝都がある。

未界(みかい)を除く4界の中で最も広大な人界を治める中央都市だ。


「なぜそんな事を?」

「簡単さ。冒険者を減らす為さ」

「冒険者を減らす? なぜそんな必要がある」

「冒険者というものは魔族に対して偏見を持たないからね。それが気に入らないのさ」


冒険者はパーティを組む事が多い。

より優れたメンバーと組んだ方がクエスト成功率は上がる。魔族は魔力量や筋力が人族よりも高い傾向がある為、人族の冒険者であったとしても魔族の冒険者とパーティを組む事も多い。

そうなれば魔族という種に対し、偏見など持つ事も無くなるだろう。


……なるほどな、冒険者が増えれば魔族に偏見を持たない、言わば魔族共存派の人間が増えるわけだ。

それは人族と魔族の戦争に置いて不利益だと言えるな。しかしーーー


ヤマトはまだ納得いかない事があった。


「なら最初からそうするべきではないか?

なぜ最近になってそんな条例を発令したんだ?」

「なんでも現在、魔国を治めている魔王があんまり過激な奴じゃないらしくてね。帝都としてはこの魔王の代で戦争に終止符を打とうと、躍起なのさ」


魔族の王、魔王。圧倒的な力を持つ魔界の象徴。

ファンタジーの世界ではよく、魔界には魔王が複数存在し、それぞれが各地を治めている、といったような事もあるが、

この世界の魔王は唯一無二の存在である。

だからと言って、魔王の家系がある訳ではない。

力に自信のある者が魔王に戦いを挑み、勝てばその瞬間から世代交代。

もしくは勇者に魔王がやられれば次の魔王を決める大会のようなものを行う。

魔王は絶対的な力を国民に示し続ける義務がある。何人(なんびと)の挑戦も受けなくてはならないのだ。


しかしどうやら現魔王は穏健派らしく戦争にも消極的なようだ。

帝都にとってそれは長年にわたる戦争の勝利へのこの上ないチャンスなのだ。


「そういうことか。では戸籍のない俺達はやはり養成学校に通うしかないのか……」

「それが違うんだなー、別に冒険者になる方法は1つじゃないぜ」

「え?」


肩を落とすヤマトにどうやら一つの光明が差したようだ。


「裏冒険者ギルドさ」

「裏冒険者ギルド……? なんだそれは」


冒険者ギルドとは民間団体だ。

しかし、冒険者ギルドが帝都に資金援助をして貰っているのも事実。帝都の出す条例には逆らえない。

そこで出来たのが裏冒険者ギルドだという。


「裏といってもやってることは普通の冒険者ギルドと同じだがね。別に犯罪めいたもんじゃないよ」

「そういうことか! 裏冒険者ギルドなら帝都に直接関与していないから条例のそれに従う必要がはないという事だな!」

「お、おう……なんだい、やけに物分かりがいいね」


つまりそういう事だった。

冒険者ギルドとしても冒険者は減らしたくない。

要は冒険者ギルドが同団体を別名義で作ったのだ。

帝都も資金援助をしていない団体に対しては何も言えないのだろう。


「それで裏ギルドとはどこに?」

「裏ギルドはその性質上、数を増やす事が出来なくてね。魔国に一つだけあるよ」

「魔国というと魔界か。それなら尚更帝都も手を出せないからか」

「そういうこったね。ま、アンタみたいな奴が冒険者になるには裏ギルドに登録するのが手っ取り早いだろうね」

「そうだな、ありがとうディアンネさん!

さっそくあいつらに伝えないとなーーー」

「ちょっと待ちな!」


礼を言いこの場を去ろうとするヤマト。

しかし、肩を掴まれ止められた。


「タダで情報をくれてやる筈ないだろう?」

「で、ですよねー」

「なあに、別に金取ろうって訳じゃないんだ。

ちょっとアタシの仕事を手伝っておくれよ」


多分ロクな事じゃないだろうな。

とヤマトは思ったが従う他、なかった。



ーーーーー



現在、ヤマトとディアンネは商人を乗せた馬車の荷台に乗っている。


「あのー、ディアンネさん? そろそろ仕事内容を教えて頂けないでしょうか」


ヤマトはディアンネに2、3日分の旅の支度をしな、と言われ一度、宿に戻って身支度をしてきた。

一応、護身用の剣も持っている。


「ああ、簡単な仕事だよ。商人と品物を隣街のカルムリンクまで護衛する、ランクCのクエストさ。

冒険者じゃないアンタも、アタシの手伝いならクエスト参加出来るからね」


ディアンネが情報の見返りとして求めたのはクエストの手伝いだった。

彼女は一応は中堅の初級冒険者なのだが

腕には自信がないらしく、冒険者ランク上げの為にCランク以上のクエストをクリアする必要であり、

中々冒険者ランクを上げられなかったのだという。


「え、ランクCクリア出来ないなら簡単じゃなくね?」

「だから手伝えって言ったのさ! 安心しな、報酬は山分けでいいよ」


ははは、と陽気に笑うディアンネにヤマトはやれやれと気の抜けた溜息を吐いた。



馬車に乗った彼らが向かう先はカルムリンクーーー。




《クエスト(手伝い):商人をカルムリンクまで護衛せよ》

商人と荷馬車に乗った品物を無事にカルムリンクまで護衛せよ。

尚、道中は盗賊のアジトがある為、腕に自信のある者を希望との事。

報酬は金貨2枚。

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