20話 そうだ、異世界で情報収集しよう–ヤマトの場合–前編
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それは、ヤマトの異世界転移初日の晩の事である。
彼にとって悲劇が起こった。
「ふぁあ……よく寝たな。」
異世界1日目を終え、宿屋で安眠できたヤマトは清々しい気持ちで目が覚めた。
3人は一緒の部屋で寝ている。
ナツキは女の子だが、1人で寝るよりはまだマシだとの事だった。かまってちゃん気質の彼女こそである。
「む? まだ2人は寝てるのか」
見るとアリスとナツキはまだ寝ている。
無理もない。2人は俺より早く異世界に転移してきたしな、そりゃあ疲れてるだろう。
そっとしておくか。
「さて、初めて見る、異世界の朝日とは一体どんなものかな!」
そう言って窓のカーテンを開けるヤマト。
外はまだ真っ暗だった。
あれぇー?
早く起きすぎたか? それにしても真っ暗過ぎるな。
俺の体内時計は老婆と同じか?
いやいや、待て。そういえば俺も疲れてるわ。
ゴブリンの大群に襲われたし。二度寝しよう。
そう思いカーテンを閉じ、再び布団に入るヤマト。
目を閉じると本当に疲れが溜まっていたのか、すぐに眠る事ができた。
ーーーーー
「くぁ……ふぅ、さすがに寝過ぎたかな?」
しかし見ると2人はまだ寝ていた。
こいつらもよく寝るな、とヤマトは思った。
「今日は情報収集しないといけないからな、ほら起きろ2人共ーーー」
そう言いながらカーテンを開けるヤマト。
外はまだ真っ暗だった。
あっれれー☆ おかしいぞー?
いや本当におかしい。
体感的には20時間は寝たぞ!?
なぜまだ真っ暗なんだ?
「ま、まさかこの世界のカタストロフィが近づいているというのか……!!」
……なんてな。つまらないループ物じゃないんだし。
そう思い、ヤマトは再び布団に潜り目を閉じーーー
ん? 目を、閉じ……? あ。
ヤマトはようやく気づいた。
ぬあああああ!!! 俺は「目を閉じた」!!!
『支配者』が発動していたのか!!!
そう、ヤマトが寝ても寝ても辺りが真っ暗なのは『支配者』の能力で時が止まっていたからである。
『支配者』は目を閉じた時にしか使えず、しかも完全自動発動。
そりゃもちろん、ヤマトが寝れば周りの時は止まるのだ。
待てよ。俺これ一生寝なくていい体と同義じゃね?
やったぜ! これで残業がいくらでも出来るな!
いや、ここは異世界。例えば見張り番なんてどうだ?
24時間見張る事ができる。セ◯ムなんて目じゃないだろ!
「ふ、ふふ、ふはははは!!!」
嫌だああああ!!! なんで異世界に来て適職が見張り番なんだよ!そんな異世界転移、誰得!?
「アリスうううう!!起きてくれえええ!!
もう僕眠れない! 今夜は寝かさないからああ!!」
ヤマトは気が狂ったようにアリスに飛びつき揺さぶった。が、
「ぐがぁ……霊長類最強……女医」
アリスは自分のタイミング以外では絶対に起きない人間だった。
どんな寝言だ!!
あ、でも会ってみたいですその女医。
しかし、こいつは起きんな……こうなったら!
「ナ〜〜ツキちゅわ〜〜ん!!!
ヤマトはナツキの寝ているベッドに飛び込もうとするもーーー
ドパンッ
次の瞬間にはヤマトは反対側の壁に叩きつけられていた。
「ツ ギ ハ コ ロ ス」
「す、すみませんでし……ぐふっ」
「……すやぁ」
ナツキは性に疎いがガードは固い。ヤマトは寝ている彼女には近づかないと心に誓った。
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ヤマトは朝までどうするか考えた。
こんな理不尽を許せるものか
いっそこのまま闇落ちしてこの世界を滅ぼしてやろうか、などと考えた結果……
「2、3、5、7……」
朝まで素数を数える事にした。
「9967、9973……ジュルリ」
しかし、ただ数えるのも退屈なので素数の数だけ女体を妄想して。
そんなこんなで朝を迎える事ができたヤマト。
「おい、朝だぞ。起きろー」
「んん……朝ぁ……?」
ヤマトがナツキを棒でつつくと彼女はすぐに起きた。
ナツキは寝覚めはいい。
まあ人に起こして貰わない限りは絶対に起きないが。
仮に、寝ている彼女をイカダに乗せ、海に流せば
誰も起こしてくれないので寝たまま死ぬだろう。
「って何泣いてんの? ヤマト君」
「うぐっぐ……! 寂しかったんだ……!」
ヤマトは男泣きしていた。
これが彼の異世界初日の悲劇の一部始終であった。
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「それじゃ、私はここで待ってるからヤマト君!
情報集めよろしく〜」
「あのなぁ……」
ヤマトとナツキは冒険者ギルド前で別れた。
あいつは本当に人任せだなあ。
ま、いいか。ナツキは美人だから目立つし、
ギルドにいる冒険者達に絡まれても面倒そうだ。
ヤマトはギルドの扉を勢いよく蹴り開けた。
「オラアアア!!! 洒落臭ええええ!!」
(((え、なにが……?)))
ギルドにいた冒険者達はポカンとしていた。
あれ? 滑ったか?
せっかく冒険者の服装に変えたから舐められんように
冒険者感出したつもりだったんだが。
ヤマトは盛大に滑っていた。
昨日とは違う注目を浴びながらヤマトはギルドの受付に向かった。
「すみません」
「は、はい。ご用件は?」
昨日の人とは違う人だな。
しかしギルド職員は皆、美人だな。
そして巨乳。
ヤマトは職員を舐め回す様見ていた。
職員はだんだん涙目になってきた。
「あ、あのぉ……」
「ああ、すまない。冒険者登録をしようと思ってな」
ヤマトがギルドに来た目的。
それは冒険者登録をするためだった。
魔王を討伐すると言うなら冒険者になる必要はあるだろうし、情報も集まる。
さらに冒険者になるとが宿屋も割引される。良いことづくめだ。
「は、はい。冒険者登録ですね。少々お待ち下さい」
そう言うと職員は職員は何かの書類を持って来た。
「では、こちらに情報の記入と、戸籍情報かもしくは冒険者養成学校の紹介状の提出をお願いします」
え? 戸籍情報? 紹介状?
持ってないよそんなの。
異世界から転移してきた彼らにそんなものは勿論無かった。
「あの、持っていない場合はどうすれば?」
「どちらかの提出が無い場合、申し訳ございませんが冒険者登録する事は出来ません」
「なぁにいいい!?!?」
「ひっ!!」
出だしから大胆に躓いたヤマトはとりあえずギルドを後にした。
「む? ナツキはいないのか。まぁ大丈夫だろう」
3人に共通する所だが、彼らは何故かお互いに心配する様子全くない。
そんなところも流石、変わり者の集団といえよう。
「しかし、冒険者登録出来ないか……。
どうするかーーー」
「なぁ、アンタ! 面白そうなヤツだね!」
ヤマトの独り言を遮る声。
「む?」
ヤマトが振り返ると、
露出度のやたら高い軽装備。
腰にはダガーナイフ。
引き締まった身体でかなり巨乳。
これぞRPGの女盗賊といった感じの見た目の
緑髪褐色美女がそこにいた。




