02話 その男、最凶につき 2
どこなんだ? ここは……
思考が追いつかない。あれ?さっきまで見知った裏道を走っていたよな?
振り返るが道は……ない。
さっぱりわからんぞ、うん。
考えられるのは、ヨーロッパの何処かの国にいきなりワープ?
……いやいや、あり得ない。
さらに言えばヨーロッパでも流石にこんなに馬車は通ってないだろうし、おまけに鎧や武器を装備したやつらが平然といやがる。
そんな国は現代にはないだろう。
だとしたら、漫画とかでよく有る異世界転生?
「おお、まじか。
この場合俺は最強チート能力で無双する勇者って感じですかぁ? ……やべ、テンションあがる!」
ん? でもこういうのって転移前に能力貰えるのがテンプレだよなぁ?
グゥゥ〜〜
アリスの腹が鳴る。
そういえば彼はかなり走っていた。
「まぁ、その内わかるだろ。てか多分夢だし」
アリスは考えるのをやめた。
何か食べられるものがないか、探すついでにとりあえず歩こう。
アリスは適当にぶらつき始めた。
ーーーーー
「これはあれだな。 迷った」
適当にぶらつき過ぎたのかアリスは人気の無い所から出られなくなってしまい座り込んでいた。
腹も限界だし、足も疲れたし。
てか今日は色々予定があったんだよ! いい加減覚めろ夢! お願いだから覚めて下さい。
そんな事を思うアリスの隣に男が座りアリスの肩に腕を回してきた。
「おう兄ちゃん。 見ねぇ面だな。持ち物全部置いていきな」
「お、こいつ珍しい服着てますよ!」
「……」
どうやらゴロツキ3人組が絡んできたようだ。
今日はよく絡まれるアリスであった。
「あぁん? こっちは腹も減ってイラついてんだ。そっちこそぶっ殺されたくないなら失せろ」
座ったまま3人組を睨み、凄むアリス。
「ゴツィータさん! こいつ完全に舐めてますよ!やっちまいましょう!」
ゴロツキの内、チビでサングラスをかけた奴が騒ぐ。
「威勢の良いガキだぜ。お望み通り痛い目にあわせてやるよ。 その後は身ぐるみはぎはぎタイムだけどな! ガハハハハ!」
アリスの隣に座っていたゴツィータと呼ばれた男が立ち上がる。
確かに名前の通りこの男、かなりゴツい。
「俺はてめえに似た名前の最強の戦士を知っているけどよ、そいつはそんな噛ませキャラみたいな事絶対言わないがな!
いいぜ、相手してやるよ、かかってきやがーーーっておいおい、なんだよありゃあ……!」
最強の戦士とは一体何なのか全く分からないが、
ついに切れたアリスはゴロツキに怒声を浴びせる。
が、途中で驚愕の表情を浮かべ、ゴロツキの背後を見る。
「あん? 何かいるのか?」
ゴロツキが振り向いた瞬間、
「フン! てい!」
「ごふッ!」「ギャッ!」
アリスは右ストレート左ハイキックでゴロツキ2人を一瞬で片付けた。
お得意の喧嘩闘法「不意打ち」である。
「ぐふっ! き、汚ねぇぞ」
「騙される方が悪いんだよ。さぁ残りはてめえだけだぜ、まだやるか?」
「……」
今まで傍観していたスキンヘッドの無口な男に睨みをきかせるアリス
「 バカめ! 兄貴はな、あの『Dr.ハック』……の研究所の部下に改造を受けたお方なんだぜ、後悔するんだな!!」
「……」
ゴツィータが悶えながら言い放ち、無口な男はアリスに向けて腕を構える。
するとなんと、手首から先が外れ銃口の様なものが出現した。
「んなッ!?」
なんだ!?マシンガン?まさかレーザーじゃないよな!?
アリスは咄嗟に身を伏せる。
「もう逃げても遅いぜ!!! 兄貴の腕からはなぁーーー」
「……」
(やべえ!!やられる!!)
ジョロロロロロ……ロ……
「ーーー50度の熱湯が出てくるんだよ。グハハ!! どうだ恐ろしいだろ!!!」
伏せたまま固まっていたアリスは
スクッと起き上がり無口な男の目の前まで来た。
「な……んじゃそりゃあああ!!!!」
バキィ!!
アリスの頭突きが無口な男へクリーンヒット!
テレレレーン♩
アリスはゴロツキを倒した!
しかし、レベルは上がらなかった。
ーーーーーーー
「ず、ずびばぜんでじだー!!!」
「けっ、俺に敵うなんざ100兆年早いわ! てか50度のお湯なんて熱湯って程でもねーよ!」
腕を組み仁王立の学ラン姿の青年とひれ伏すボコボコのゴロツキ3人組の図がそこにはあった。
「いやー、本当にお強いんですねー! 僕達が身の程知らずでした! どうかこれで勘弁して頂けませんか?」
先程まで無口だった兄貴と呼ばれるスキンヘッドの男が急に饒舌になり、小銭の入ってそうな小袋をアリスに差し出す。
「え! なになにお金くれんの!? いやーでもなー
カツアゲみたいで悪いしなーこういうのは俺の趣味じゃないし」
言いつつもそこは元不良、チラチラ小袋を見つめ満更でもない様子。
「ささっ、どーぞどーぞ!」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えてーーー」
「そこのお前達なにをしている!」
アリスが小袋を受け取ろうと手を出した瞬間、横槍が入る。
衛兵姿の2人組であった。
「え、衛兵さん助けて下さい! 僕達こいつに脅かされていたんです!」
「「そ、そうなんです!」」
「なッ!?」
「む、確かに貴様怪しい服装をしているな。 こっちへ来なさい」
ゴロツキはアリスを指差し衛兵に助けを求めた。
衛兵がアリスに躙り寄る。
「て、てめえら今度会ったら覚えとけよー!!」
「あ、こら! 待ちなさい!」
思わず、逃げながら噛ませ犬の様なセリフを吐いてしまうアリスと、それを追う衛兵2人。
ーーーーーーーーーーー
あーそうそう。
こんな感じだったわ。あのゴロツキ共は許さねえ。次会ったらぶっころだゾ☆
ここに至るまでの経緯を思い出しながらアリスは吹き飛んでいた。
「いててて……」
「さぁ観念するんだな」
衛兵が倒れ伏せたアリスを捕まえようと手を伸ばす。
ああ、分かってる。これは夢なんかじゃあない。
感覚もリアル過ぎるし、腹も減れば痛みもある。
魔法とかも言ってしな。
俺は今、異世界にいる。
だとしたら捕まるわけには行かねえよなあ……!!
起き上がったアリスは衛兵の腕を払いのけると同時に衛兵に向けなにかを投げつけた。
投げられた小さなボールの様なものは衛兵の顔面に直撃すると割れ、中身が目の前で拡散した。
「でッ! なにをする!? ……は、は、ブァックション! エックション!!」
「!? どうした!? 貴様、なにをした! 魔法か!」
「がはははは!! どうだ! 俺のガチャガチャのカプセルで作ったコショウ爆弾(唐辛子入り)の威力は! てめえも喰らえ!」
もう1人の衛兵にもコショウ爆弾とやらを投げるアリス。
普段からなんてものを持ち歩いているんだ。
「な!? や、やめ、ぶぇっくしょい!!」
「ブァックション! ま、待て、ハックション!!」
「だーれが待つかよー! ベロベロバー!」
最後も忘れずしっかりと煽るアリス。
そのまま衛兵を巻くことに成功した。
さて、ここが異世界なのは分かった。
これからどうする?
顔も見られてるしこの街にはとりあえずいない方がいいよな。
走りながら街の出口を探すアリス。
大通りからだと街から出る門もすぐに見えた。
しかしそこにも門番らしき衛兵がいた。
「よし、このまま突っ切る。……オラァ! どけどけーい!!」
「!? と、止まりなさい!!」
衛兵がアリスの前に立ちふさがる。
「よっと」
「!!??」
くるりと、見事な宙返りで衛兵を飛び越えたアリス。
衛兵はいきなりの出来事にびっくりして目が丸くなっていた。
さらば名も知らぬ最初の街よ……。
ーーーーー
「さて、出たはいいがどうするか…」
辺りはもう暗い。ここは異世界だ、きっと魔物やら魔獣いるに違いない。だとすると街から離れすぎるのは危険だろう。
「それよりも腹が減った!!」
アリスはいよいよという時は食べ物が売ってある店の前で腹を鳴らしながら指を咥え、よだれを垂れ流し
食べ物をくれるまで無言で店主を見つめようと思っていた。
アリスは意地も汚かった。
「うう、ひもじいよお……」
空腹に耐えながら木に寄りかかってる内にいつの間にかアリスは寝てしまった。
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