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今回の異世界転移民のチート能力は【無能】なようです。  作者: こうしさん
第2部 旅は道連れと言いますし。
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17話 そうだ、異世界で情報収集しよう–ナツキの場合–前編


「アリス、置いてきちゃって大丈夫かな?

お金も全部持ってきちゃったし……」

「書き置きもしたから大丈夫さ。

腹が減ればあいつは焼きそばパンを食えば死なんだろうし」


3人が出会った次の日の朝。

全く起きる気配のないアリスを置いて、

ナツキとヤマトは街に繰り出していた。


「私達がいない間になにか面倒な事に巻き込まれたりして!」

「いやぁ、流石にあいつもそんなに馬鹿ではないんじゃないか?」


アリスはこの時まだぐっすり眠っていた。


「俺は昨日も行ったのだが、

とりあえずは一番情報の集まるであろう

冒険者ギルドに行こうかと思うのだが、どうだ?」

「ま、妥当だね。賛成!」


2人は冒険者ギルドへ向かった。


「それじゃ、私はここで待ってるからヤマト君!

情報集めよろしく〜」

「あのなぁ……」


ナツキは自分で何かをするのが嫌いだ。

というよりは人に何かをして貰う事が大好きというべきか。

ナツキはヤマトを1人、冒険者ギルドへ送りだした。


「何して待ってようかな〜。

ん? ……くんくん。何かいい匂いがする」


ナツキは近くにあった、小さなパン屋を見つけた。


そういえば朝ごはん食べてないや。

お金は持ってるし、食べながら待ってよう!


「すみませーん! これとこれと、あとこれも!」

「かしこまりまーーー」

「全部3つずつ下さい!」

「か、かしこまりました……」

(え!? それ全部食うの!?)


ナツキは懐いっぱいにパンを抱え、店を後にした。


「あむあむ……おいしいーっ!」


ちょっと買いすぎちゃったかな?

あるよねー。パン屋で買いすぎちゃう事って。

買ったっていいじゃない。美味しそうなんだもの。


なんだか聞いた事あるような名言を作りあげ、

パンを食べながら元の場所へ向かった。


ドンッ


「あたっ!」


よそ見というかなんというか、何も考えずに歩いていたナツキは、前方にいた、フードを被った小さな影にぶつかった。

持っていたパンは宙へ舞う。


ああああ! 私のパンがああ!!

こ、こういう時こそ『百獣の巫女』!

そうだな、反射神経のいい生き物……。

うわ、断トツで反射神経いいのって「虫」だよね?

絶対に嫌だ! 虫の力を借りるのってなんだか色々問題ありそうだし!


ナツキは普段はああだが、スペックは高い。

ほんの僅かな時間に思考を巡らせた末、

ナツキは無難に猫に変身した。

確かに、猫は動物の中でもかなり反射神経が良い。


全てのパンを一瞬で掴んだナツキは

地面に置いた後、変身を解く。


「にゃ」


あまりにも一瞬過ぎてまともに鳴くことすら叶わなかった猫ちゃんだった。

すぐにナツキは正気に戻った。


「…………」

「ハッ! き、君、大丈夫!?」


ナツキは目の前で倒れているぶつかった相手に声をかけた。

どうやら10歳前後の少年のようだ。


あれ? ……この子動物の耳が生えてる?


倒れた拍子にフードが外れ、

その子供の頭部から生えた、動物には熊の耳のようなモノが露わになっていた。

しかし、それ以外は至って普通の人間の子供の見た目だ。

ただ、人間の耳は髪に隠れており、

あるのかどうかわからないが。


「あ……」


ナツキに耳を凝視されている事に気がついた少年は慌てて耳を隠す。


「あ、あのこれは……」

「大丈夫? ぼーっとしててごめんね。怪我はない?」


フードを掴んだまま俯く少年に手を差し出すナツキ。


「僕、魔族ですよ? 怖く、無いんですか……?」

「あーうん、そうみたいだね。怖くはないかな」


魔族だったのか。そういえばヤマト君が

この世界には色んな種族がいるとかいないとか……。


その少年は、魔族であった。

この世界にも魔族は存在する。


「でも、そっか! お姉ちゃんも魔族ですよね!?」


少年が大きな声で嬉しそうにナツキに問う。


「はいぃ?」

「さっきの見てました! 一瞬だけ猫耳と尻尾が生えてるの」


見た目的には殆ど、魔族は人族(ひとぞく)(この世界では見た目が普通の人間を指す)と対して変わらない。

動物や爬虫類のような身体的特徴が一部あるくらいだ。

例えば、眼球が爬虫類のそれだったり、獣耳が生えていたりだとかである。

ナツキの変身後の姿は魔族に似ているのである。


「まぁ、私は魔族ではないんだけど」

「でもさっきの耳と尻尾は?」

「み、見間違えじゃないかなー?」

「そう、ですか」


先程、ナツキの事を魔族だと思い込んでた時は

心底嬉しそうであったが、

ナツキが魔族でないと言うとなんだか少年は酷く落ち込んだ様子だった。


「君、親御さんは?」

「……いません」

「もしかして、迷子?」


コクリと頷く少年。


「迷子かぁ……そうだな、ちょっと街の人達に聞いてみるかーーー」

「だ、ダメです! それに僕、ここの街の者じゃないし」


通行人に声を掛けようとするナツキを、

少年は焦りながら大声で静止した。


これ、どうやら只事じゃない?


「人族は魔族を酷く毛嫌いしているって子供の頃から教わってるんです……! 見つかったらどうなるか……!」


あ! それもなんかヤマト君から聞いたきがする!

だからあんなに慌てて耳、隠してたのか。

っておい! それなら私に魔族か聞く時の声、大き過ぎるでしょ!?


「わ、分かった分かった! ごめんね?

お姉さんその辺疎くてさ。

よかったらお姉さんが一緒にお家に送ってあげようか?」

「ほ、本当ですか!?」


この子はそう、私と同じだ。

人は助け合って生きてくものだ。

でも今、この子は頼るものがいなくて

とても怖くて不安なんだ。


ナツキは少年にシンパシーのようななにかを感じ、そう思った。


(君はそういうのとは違うでしょ〜。君の場合はただのヒモ女ですやん)


「誰!?」

「ど、どうしたんですか!?」

「いや、なんでも……」


すっごくイラっとする事言われた気がした!

気のせいかな……?

まぁ、迷子のお届け位は私1人でも出来るよね。

いや、これくらい出来ないと、今の私を変えないと……!

ていうか、ヤマト君みたいな変態と一緒に行動すると私まで変な目で見られちゃうし、丁度いいかも!


「よしよし、お姉さんが責任を持って君をお家に送り届けてあげよう!君、名前は?」

「ありがとうお姉ちゃん! 僕、ムータって言います!」

「ムータ君か、お姉ちゃんはナツキ。よろしくね」

「はい、ナツキさん!」


少年ことムータとナツキは街の外へ向かって歩き出した。


「ところでムータ君、お家ってどこなの? 隣街とか?」

「魔族が人族の近くに住むなんてとんでもない!

もちろん魔界ですよ」


ナツキは耳を疑った。


「ま、魔界〜〜〜!?」


やはり只事ではなかったようだ。


「だ、大丈夫ですか!? すみません。

やっぱりやめといた方がーーー」

「……ううん、平気。パン、食べる?」

「は、はい。頂きます……」


なんとも微妙な空気のまま、ナツキの自分改革ミッション

【迷子の魔族をお届けしよう】が始まった。



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