14話 そうだ、異世界で情報収集しよう−アリスの場合−前編
「あー! くそっ! キリがねえ!!」
アリスは武装した集団と戦っていた。
「おい! さっさと(アレ)奪ってこい!」
「で、でも敵が多すぎて近づけませんよお!!
……!? だ、旦那!! あ、あれ……!!」
「あん?」
グオオオオオ……!!!
それは不気味な唸り声と共に現れた。
……めんどくせえのが出て来たな。
てかなんで俺はこんな柄にもねえことやってんだ?
ーーーーーーー
3日前。
場所はミナセトのとある宿屋。
異世界に来て初めての安息が出来た3人。
朝になり、ヤマトとナツキはすでに起きていた。
「おーい、アリス。起きろー」
「すっごい幸せそうな顔で寝てるよね。
いかにも安眠って感じ」
「ふにゃ……すぴー……」
2人はアリスを揺するが、起きる気配はない。
いつもは目つきの鋭いアリスも優しい顔でぐっすり寝ている。
「こりゃ起きそうにないな」
「いいよもう。こんなの放っといて。
それより早く、街で情報収集しよ!」
「ぐがっ……、最強は俺じゃい……むにゃ」
ーーーーーーミナセトの街。
《アリス君へ
余りにも気持ち良さそうに寝てたので置いて行きます。
しばらくはそれぞれ街で情報収集しようと思う。
宿の金は数日分払ってあるからとりあえずはここが拠点だ。
くれぐれも問題を起こさないでくれよ?》
アリスが起きた頃には2人の姿は無く、
ヤマトからの書き置きがあるだけだった。
「けっ、あの2人置いて行きやがって!」
まあ、俺が寝てたのも悪いが。
でもお金持ってくこと無いじゃん。
僕お腹空いちった……。
昨日あれだけ食べたアリスだがお腹が空いたらしい。
「流石に焼きそばパンは食い飽きてるしなー」
一文無し。何もできないアリスは適当に街をぶらついていた。
しっかし、早く魔王や勇者を倒したいが、一体奴らはどこにいんの? てかここがそもそもどこなの?
この世界のどのへん?
「……とりあえず、真面目に情報収集するかあ。
あいつらがびっくりするようなのゲットしてやるぜ」
だが何よりも今は腹が減っている。
ヤマトかナツキを見つけないとな。
アリスが2人を探していると何やら
通りの外れで騒がしい声が聞こえる。
気になったアリスは覗いてみた。
「おうコラ、持ち物全部置いていきな。」
「置いていきな!」
「ひいい勘弁して下さいいい!!」
そこには2人組の柄の悪い男と気弱そうな男がいた。
お? おお? あいつらは確か……。
「持ち物置いてけば勘弁してやるよ」
「やあやあ! 元気ー!? まだこういう事してんのー?」
柄の悪い男の内、大きい方の男に肩組みをして
ニコニコ話しかけるアリス。
その隙に気弱そうな男は逃げた。
「あ、おい! てめえのせいで逃げちまったじゃねえ……か……あ」
「しばらくぶりー! ゴツィータ君!」
「ゴツィータさんこいつあの時の……!」
柄の悪い男達は、以前アリスをカツアゲしようとして
返り討ちにされたゴツィータと
サングラスの様なものをかけたその子分であった。
「お、お久しぶりです旦那……お元気そうで」
「って言っても2日ぶりだけどね! 君のことはよぉーく覚えているよ」
ニコニコ。
「あ、あの時はすいやせんでした!!」
「すいやせんでした!」
「なんの事かなー? 謝られても意味わかんないし」
ニコニコ。
「やっぱ怒ってますよね?」
「んー? 怒ってないよー」
ニコニコ。
ぐきゅるるるるるる〜。
「……腹、減ってんすか?」
「……」
アリスはコクリと頷いた。
ーーーーーーー
「オラオラー!! もっと持ってこんかい!
俺様はまだまだ食い足りんぞ! ギャハハハ!!」
「だ、旦那!食い過ぎ……」
「うるせー! てめえが奢ってくれるって言ったんだろ! ケチケチすんな!」
「どんだけ食うんだ……」
ゴツィータ達に飯を奢ってもらうことになったアリス。
3人は近くにあった飯屋に入る。
豪快な注文に、ゴツィータ達は顔面蒼白である。
「サングラ、金持ってる? ちょっと貸してくんない?」
「え、ええ。勿論です」
どうやら子分の名前はサングラというようだ。
「そういや、あのお湯男いねえな」
「ああ、あの人は貴方にやられてすぐ消えました。
元々、一緒にいた訳じゃないですしね。」
お湯男というのは腕から50度のお湯を出せる改造手術を受けた、
スキンヘッドで無口な男である。一撃でアリスにやられたが。
そういや、この世界に改造手術なんて技術あるのか…?
確か、Dr.ハックだったか?
「ところで旦那、こうしてまた会ったのも何かの縁だ。
俺たちの頼みを聞いてくれやせんか……?」
アリスが考えを巡らせてる所にゴツィータが口を挟んだ。
「あん? なんだよ?」
「実はどうしても倒して貰いたい奴がいるんです」
「倒して貰いたいやつ?」
するとゴツィータは懐から一枚の紙を出した。
それはスラムの取り壊し、スラムの住人を街から追放するといった内容の計画書であった。
「俺たちは見ての通り、スラムの住人です。
いつもカツアゲや泥棒なんかして食っていってます。
そりゃ疎ましく思われて仕方ないです。
……でも! あそこは俺たちの家なんだ! 奪われてたまるか!」
ゴツィータは熱くなり席を立つ。
「奴さえ人質に取れればこの計画は白紙にだってできる。
スラムのリーダーの俺が何とかするべきなのは分かってる。だけど俺にゃ奴には敵わねえんだ!
奴はいつも武装したボディガードで身を固めているから近づくことすらできねえ!
旦那、お強いあんたにしか頼めねえんだ。力を貸してくれやせんか?」
「お願いしやす!」
ゴツィータ達は店内なのも構わず土下座しアリスに頼んだ。
「てめえら、そりゃ虫がいいってもんだろ。
俺の事カツアゲしようとしたくせによー」
「で、でも! こうして泣けなしの金で飯も奢ったのに……」
「んなもん勝手に奢るって言ったんだろ」
「そ、そんなあ……」
アリスは席を立ち、ゴツィータ達に背を向ける。
「スラムには子供もいるんです!
そいつらの住む場所を守りてえんだ!!」
ゴツィータの言葉に一瞬、アリスは立ち止まる。
が、
「自分達で解決できねえ事をよ、
俺が解決してどうにかなるのか?
どうせまた同じ事が起きるだろうぜ」
アリスは一瞬は立ち止まったが、再び店を出ようとする。
こ、子供か……。
ちょっと心が痛むなあ。
でも面倒ごと起こすなって言われてるし……。
「ゴツィータさん、もういいですよ。
奴は本当に強力な部下を従えてる。
どうせ敵わないですよ、あいつでも」
サングラが店のドアに手をかけたアリスを指差しそう言った。その瞬間、
「ぐぼはぁッ!!」
「な、何するんですか旦那ッ!?」
アリスは振り返ったかと思えば
一瞬で距離を詰め、サングラを蹴り飛ばした。
「だ〜れが何に敵わねえだコラァ。
俺が最強だつってんだろ。おい、てめ聞いてんのか?」
「だ、旦那! サングラもう伸びてます!」
吹き飛んだサングラの胸ぐらを掴み、揺するアリス。
「俺が最強だと言うことを証明してやろう」
「じゃ、じゃあ!?」
「ああ、引き受けてやるよ、お前の頼み。
どんな奴でもぶっ飛ばしてやる」
「ありがとうございやす!!」
そのすぐ後アリスは思った。
うわぁ……もしかして俺、めんどくさい事引き受けちゃった?
「あ、お礼はちゃんと貰うからね。俺への依頼は高くつくよー」
「え!?」
肝心な所はちゃっかりしてるアリスであった。




