13話 とはいうものの、早くしない?
「ーーーーというわけで現在も人界の者と魔界の者は
戦争し続けている、らしい。」
3人はアリスが最初に転移してきたミナセトへの
道を歩いていた。
もうミナセトはすぐそこだ。
「なんで1番遅く転移してきたてめえがこの世界に詳しいんだよ」
「神に色々聞いたからな。お前達は聞かなかったのか? 普通そうするだろ?」
「「うっ……」」
押し黙るアリスとナツキ。
「ま、まあいいじゃん! 情報収集する量も減った事だし!」
「む、しかし情報は多いに越した事はないぞ」
「るせー! 細けえ事はいいんだよ!
んな事よりほら街はもうそこだぜ」
話し込んでいるうちにいつの間にか、
アリス一行はミナセトへと到着していた。
「ううっ……、やだなあ、俺入れんのかな?
公務執行妨害とかなってないよね?」
アリスが門前で往生際悪く抵抗する。
「いいから! ほら行くよ!」
「なにをそんなに嫌がってるのか知らんが、
ここが一番近い街なんだから行く他ないだろう」
「やーだーやーだーやーだー」
ナツキとヤマトでアリスを引きずる。
入門の際、3人の服装が珍しいからか、ジロジロ見られはしたが、
幸い門番はアリスの事を覚えてなかったらしく、
すんなり街へ入ることができた。
「ほう、ここが異世界の街か……」
「洋服屋はどこ!? 早くはやく!」
「けっ、ここにゃいい思いがちっともねーぜ」
3人はそれぞれ違った反応をした。
とりあえず3人は街の大通りを歩く。
「なあ、ナツキ。服を買うのはいいが、
というより目立つから俺も着替えたいがどうやって手に入れるつもりだ?」
ヤマトがナツキにそう尋ねる。
「どうやってってそりゃあ洋服屋で買うしか無いんじゃない?」
「買うというが、金はあるのか?」
「あ……」
ナツキは固まる。
「くっそー! 私の財布盗られたままだった!
あんのナンパ野郎……!」
「財布があったとしてもこの世界の金はないだろ。
アホですか? アンタ」
アリスに馬鹿にされるナツキ。
ナツキは再度固まる。
そ、そうだった……!
今の私馬鹿丸出し……?
馬鹿丸出しである。
「ぐぬぬぬぬぬ」
ナツキは恥ずかしさを紛らすため、
アリスにストレートを打ち込む。
が、簡単に躱された。
「ふっ、そんな毎度毎度喰らうかっての。
って……!?」
アリスは簡単に躱しはしたが、その拍子に片足で
何か踏んづけてしまい、転んでしまった。
「あはははは!! だっさいよアリス!
いつも人を馬鹿にしてるバチが当たったね!」
「だ、大丈夫か!? アリス!」
「いってえー…。バッキャロー! 誰だこんなとこに
金貨3枚も置いといた奴は!」
そう、アリスが踏んづけたものは金貨だった。
ん?金貨?
「うおおおおい!!! アリス!! 金貨じゃないかそれ!!」
「アリスの事、前からかっこいいって思ってたんだよね私。それちょっと私に見せて?」
「ゲヒャヒャヒャ!!! やはり俺は運も最強でしたー!!」
なんなんだこのやかましいやつらは…。
街の中心で騒ぐ3人を見て
住人達はそう思った。
ーーーーーーー
「さてこの金貨3枚、どうするか決めよう。」
通りの隅のスペースに3人は腰掛けている。
金貨3枚を3人で囲んでいる状態だ。
「何言ってんだ。これは俺が見つけたもんだ。
全て俺のもんだ。」
そう言ってアリスが金貨を自分の元へ寄せる。
「何言ってんの。私が殴りかからなければ
それを踏んづける事も無かったし、気づかなかったでしょ?だから誰のとかじゃなく3人で分けようよ」
そう言ってナツキな金貨を自分の元へ寄せる。
「いや、待って。お前も自分の物だって主張してない? 体は正直ってやつ?」
「あーもう! このままでは埒があかん!
恐らく金貨はこの世界でもかなり高価だ。
きっかり1枚ずつ分けてそれぞれ使おう」
そう言ってヤマトは金貨を自分のパンツの中へしまーーー
「「なにやってんだ(の)てめえ(あんた)!」」
ーーおうとしたが、2人に張り倒され未遂で終わった。
3人はそれぞれ1枚ずつ分け合う事に決めた。
ーーーーーーー
「さーて、何に使うかなー」
アリスは街を1人ぶらついていた。
3人は金貨を分けた後、解散し
それぞれ買い物をして集合する事にした。
「そういえばこっち来て焼きそばパンしか食ってないぞ。こんなんでいいのか異世界生活……」
アリスは適当な飯屋に入ることにした。
「いらっしゃい! 兄ちゃん1人かい?」
「おう。これの半値で食えるだけ出してくれ」
「金貨の半値か! 兄ちゃん、太っ腹だねえ」
「おう! 余は腹が減っておるぞ! じゃんじゃんもってこい!」
アリスが席に通されるとすぐに料理が運ばれてくる。
肉まんのような料理、肉を焼いたもの、
角の生えた魚を丸々蒸した料理、サラダ、スープなど
ものすごい量の料理が次々運ばれてきた。
金貨は本当に高価なものなのかもしれない。
「ありがとうございましたー」
「ふぃー、満足満足。ごっそさーん」
アリスは料理を全て平らげ、店を出た。
手元にはお釣りの銀貨50枚。
かさばっちまったな。
銀貨100枚で金貨1枚の価値か。
腹の感じからして日本円で大体5万円くらい食ったか?
金貨は1枚10万もするのか!ラッキーだったぜ!
「まだ何か買えるなあ……っと。お?」
アリスは何か見つけたようだ……。
ーーーーーーー
「とりあえず金貨がどれくらいの価値があるのか、
調べないとな」
ヤマトが2人と別れたあと向かった先は冒険者ギルドであった。
「あそこなら恐らく両替も出来るだろう」
街の真ん中の広場、そこの一番目立つ場所に冒険者ギルドはあった。
ミナセトの冒険者ギルドは支部なのでそこまで大きくは無いが、設備は揃っている。
ヤマトの読みは当たっていた。
ヤマトはギルド内へ入って言った。
ここが冒険者ギルドか。
屈強な冒険者達がたくさんいるな。
ウホッいい男!
いや、俺にそっちの気は無かったわ。
ヤマトは格好がやはり珍しいからか、
冒険者達にジロジロ見られながら受付へ向かった。
「すみません」
「冒険者ギルドへようこそ。ご用件はなんでしょう?」
「両替をお願いします。銀貨と銅貨に」
「銅貨……? 鉄貨の事でしょうか?」
「ああ、すみません。間違えました。鉄貨でお願いします」
そこは銅貨だろどう考えもおおおおお……!!!
あ、ダジャレじゃないよ。
「銀貨90枚、鉄貨10枚お渡ししますね。
よかったら袋もお使い下さい。」
「ああ、ありがとう」
銀貨は金貨の100分の1、鉄貨は銀貨の10分の1か。
やはり金貨だけ飛び抜けて高価だな。
「よし、ジロジロ見られるのも疲れるし
俺も何か洋服でも買うか!」
ヤマトは冒険者ギルドを出て買い物を始めた。
ーーーーーーー
「ありがとうございましたー」
「ああ、やっと着替えられた……!」
ナツキは解散後すぐさま洋服屋へ行き、
洋服一式と下着を購入した。
「えへぇ。ちょっと恥ずかしいけど可愛い……!」
上はノースリーブでヘソ出し、胸の所に真っ赤なリボン。
下はホットパンツにニーソに黒いブーツ。
丈夫な皮で出来た白を基調とした軽装スタイル。
ホットパンツは特注で、お尻のところに小さな穴が空いている。
獣化したときに尻尾が出やすくするためだ
その部分は生地が幾層か重なっており、
もちろん普段ナツキのお尻が露見することはない。
追加でナツキは近くにあった防具屋で
華奢でデザイン性のあるガントレットも買った。
ナツキはこの世界の冒険者ルックとなった。
彼女が性能よりもデザインで選ぶからか、
冒険者にしては少し可愛い過ぎる格好ではあるが…。
街の男衆は皆ナツキに注目していた。
「1人で買い物なんて初めてだったけど
何だ私、やればできるじゃん!」
でももうお金ほとんどなくなっちゃったなあ。
ナツキは手元に残った銀貨1枚を握ったまま歩く。
すると何やら賑やかなお店を見つけた。
「おおお? あれは…」
ナツキは吸い寄せられるように店の中へ入っていった。
ーーーーーーー
「わりい、ヤマト!待たせたな」
「む、俺も今来た所だから気にするなアリス。
……って誰だ貴様」
ヤマトの目の前にいたのは首から下は学ラン姿だが、
頭に禍々しい形をした厳つい兜を被った男だった。
「なんかよ、これ本当は金貨20枚はするんだとよ!
負けてくれてさ銀貨50枚!
でも何だか被ってから力が抜けるし外れないんだよな」
「それ呪いとかあるやつ。捨てなさい」
「げっ! まじかよ! あの防具屋のジジイ…!」
アリスは兜を焼きそばパンに変えた。
「にしてもてめえはザ・冒険者って感じだな!」
「やはり憧れるだろう? こういうの」
「さあ? わかんねえけど。てかナツキのやつはどうした?」
「む、確かに遅いな」
先程からナツキの姿が見えない。
「おい! あの店にやべえ姉ちゃんがいるってよ!」
「すげー勝ってるらしいぜ!」
近くにいた男2人が騒ぎながら何処かへいった。
「……行ってみようぜ」
「そうだな」
2人は後を追う。
ーーーーーーー
「すげー!! 姉ちゃんまた勝っちまったぜ!」
「総勝ち金貨50枚!? どんだけなんだよ!!」
「何者だこの姉ちゃん!?」
「くっはっはっは!! 全然負ける気がしない!
今の私はノリにノってる……! 次も全賭けだああ!!」
うおおおおおお!!!
店中が盛り上がっている。
「「……何やってんだおまえ」」
「くっはっは……は? あ、アリス?それにヤマト君?」
ナツキがいた所は
そう、賭博場であった。
ただスロットやルーレットでやるのではなく、
トランプの様なカードによる、
どちらのカードが強いか当てるゲームで行なうものだった。
「ほら、さっさと行くぞとりあえず今夜の寝床の確保だ」
「やーだー! 今いい所なのー!」
ナツキはてんで動かない。
こいつ……!
2人は思った。
依存癖はギャンブルにも作用するのか……!
それ、めたっくそ厄介ですやん……!
(おい、ヤマト)
(ああ)
「次はアップに全賭けーーーー」
「いやダウンに全賭けだ!」
ナツキの言葉を遮ったアリスがナツキの金貨を全てダウンにかけた。
「ちょ、アリス!?」
「よろしいですね?」
「ああ」
「ではオープンします。結果は……」
カードが開かれる。
「……アップです。残念でした」
「……………」
ナツキは真っ白になり固まり目を回し泡をふいた。
「はいはい、残念でした。帰るぞ」
「お騒がせしましたー」
アリスとヤマトはナツキを担ぎ賭博場をあとにした。
ーーーーーーー
「ありっえないんだけど!!!」
「しつけーなー」
「まあまあ、あのままではナツキは一生ギャンブルやってる所だったんだから」
復活したナツキに責められる2人。
「うぐっ……自分で言うのも何だけど確かにそうだと思う。
けどけど! 無一文じゃ宿にも泊まれないよ!?」
「ちっちっちー。それが違うんだなー」
アリスが人差し指を振りそう言うとヤマトが袋からお金を出した。
その額なんと金貨5枚。
「あの時全賭けをコールする直前にこっそり
『支配者』で金貨をとっておいたんだよ」
「だから今夜は宿に泊まれるぜ」
「……」
ナツキが押し黙る。
ん?なんかまずったか?
「ぐふぇえええええん、よかったよおおお」
「おいおい泣くなよ、ほら宿探すぞ」
「宿ならもう俺が見つけてあるから安心しろ!」
「おお! さすがヤマト気がきくぜ!」
3人は宿に向かった。
「明日こそちゃんと情報収集するんだからねっ!」
途中まで泣いていたナツキが涙を拭き2人の前に出て言った。
2人は思った。
おまえが一番心配だわ。
この日3人は異世界に来て初めて安息出来る夜を過ごせたのだった。
ーーーーおいおい、お前ら冒険は?




