大公1
「とうたまぁぁぁ~~」
チェーロを5歳まで育てたマイーサの母力に包まれて泣く
プレーチェと、覗き込むチェーロとコルテに背を向けて
ノッテは、そっと部屋から出て行った。
「・・・・・・私は、・・・本当に・・・
本当に、ルナーレ大公の言う通り冷たい人間ですね・・。」
表情だけは微笑みを浮かべたまま
誰にも聞こえない小さな呟きで自嘲する。
「・・・・再びチェーロが傷つかないように、
その為に(プレーチェ)と深くかかわらせまいと
思いましたが・・・上手く行きませんね。」
「・・・私は・・・・チェーロ、貴女が言ってくれる程
優しくも完璧でも無いのですよ・・・・」
(私は、卑怯で狡くて・・・自分勝手な自分を
必死になって貴女に隠しているだけなのです)
消え去った手首の傷に無意識に触れる。
片手だけではなく両手両足の傷、
そして、全身の至る所にあったやけどは、
跡形もなく消してはくれたけれど・・・。
「虚ろな意識の中、限界を超える痛みの中、
私はいったい何をした!?」
『兄ちゃは、悪くないよ?・・・・・だって、
兄ちゃんだってまだ10代、成人したての16歳を
ほんの少し過ぎたばかりだったんだから・・・。』
無邪気な微笑みで、全幅の信頼を寄せる瞳で君は
私に引っ付く・・・・でも、それは・・・
「・・・君が私のしたことを忘れてしまったから・・
いや・・・シルホード大公家での記憶を消したのは私・・
君が苦しむ記憶なら消してしまった方が良いなんて
ただの言い訳で、卑怯な私を君の中に
残したくなかったのですよ。」
目の前には、扉。
思いにふけっている間に、どうやら到着したらしい。
プレーチェの養父、プレーチェが慕う相手、
シルホード大公ルナーレの休む場所に。
こうなったら、プレーチェをチェーロが引き取ることは
諦めるしかない・・・名義上は・・・・。
後見人だか、養親だか預かり先だかの名前だけ、
チェーロにして、実質は、ノッテで面倒を見るしかない。
「大公がどういうつもりなのかをよくすり合わせて・・・
交渉するしかありませんね。」
苦笑が零れた。
翌日、ノッテの異動と昇格、
延びていたデーモネ大公継承、
そして、同時にするために延び延びになっていた
スクラメンテ公女ティーンと婚礼を行うことが知らされた。




