始まり2
「チェーロ<空>様、ノッテ・ディーオ
<夜・主>様は、急遽、
スクラメンテ公の仰せで、シルホード大公が
治められているフローラ領のバンティ地方から
シルホード大公のご養子を共に
お連れして来られようになったそうですよ。」
侍女の声にチェーロ<空>は、頭を上げる。
「バンティ地方?そんな山奥に、
シルホード大公の・・ルナーレ<月>叔父様の
養子が・・・・?・・・そんなの居たの?」
チェーロ<空>には、初耳だった。
シルホード大公のルナーレ<月>は怖かったが、
その養子と言うのには
何だか妙に興味が惹かれた。
「・・・・・私の失った記憶に
何か関係するような・・・
そんな不思議な感じがする・・。」
ポツンとチェーロ<空>は、呟いた。
(記憶・・・か・・)
そう思いチェーロ<空>は、頭を上げた。
「ねえ・・・何だか少し、
昔の事、話したい気持ちなの、
お従兄上様<おにいさま>が来るまでの間、
話、聞いてくれる?」
侍女長は、優しくチェーロ<空>に頷いた。
チェーロ<空>の従兄、デーモネ大公家公子
ノッテ<夜>は、目の前の幼児
プレーチェ<祈り>の黒い瞳に
吸い込まれそうな気持ちを味わっていた。
全く喋らないプレーチェ<祈り>は、
何がそんなに面白いのか、無表情のまま
ノッテ<夜>の顔を凝視していた。
もちろん、美貌と鋭利な頭脳で、
宮中に知れ渡っているノッテ<夜>
だったので、視線を感じたり、
うっとりと見つめられたりという事には
慣れていたが、こんなにも感情も表さない
表情で、食い入るように見つめられた事は、
今までになかった。
場を和ます為に、次々と、異国の話や、
この国の昔話、
服のこと、宝石の話を、してみるが、
全くの無反応で、
ノッテは、困惑していた。
「・・・チェーロ<空>も、服や、
宝石には無頓着でしたけどね・・」
だが、何気なく、零したノッテの言葉に、
何故か、プレーチェ<祈り>の瞳の奥が
揺れるのを見て、ノッテ<夜>は、少々驚いた。
しかし、まだ、馬車に揺られる時間は
長いかと、ノッテ<夜>は、幼い頃の、
従妹のチェーロ<空>と、
自分<ノッテ(夜)>の話を
ゆっくりと話す事にした。
あの時、私は、10歳でした・・・・
チェーロ<空>は、5歳になっていましたか、
霜が沢山降りて地面が真っ白になったあの日、
チェーロ<空>の弟の、アルト王子が生まれたんです・・・