プレーチェの心3
(コルちゃん!)
プレーチェは、
与えられた居室を出てすぐに捕まえられた。
「シルホード公子様、どこに行かれるのですか?」
複数の侍従らしき男達に取り囲まれて、プレーチェは、
歩みを止めた。
ちなみに何故か青年と呼ばれるくらいの年の、
顔が良い者ばかりだった。
無表情のまま無言でプレーチェは、一人一人丁寧に
見上げていた。
「・・・・・・!?・・・・あの・・・?」
城の侍従らしき青年達は、沈黙に耐え切れず
プレーチェに声を掛けるが、まったく返事が返ってこない。
しばらくして、その視線の高さの違いにハッと気づいて
「直答を許されぬまま、声をお掛けし・・・・更に・・・
無礼を重ねてしまいました。
シルホード家公子様、
私達は、・・・・・の侍従・・・主の言葉を伝えるため・・・」
一斉に侍従らが跪いて、一番手前の青年が
プレーチェに対して言っていたが、
「・・・・・・・」
肩でパッツンの漆黒の髪をユラユラさせながら
壁の動きが止まって幸いとばかりに、
プレーチェは、再び蠢きだした。
何を考えているのか、
天上の魚でも相手にしている気持ちで、
シルホード大公家の子どもに対して侍従らは、
困惑しつつも再び声を掛ける。
「お付の方々がいらっしゃらない様なので、
直接お伝えする無礼をお許し下さい・・・・・・・・・・。
・・・・・我らが主、デーモネ大公子
シーン・ディーオ・アルトーレ=デーモネが
共にお茶をしたいと申しております・・・。」
気にせずそのまま進もうとするプレーチェの右肘を
突然現れた何者かが、問答無用で引きずり戻した。
「主人は、疲れもあり、もう床につかれます。
それに、まだ幼い身でございますので、
無作法をして大公子様をご不快にさせる事もあるかも
知れません。
どうかご容赦下さいませ。」
どこに潜んでいたのか、気が付けば男女数名の
侍従と侍女風の者達が廊下に立って、
プレーチェの肘を絶妙な力加減で捕まえていた。
「・・・・『影』をこんなに・・・・!?」
驚いたように呟くデーモネ公子シーンの従者の声に
重なるように、
「遅いぞー!何やってるんだよ!
ケーキも用意して待ってるんだぜ!」
と、いう声が聞こえた時には既にプレーチェは、
かっ攫われていた。
「・・・・・・コ・・・・コルちゃんが・・・・・・」
思わずポツンと、プレーチェは、呟いた。
激しい上下運動の運搬途中に、
ハッと気づいたプレーチェは、
「コリュ(ル)ちゃんなの~!!!!
コリュ(ル)ちゃんの所ぉ~!」
ビヨビヨ涙を溢れ出しながらプレーチェは、
大暴れをした。
プレーチェを縦抱きにしていた王子アルトは、
落とさないように慌てて抱き直して、
「コリュちゃん・・・・・?
スクラメンテのおっちゃんのとこの従弟のコルテか?・・」
と、思い切り泣き顔になっているプレーチェの顔を
覗き込んで、「おりょ・・・して・・・くりぇない・・・と・・・
よられ(よだれ)・・・れしゅ」と、心なしか
少しだけ攻撃的な顔になっているプレーチェに対して
大爆笑してから、抱っこしている手を伸ばして
慰めるように頭を撫ぜてやった。
「シン(デーモネ公子シーン・ディーオ・アルトーレ)みたいな
お上品で、行儀に口うるさそうな顔して、
面白いなぁお前・・・・・なんか、可愛い。」
再び歩き出そうとするアルトに慌てて、
そのちょっぴり跳ねた茶褐色の髪をプレーチェが、
引っ張るが、それすらもアルトは、ニカニカ笑って。
「お前ら、
シン(シーン)と、シルホードのおっちゃんに伝えといて、
俺と、この子は、コルテの所に行ったって。」