謁見3
「チェーロ」
少しの苦笑いを含んだノッテの言葉に、
案内された部屋の窓辺に蹲っていたチェーロは、
ゆっくりと顔を上げた。
「言いたいことはだいたい分かっているよ、
従兄<にぃ>様。」
上げたその複雑そうな表情にクスリと笑うとノッテは、
「そうですか、なら良いです。
・・・・お食事の支度がもうすぐ出来るそうですよ、
参りましょう?」
チェーロの方に手を差し出す。
チェーロは少しためらうようにノッテを見上げてから
恐る恐るノッテの手の上に自分の手のひらを載せた。
「プレーチェは?・・・・プレーチェも一緒?
国王と王妃は?」
ノッテの手を借りて立ち上がり、
そう言って謁見の後、別れたプレーチェを思って
瞳を揺らすチェーロを見下ろして
ノッテは、また小さく笑った。
晩餐会とまではいかないが、
集まった大勢の親族で食べるということで案内された
部屋で、先に席に座っていた親族の一人が
口を開いていた。
「シルホード大公は、床から起き上がれない
状態らしいですな・・・・、
政務から一旦退き領地で
療養をしたいと仰っていましたが、
養い子のプレーチェ殿を王宮に上げたいご様子。」
また別の親族達が続けて発言をする。
「お気持ちは分かりますが、
王の血では無い何者かも知れぬ
言っては何ですが黒髪黒瞳の子を
誰が預かるというのか・・・
宰相閣下シルホード大公ルナーレ様とは
思えぬお考えだと思うのですよ。」
ノッテと共に部屋に入ろうとしていたチェーロは、
親族達の言葉にカッと怒りを感じて、
怒鳴り込もうとして、止まった。
侍女に連れられたプレーチェが
チェーロ達の後ろにもう来ていた。
チェーロは、聞いていただろうプレーチェに
何と言って良いのか分からずひとまず聞いた。
「・・・・・プ・・・プレーチェ・・・・コルテは?
一緒に来ていないの?」
まだそんなに人が集まっていないからなのか
チェーロ達が来ていると気付く事もなく
呑気な様子で部屋の中の親族達は、言葉を続ける。
「喋りも出来ない、特にパッとしない子どもを・・
それとも、シルホード大公が育てて居るのだから
あの体の幾らかは王の血筋を持っているのか?」
「到底、貴くは見えない、どこか欠陥でもありそうな
子どもではあるが、幼いために
少しばかり可愛らしくみえる顔に
シルホード大公らしくもなく絆されたのか?」
プレーチェは、部屋の中の会話がまるで
聞こえていないかのように無表情で、
部屋の中を見つめていた。
「シルホード大公家も大公自身も
もう駄目かも知れませんな、
大公は引退して、王宮に置いておきたい
養い子は、後見人のなり手が無い」
部屋の中の親族達の声を後ろに、
気遣うようにノッテがプレーチェの顔を覗き込む。
親族達は腹立たしいが、無表情だったプレーチェの
表情が微妙に変化してきたからだ。
ポロリとプレーチェの瞳から涙が溢れた。
「プレーチェ?」
プレーチェの小さな手が伸びて覗き込んでいるノッテの
服の袖口をキュッと掴む。
「・・・・・・う・・」
「・・・・・!?・・・・プレーチェ?!」
「・・・・と・・・・たま・・駄・・・目・・・なの・・・・・?」
縋るような悲しくも必死な瞳でプレーチェは
ノッテを見上げる。
「・・・・・・ぼ・・・く・・・・・捨てられ・・・・の・・・?」
喋れないと思っていたプレーチェの口から出てきた
可愛らしい鈴のような声にチェーロとノッテは、驚いた。
済みませんが、書きためられるまで少々お待ちください(7/29)




