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完璧主義少年と死神様  作者: 乃石 詩音
第二章 君臨する騎士団
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少年は覚悟し、騎士団は妥協しない

中世ヨーロッパによくある教会のような学校が乱立する地区。騎士団本部は、その中でもひときわ目立つほど、大きい建物だった。

「これが、騎士団本部……」

三メートルはありそうな高いフェンスに囲われ、正面には二人の門番がいる。

――一人は、女か。

淡い金髪のショートボブとパッチリとした目が特徴的だ。

「何をしに来た、死神風情が」

もう一人の怖そうな男が言った。威圧的な口調。良く見ると、ピアスをつけている。

「この中で死神なのは僕だけだよ。それに、用事があるのはこの子」

怖そうな顔つきの人は、俐斗を上から下まで、まるで値踏みするように見た。

「用件を述べよ」

「俺は騎士団に入団しにここまで来た」

「ハハッ、もう入ることが決定したような言い草だな」

不穏な空気を感じたロレンスは、あわてて手紙を取り出す。

「昨日、君たちの所からこれが届いてね。 この子を是非入団させたいって、書いてあるんだよ」

ショートボブの子が、ポワンとした顔で答えた。

「そんな手紙送った覚えはありませんね。ねえ、ギルベルト隊長?」

「ああ。そんな手紙を送り付けた覚えはない。あと、時期ではないときに、入団させるかどうかは、俺達では決められない。中へ入ることを許す。だが、死天王の一人であるロレンスを通すことはできない」

仕方ないねえ、と言って、ロレンスは去って行ってしまった。取り残された俐斗たちは、顔を見合わせるしかなかった。

 キィ、と嫌な音を立てて門は開いた。俐斗は、ただ進む。後ろから、遅れてきたシュヴァルトが言った。

「本当に行くのですか?」

俐斗はロレンスに渡された手紙を握り占めて答える。

「そのために今日はここに来た」

シュヴァルトは、うつむき加減に言った。

「あまり、このようなことは教えたくないのですが……。この騎士団には、いろんな噂があるんですよ? たとえば、さっきの門番のギルベルトとか……」

――コイツは以外と気弱なのか。

「なぜ、お前が心配する必要がある? 入団するのは俺であって、お前ではない」

「……そうですね」

短い会話をしている間に、案内役の人が来た。

「どうも、私、ベルセリウスと申します。人事部の部屋へ、お連れします」

若干赤みのある黒髪の七三分けで、これまた黒くフレームの細い眼鏡をかけた、いかにも真面目です、といった感じの人だ。

 人事部の部屋は、青を基調としたペルシャ柄の絨毯が敷かれてあり、シックだけれども、クールな雰囲気を醸し出している。

「こちらのソファにてお待ちください。すぐに担当の者をよんで参りますので」

ベリセリウスは、紅茶を出すと、部屋を出て行った。

「シュタルクさん。この紅茶は、絶対に飲んではいけません」

――絶対に、というのは、フリか。

「フリじゃないですよ。この紅茶には死にはしませんが、少量の毒が入っています」

「毒?」

俐斗が聞き返した時、部屋のドアが開いた。

「その通り。その紅茶には、毒が仕込んである。私がそういう風にしろ、と命じたから、間違いない。常に周りに注意できるかをテストした」

赤髪の男は、俐斗たちが座っているソファの目の前に座った。そして、俐斗をまじまじと見る。

――騎士団の奴らは、初対面の人をまじまじとするきらいがあるよな。

「今は、そっちの男に助けられたみたいだけどな」

俐斗は、やっとシュヴァルトが心配してくれた理由が分かったような気がした。

「申し遅れたが、俺の名はファルドフ。人事部部長だ」

威厳たっぷりに名乗るファルドフ。

「我が騎士団より届けられた手紙を見て、入団したい、とのことだったな。しかし、だ。そんな手紙を送った覚えはない。帰れ」

ファルドフは、馬鹿馬鹿しい、とでも言うように言った。シュヴァルトが反論する。

「シュタルクは初めて剣を握ったその日に、赤毛のファングを倒したのですよ。その事実を知ってもなお、そのようなことが言えるでしょうか」

「あの、噂の男はお前なのか?」

「噂になっていることは知らんが、そういうことだ」

 しばらく、考え込んでいたファルドフは、私たちの前に置かれていた例の紅茶を一気に飲みほした。

――コイツは何をしてんだ?

「俺はこれぐらいなんともない。では、シュタルク。来た時に門番がいただろう。あれと戦え、あれが最低ラインだ。あれに勝てなければ、すぐに帰れ」

――コイツ、絶対に普通じゃない。そもそもこの紅茶には毒なんて入っていなかったんじゃないか?

俐斗がそう思うほど、なんの躊躇もなくファルドフは飲みほした。

「これぐらいで、俺は死なないし、倒れたりもしない」

その喋り方は、俐斗たちに向かって言った、というよりは、自分に言い聞かせているような喋り方だった。

 ファルドフに連れて行かれたのは、大きく広いホール。練習場だ。

「なんですか、ファルドフさん……って、ええ!? さっきの子じゃないですか」

「その通りだ。手は抜くなよ。これはテストだ。それにコイツは、今噂になっているあの男らしいからな」

「ああ、あの赤毛のファングを一撃で倒したっていう。言われてみれば、そうですね。皆が言っている特徴にあてはまります」

「ルールは簡単だ。どちらかが、降参と言うまで、本物の剣で戦い続けてもらう」

――どちらかが、降参というまで、だと?

「ずいぶん危険なルールだな」

俐斗は、思わず不満を口にした。

――ファルドフ、この人は精神がおかしい。壊れている。

「別にやめても構わないが?」

一睨みされ、俐斗は腹が立った。負けず嫌いな心が燃える。

「やる」

俐斗は、これから戦う相手を見た。

――背丈は俺より低い。体付きも細いし、力はそんなになさそうだな。早さが勝負の分かれ目となってくるか。

「あ、僕は、フィニラム・アンドレアです! よろしくお願いします!」

「俺は、リト・シュタルク」

アンドレアの目の色が変わり、広い練習場に静かな時間がしばらく流れる。双方が息を整えていると、不意にファルドフの声が響いた。

「始め!」

「「ツァウバー、剣よ出てこい!」」

剣を呼び出すのは、ほぼ同時だった。しかし、その後の動きはフィニラムのほうが少しだけ早かった。

「すみませんっ!」

フィニラムの振るう剣が、俐斗に向かってくる。

――謝るぐらいなら斬りかかってくるなっての。

「シュタルクさん、危ない!」

俐斗の耳に、シュヴァルトの声がかすかに届いた。

「カシュッ」

何かが切れる音がした。しかし俐斗はまだ斬りかかっていない。

――斬られたのは俺か? しかし、どこにも痛みは感じない。

全速力で、距離を取った瞬間……。

「バサアッ」

青いものが舞った。同時に俐斗は頭が若干軽くなった気がした。

「髪が!」

シュヴァルトが柄にもなく叫んだ。

――でも、まだ戦える。髪が切れたことくらい、なんの差し支えもない。

俐斗は、相手を死なせない程度のダメージを与える方法を考えた。

――狙うなら、剣だな。

「ガシュッ」

フィニラムはよけようとしたが、運悪くタイミングがずれ、右腕に傷を負ってしまった。

――くっ、人を傷つけるってのは、気分のいいもんじゃないな。

「痛っ……。やりますね。でもまだ降参はしませんよ」

アンドレもさっきから、俐斗の剣を狙ってきている。右腕に傷を負っているのにも関わらず、素早さは先ほどまでとあまり変わらない。

「キィィィン!」

俐斗は、的確にアンドレアの剣を狙った。大きな音を立てたのち、フィニラムの剣が折れた。

――俺の勝ちだな。剣がなければ、戦えない。アンドレアは降参してくるはずだ。

そう思っていたが、アンドレアは動じない。

「こんな時に備えて、もう一振りあるんですよ」

「ならば、また剣を狙うのみだ!」

しかし、アンドレアも対策をたてるわけで、俐斗の思うように上手くいかない。

「思い通りにはさせませんよ!」

「ハアッ!」

今までよりも一番力を込めて、一番早く剣を振りかざした瞬間かもしれない。

「俺の勝ちだ!」

カランと転がる刃。

「降参です」

負けたというのに、何故だかフィニラムは静かな笑いを浮かべて言った。

「シュタルクの勝ちだ」

どこかふてぶてしい様なファルドフの声が小さく響いた。俐斗は、今までに様々な分野で勝利を得ていたが、今以上に喜びを感じたことはなかった。何か、欠けてしまっていた感情をひとつ取り戻したような気がしていた。

――素直に、嬉しい。

「良かったですね」

「浮かれている場合ではない。このあと、騎士団長への挨拶など、やらなければならないことはたくさんある。こちらも手続きを色々としなければならないものでね」

ファルドフは、どこまでも皮肉たっぷりに言った。

 「大体四、五人でメンバーを作るが、ここは三人しかいなかった。今までは、門番をやらせたり、戦略を練らせたりしてきた」

ファルドフに紹介された人の中には、さっきまで戦っていたフィニラム、門番のギルベルトがいた。あとのもう一人は、薄い茶色の髪の毛を後で一つに結っており、赤いフレームの細い眼鏡をかけている。見た感じ、賢そうなイメージを受ける。

「騎士団に入団することになった、リト・シュタルクだ」

「お前、本当に入団したんだな。俺は、ギルベルト・テトリー。俺らの足を引っ張らないようにしろよな」

ギルベルトは身長が高く、俐斗を見下すようにして言った。

「さっきも言いましたが、僕はフィニラム・アンドレアです。よろしくお願いします。よく、間違えられるんですけど、僕は男ですよ」

――コイツ、男だったのか。

「私は、リヒト・クロウディア。ケーキ作りが趣味ですね」

クロウディアの声は、俐斗が今まで聞いてきたどんな声よりも低かった。深く響くバスの声。そんな声をしておきながら、ケーキ作りが趣味とは、と、俐斗は興味を持った。しかし、なかなかに個性豊かで、協調性というものが心配になってきてもいた。

「ああ、シュタルク。言い忘れていたことがある。騎士団に入団した者は皆、騎士団本部に隣接する塔に寝泊まりすることになる。お前は明日からそこに泊まれ」

「了解した」

――出会ったばかりのロレンスと、シュヴァルトとも、もうお別れだ。会うことは多分無いだろう。




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