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完璧主義少年と死神様  作者: 乃石 詩音
第二章 君臨する騎士団
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主に一人は心配し、少年はただ突き進む

「うん、良いんじゃない?」

俐斗自身がやりたいこと。ついに彼は口に出した。ロレンスの返事は、驚いていた割には随分あっさりしていた。

「ろ、ロレンス、待って下さい。この手紙罠かもしれませんよ。大体ついさっきの出来事が書かれた手紙が、届く訳ないじゃないですか」

俐斗が疑問に思っていたことを変わりにシュヴァルトが喋った。こんなにも短時間で届くのか、と。だから、俐斗は色々考えてみていた。騎士団関連の手紙は最優先で届ける義務がある、とか、魔法を使って届けているから速い、とか。

――やっぱり気付くか。まあ、良しとしようか。シュタルクもその可能性に気付かない馬鹿ではないだろうし。

「まあ、間違いなくこの手紙は騎士団からではないね。大方アラフィスタからのと見て正解だろうけど……」

また、ロレンスは間を置いた。今度は肉ではなく、野菜の租借に忙しいようだ。

――お願いだから、少し空気を読んでほしい。

そうシュヴァルトは願ったが、無駄なことだった。あくまで、ロレンスのモットーは、「自分良ければすべてよし」だからだ。しかし、他人のことを放っておけない、というのは酷く矛盾しているのだが、ロレンスは気付いていなかった。

「これを利用すれば、すぐに騎士団に入れるだろう。普通に入りたいです、と言いに行くよりは。こんな手紙のことを知らないと言われても、昼間の戦いについて言えば、大丈夫だ。明日、早速騎士団の所へ行こう」

「明日、ですか?」

ロレンスは、思い立ったらすぐに行動を起こさなければ、気が済まないタイプだった。

「分かりました。僕もついていきましょう」

「確認するけどシュタルク」

ロレンスの纏っている空気が、いつもより真面目なものになった。

「騎士団は厳しい場所だ。覚悟はできてる?」

「もちろんだ」

どんなに、魔物を切り倒さなくてはいけなくても。たとえ、斬りかかる時にあの感触を味わなければいけなくとも。俐斗は、この道を選ぶ。これ以外にやりたいことは見つからない気がしていた。

「ちょっと暗い雰囲気になってしまったね。せっかくのおいしいご飯だ。楽しく食べよう」

笑う。ロレンスは良く笑う。

――何故あんなに笑うことができるのだろう。ロレンスに限らず、皆はどうやって笑っているのだろう。どうやったら、顔の筋肉をあんなにも重力に逆らわせることができるのだろうか。

俐斗はいつも不思議に思っていた。変な子。前の世界にいた時によく言われていた。この異世界に来ても彼以外皆は普通に笑っている。

――一体いつから俺は笑うことができない人になってしまったのだろう?

「シュタルクさん、どうしました?」

「なんでも無い」

――考え事を始めると自分の世界に入ってしまう癖はだめだな。

俐斗は、自分を嘲りたい気分だった。

「そうですか。なら、良いんですけど。魔物の盗伐なんて、今までやったことがなかったでしょう。本当はやりたくないのに、ロレンスに乗せられて無理をしているのではないかと思って……」

俐斗は驚いた。珀以外に、自分自身を心配してくれる人がいる、という事実に。なんという言葉を返したらいいかわからないうちに、「仕事がありますから」と言って、シュヴァルトは食事の席からはずしてしまった。

 「シュヴァルト、君さっき視えていたよね?」

シュヴァルトはロレンスの質問には答えず、ただ黙々と手を動かし、仕事をしている。

「変な勘繰りは、やめてください。まだ、今日中にやらなければいけない仕事はたくさん残っているんですから」

「はいはい」

シュヴァルトは答えてはくれない。

――絶対視えていた。シュタルクに関する未来が。妙にご飯の後から機嫌が悪い。いつも僕が仕事を残してしまっても、ここまでも機嫌は悪くならない。

シュヴァルトはいつも、笑って「仕方ないですね」といいつつも手伝っていた。

――一体何を視た? 聞いても答えてくれない。

「確かに先ほどアテネスに関する未来が視えました。しかし、それについて詳しく教えする義務はありません。僕はただの人間です。いつ死ぬかもわからない。けれど貴方は死神。滅多に死ぬことはない。いづれ、真実を知ることができるでしょう」

言い終わると同時に手の動きがピタリと止まった。椅子をクルリと回し、降りる。

「今日の仕事は終わりました。僕はもう寝ます。では」

シュヴァルトは、感情を押し殺すとき、早口になるが、大体数分で直る。

――だけど、今はかれこれ数時間はあの状態だ。それだけ、心が不安定になっているのか。そんなにも酷い未来が視えたのか。



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