一難去って来るものは、一難どころでは済まない時もある
今まで読んでくれた皆様にお知らせです。タイトルを読んでいただければわかるかとは思いますが、主人公の性別を変えたり、新たなキャラを増やすなど、大幅な書き換えを行いました。ですが、話の流れは、そんなに変えてはいないので、気になるかただけ読み返す形で大丈夫かと思います。もし、読み返すのが面倒、でも知りたい、という方がいれば、コメントで聞いてください。
変更点
主人公 元島俐斗 リト・アテネス(男)→ 元島俐斗 リト・シュタルク
友人 琴葉(女)→ 天宮蒼輝(男)
新キャラ 花乃木由良 ユラ・フォール(女)
俐斗と蒼輝の過去の話や、由良と蒼輝が異世界に来た話も新しく閑話として、更新しております。よろしければ、そちらも是非。
部屋の空気が穏やかになったところで、リヒトが口を開いた。
「さて、皆さん。戦いから帰ってきたら、やらなければいけないことがあります」
「なんだ?」
珍しく穏やかな笑みを浮かべていたギルベルトの顔は、いつの間にかいつもの無表情へと戻っており、口調もいつも通りだった。
「人事部への報告ですよ。あろうことに今回の場合、人事部長へ報告するように言われています」
――あの、イカれた奴に会わなきゃいけないってことか。
「嫌な予感しかしないな」
「全く、その通りですよ。しかし、それでも、やらなければいけない事です。行きましょう」
「花乃木、今から結果報告に行く。お前はそこで休んでろ」
「分かった」
この光景を見ていた、フィニラムがにやにやしていたことなど、二人は知るよしもない。
「結果を報告いたします。我々はカルトッフェルン地方にて、三体の青毛のファングを倒して参りました。町の被害を少しでも減らすため、最終的には、高度な光魔法をフォールが使い、標的を倒した次第です」
四人の額には、変な汗が浮いていた。ファルドフを前にして、報告するという一番思い責任のあるリヒトは、いつもは低い声が上ずっていた。
「……隊員一人が、魔力消耗、か。青毛のファングを相手にして誰一人死なないとは、まずまずだな。いや、上々だ」
「お褒め頂き、光栄です」
ファルドフは、目を通していた資料から顔を挙げた。
「俺の目は、やはり間違っていなかったようだな。どうだ、死神の討伐もしてみないか?」
この言葉に一番反応していたのは俐斗だった。
――死神の討伐……。
「じっくり検討する時間を頂いても構わないでしょうか?」
「ああ、構わん。良い返事を待っている」
「……はい」
蝋燭の明かりだけで照らされている部屋は暗かった。俐斗はここで初めて、ロレンスの屋敷の明かりは魔法も使われていたのかも知れない、と気付いた。
「死神の討伐について、皆さんの意見を聞きたいと思います」
部屋の暗さはまるで、俐斗の心を現しているようだった。
「別に俺は、死神に恨みはない」
「僕も、死神を倒す必要はないと思っているよ」
「俺は、死神に助けられた。倒す理由はない」
それぞれ、死神を倒す理由を持ち合わせてはいなかった。助けられた俐斗はなおさらだ。
「俺は、この世界に来たばかりで何も知らないが、なんで誰も死神と共存する、という選択をしないんだ?」
「ハハッ、面白いな、お前。死神と共存か。そうだな、その手もあるのにな」
ギルベルトには、若干のアルコールが入っていた。笑った後もまた、ビールの入ったジョッキを傾けた。フィニラムも、ワインを飲んでいる。そのことに俐斗は最初驚いたが、フィニラムの年齢は二十三歳だということを聞いて、さらに驚いた。こんな、童顔な二十三歳がいてたまるか、と。
「ねえ、クロウディアさんは、どう思う?」
「そうですねえ。もし、共存できたとして、怖いのは、共依存ですかね。とりあえず、この隊の方針としては、死神と戦うつもりは無い、ということでいきましょう」
しかし、リヒト、ギルベルト、フィニラムの三人は思っていた。自分の考えは別に、死神に助けられたシュタルクに感化されたものではない。しかし、必ずファルドフは、勘違いをするだろう、と。俐斗もまた考えていた。この隊の方針が、この世界の住人全てに受け入れられるものではないだろう、と。