ギルベルトが昔話をし、感情の嵐が部屋を吹き抜ける
今まで読んでくれた皆様にお知らせです。タイトルを読んでいただければわかるかとは思いますが、主人公の性別を変えたり、新たなキャラを増やすなど、大幅な書き換えを行いました。ですが、話の流れは、そんなに変えてはいないので、気になるかただけ読み返す形で大丈夫かと思います。もし、読み返すのが面倒、でも知りたい、という方がいれば、コメントで聞いてください。
変更点
主人公 元島俐斗 リト・アテネス(男)→ 元島俐斗 リト・シュタルク
友人 琴葉(女)→ 臼井珀(男)
新キャラ 花乃木由良 ユラ・フォール(女)
俐斗と珀の過去の話や、由良と珀が異世界に来た話も新しく閑話として更新しております。よろしければ、そちらも是非。
ぱあっとした光が、青毛のファングに向かって一直線に進んで行った。しかし、由良の全身からは力が抜け、ヘナヘナとその場に崩れ落ちてしまった。
「ちゃんと、倒せたのかな……」
「フォールさん!」
由良の意思は、そこで途切れた。
「あれ、ここは……?」
「ここは、騎士団本部だ。それより、大丈夫か?!」
「 ?!」
声が聞こえた方を見ると、俐斗と、クロウディアがいるのが分かった。しかし、俐斗の言葉はわかっても、リヒトの言葉を聞きとることが出来ない由良。
――なんで?
「 ?」
「どうした。まだ、具合が悪い所でもあるのか?」
由良に聞こえているクロウディアの言葉は、由良が全く聞いたことも無い言語だった。
「クロウディアさん、ふざけないでください」
そんなことを言ったが、由良は知っていた。リヒトが、ふざけるような人ではないと。
「おい、もしかしてお前……」
由良は、俐斗の言おうとしていることを察した。
「そう、元島君。私、クロウディアさんの言っている言葉が聞き取れないの」
俐斗は、リヒトにその旨を伝えた。
「きっと、魔力が足りなくなってしまったのですね。別世界から来た人は、その人自身に宿っているわずかな魔力で、言葉を自動的に翻訳するらしいのですが……」
「高度な魔法を使って、魔力が足りなくなってしまったってわけか」
俐斗は由良を見やった。
「馬鹿だな、お前」
常に学年トップの人に馬鹿と言われれば、返す言葉もない。由良は反論できなかった。
「何を言うんですか、シュタルクさん。フォールさんはただ、隊員として貢献したまでですよ」
「それにしても、だ。猪突猛進に行動するのは、ただの馬鹿だろ?」
「に、二回も言わなくたって良いじゃないですか?」
今まで、誰かと特別に親しかったわけでもない由良は、口論で勝つ術を持ち合わせていなかった。
「ああ、すまん。悪気はさらっさら無い」
由良は、やるせない思いをシーツを握りしめる、ということでどうにか鎮めようと思った。その時、部屋のドアが開いた。部屋に入ってきたのは、ギルベルトとフィニラムだった。テトリーの顔は、いつもは表情を見せない人とは思えないほどに、焦っているのがよく分かる。
「おい、大丈夫なのか」
「ああ、命に別状はない。ただ、魔力を使い切ってしまったらしくてな。しばらく俺がいないと、この世界の奴らと会話が成り立たない」
ギルベルトは、全ての息を吐き切る勢いで、安堵のため息をついた。
「良かった。また、俺のそばで誰かが魔物に殺されるかと……」
「前に、何かあったのか。そう言えば、魔物に復讐する、とか言ってたな」
俐斗の質問に反応したギルベルトは、力の抜けていた手を強く握りしめた。
「俺の両親と妹は、魔物と貴族に殺されたんだ。あれは、七年ぐらい前のことになるが……」
貴族に殺された、という言葉に、フィニラムは顔を曇らせる。
「あの日、俺たちは町に出かけていた。魔物もそんなに出現しない平和な町だった。でも、何の気まぐれか、その日魔物は現れた。偵察に来ていた貴族は真っ先に逃げた。良い剣を持っているのにも関わらずにな。親父は先陣切って魔物に立ち向かったが、死んだ。母親は妹をかばいながら逃げていたが魔物に殺された。残された俺はどうにか逃げ延びながら騎士団の助けを待っていた。騎士団の助けが来た時には既にたくさんの死者が出ていた。その時から俺は貴族を嫌っているし、魔物に復讐するって決めたんだ」
ギルベルトは、どうにかこうにか憎しみと、怒りと、悲しみの感情を抑えながら最後まで話した。
「それは大変だったな」
「もしかして、その話はファラスデンの悲劇ではありませんか? その町にいた一般人は唯一十代の男の子だけが生き残った、という。その子はテトリーさんのことだったのですね」
「まあ、そう大げさに言われることもあるが、俺はただ何も守れなかった無能な奴だ」
ギルベルトは、自嘲気味に笑った。
部屋には、思い沈黙が流れた。誰もが、ギルベルトに何を言ったらいいかわからずにいた。しかし、おずおずと口を開いたのは、由良だった。
「ねえ、元島君。なんかテトリーさんが長々と話していたようだけど、何を話していたの?」
俐斗は、ため息をついて、さも仕方なさそうに、もう一度同じことを語りだした。
「……そうだったの。テトリーさんは、勘違いをしている」
「は?」
「だって、魔物に対する憎しみや怒りは結果的に魔物を倒してやろう、という思いにつながっているでしょ? それは、絶対誰かを助けている。だからテトリーさんは、誰も守れない無能なんかじゃない」
俐斗は、すかさず、それをギルベルトに伝えた。
「そう、か」
ギルベルトは笑った。それはさっきとは違う自身を嘲るような笑いでは無かった。
「ありがとな、新人。俺は、またお前に助けられた」