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完璧主義少年と死神様  作者: 乃石 詩音
第三章 戦いの日々
17/24

穏やかな時間は刹那に呑まれ、町は混沌に呑まれる

 前回の話、少し付け加えました。そちらを読んアでからこの話を読むことを全力でお勧めします。(番外編ではなく、本編の方です)

 「ごめんくださーい」

一行が入った店は、町の一角の小さなお店。レンガ造りで、見た目はとてもお洒落なお店だ。

「四名様ですか?」

「はい」

リヒトの思惑通り、人は少なく、座る席はすぐに確保できそうだった。

「ここのお店は、パンが美味しいらしいですよ」

「流石、データベースだな」

「お褒め頂き光栄です、シュタルクさん」

「こちらの席へどうぞ。ああ、騎士団の方たちなんですね。どうぞ、ごゆっくり」

奇麗な金髪のお姉さんはそう言って、店の奥へ消えていった。

「やっぱ、肉だよな、肉」

「予算以内でお願いしますね。一人ずつの予算は決められてありますから」

 開いたメニューは、俐斗と由良にとって知らない名前の料理名で埋め尽くされていた。――っていうか、なんで俺、見たこともない知らない字を読めているんだ? そう言えば、今までだって。聞こえてくる言葉と、口の動きはずれていた。自分に、翻訳機能でも付いているんだろうか? 

次にアラフィスタに会うことになったら、そこらへんも問い詰めてみよう、と俐斗は決めた。

「シュタルクさんとフォールさんは、注文決まりました?」

「ああ、いえ……。料理名だけ見てもどういうものかわからなくて」

俐斗が思っていたことを由良が代弁した。

「言われてみればそうですね。気付けずにすみません。実物がどういうものか見せることが大事、というのは商売の基本ですね。気付けなかった自分が情けなくて仕方ありません」「シュタルクさんは、好き嫌いとか無いんですか?」

「はい、ありませんよ」

「そうなんですか。すごいです。僕はいまだにニンジンとピーマンを食べられないんです」

えへへ、と笑うフィニラム。

――俺は、ほめられるようなことは何もない。なんてったって、嘘だから。そう、俺は、また嘘をついてしまった。自分を良く見せるための、しょうもない嘘だ。反省もしているし、後悔もしている。いつかは、どうにかしなければ、と思っている。

しかし俐斗は、その「いつか」がいつ来るかは分からない。

「じゃあね、僕のおすすめは……」

刹那、俐斗は自分の背中が凍りついたかのように、ゾワリ、とした。嫌な予感がした。外から聞こえてくる悲鳴。子供が親を呼ぶ叫ぶ声と、その親の泣き叫ぶ声。

「チッ、呑気に昼飯食ってる場合じゃ無くなったな。仕事だ、いくぞ!」

「気を付けてください。ここらによく出現する青毛のファングは、赤毛のファング並みの早さ……いや、それ以上の素早さの上に、攻撃力が高いです」

「バーカ、お前も行くんだよ」

「データベースは戦えません!」

「まず無いだろうが、いざって時の回復役だ。お前は魔法が強いんだろ!」

「でも……」

「迷ってる場合か!」

いきなりの事に、フィニラムはオロオロしているし、二人は口げんか。そんなことをしている場合ではないって言うのに。俐斗と由良は、ドアを強く開けてレストランから出た。

「俺が一人で戦う。花乃木は後ろから魔法で援護を頼む!」

「分かりました!」

「あ、おい!  ああもう、うだうだ言ってねえで、行くぞ! ほら、お前もだ!」

「ふ、ふええ!?」

フィニラムの目には、涙が浮かんでいた。

「新人二人に先越されてたまるか。俺は、魔物に復讐するんだ!」

町は、先ほどまでの穏やかな空気はどこへやら、混沌のさなかだった。逃げ惑う人々の中から俐斗は魔物の姿を探していた。

「元島君、危ないっ!」

由良の叫び声に驚き後ろを見ると、迫りくる青い影……。

――ああ、俺はここで死ぬのか……。

俐斗は覚悟して、目を瞑り、剣を喚ぶことは諦めた。

「ガシュッ!」

「おら、ぼーっとしてんなよ。ここは戦場だ。気を抜くな。俺がいなかったら、お前死んでたぞ」

「……まさか、お前に助けられるとは思わなかった」

「俺を何だと思ってんだよ、お前は。ほら、さっさと倒すぞ」

 ――この前より格段に少ないが、格段に強い。あの、人事部長は、俺らを殺す気か。

何か、遠距離攻撃ができれば……、と由良は考えていた。

「クロウディアさん、何か遠距離攻撃できる魔法ってないですか?」

「ありますが、高度なものばかりです。私でも操れるかどうか……。それ以前に、魔力が足りないです」

「あるなら、呪文を教えてください!」

クロウディアは、困ったような顔をした。

「分かりました、教えましょう」

クロウディアさんは、羽ペンと羊皮紙を取り出し、呪文を書いて渡した。

「ありがとうございます。これで、なんとかなりそうです」

――この国の人でも魔力が足りない魔法。操れない魔法。それが、私に使えるだろうか。使えるチャンスは、一回と考えた方が良い。ならば、三匹が集まった瞬間が狙い目。そして、元島君と、ギルベルトさんと、アンドレアさんが、敵から離れた瞬間。それは、すなわち今!

「ツァウバー・シュテルプリヒ・フルヒト!」

全身に力を込め、力の限り叫んだ。



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