閑話4 現世で花は枯れ、新たな始まりを迎える
――やっと、やっと、ここまでたどり着いた……。ずいぶん長い道のりだった。
花乃木由良は、保健室を目の前にして、安堵した様子でいた。しかし、その具合の悪さは、異常だった。数時間前にも、具合が悪く保健室に来て、先生特製のココアを飲んだばかりのことだった。その時はこんなに具合は悪くなかった。
由良は、ドアに手をかけた。
「あれ、花乃木さん。どうしたの? 大丈夫? とても具合悪そうに見えるけど」
「臼井君……」
――この人も、変わっているものね。クラスで孤立している元島君と一番仲がいいし、私にも話しかけるなんて。
由良は、クラスの中で、いや、学校の中で浮いていた。かわいさと美しさ半分で、見た目は悪くない。むしろ、良い方にはいいる。では、何故か。この世の物事をなんでも人とは違った感覚でとらえている、というのが孤立の理由だ。
「僕は、俐斗の様子がちょっと気になってね」
「……そうですか」
由良は蒼樹の存在をあまり気にしないことにして、保健室のドアを開けた。
二人の目に映っていたのは、不気味に、それでも艶やかに笑う先生と、ぐったりとした俐斗を中心にして渦巻く光であふれた光景だった。
「あらら、タイミングが悪いわよ、花乃木さん。あと、あなたは、誰だったかしら」
「臼井珀です」
珀は、掠れた声で答えた。この状況で掠れた声でも答えられた蒼樹は、素晴らしいものだと、由良は思った。
「そう。見られたものは仕方ないわ。タイミング悪い、とは言ったけれど、花乃木さんは元島君と同じようにするつもりだったし、一人くらい増えても問題ないか」
その言動は、二人には到底理解できない物だった。ただ、悪い予感はしていた。
「さあ、あなた達も、別世界へ連れて行ってあげるわ!」
その声を聞いた瞬間、二人の目にはどこまでも続く白い景色が映っていた。そして、今までの思い出がよみがえる。
――これが、走馬灯ってやつか。僕、死ぬのかな?
抗うこともせず、珀はぼんやりとそんなことを思っていた。
――意味がわからない……。でも、楽しくなる気がするかもしれない。
由良は、これから一体どんなことが起こるのか、と楽しさに胸を躍らせた。