別世界に疲れた少年に、驚きの花束が贈られる
「おはようございます」
例の、高くそびえるフェンスの前にはフィニラムと、ギルベルトがいた。
「まだ、門番をやらされているのか?」
「今日の午前十時までは門番ですよ。十時一分ゼロ秒からは、魔物討伐第百八十八部隊の隊員です」
フィニラムは、淡い金髪の髪の毛をフワリと揺らして、はにかみながら答えた。それに対してギルベルトは一昨日と変わらず無表情で、ぶっきらぼうで、愛想のかけらもない。それは俐斗にも言えることなのだが。
俐斗は、騎士団本部を見上げてみてみた。
――他の建物とはくらぶべくもないほどの大きさを誇るこの場所には、魔物をたおすための全てがそろっている……はず。別に俺は、魔物には何か恨みがあるわけでもない。むしろやってみたい事見つかったきっかけだし、感謝すらしているかもしれない。
「何をボーッとしているんだ、新人。今日から任務はあるんだ。そんなところで立ちどまっている暇はない。さっさと行くぞ」
ギルベルトは、巨大なフェンスの鍵を開け、急かした。いつの間にかフィニラムも居なくなっている。
「これから軽くトレーニングをしたら、魔物がちらほら出現する地区へ出る。俺達はそれなりに期待されている。気を引き締めろ」
――は? 俺たちが期待されている、だって? 昨日のあの様子からどう推測したら、そうなるというのだろう。それは、かなり自己評価が高すぎやしないだろうか。
「そのような態度には見えませんでしたが?」
昨日のあの対応からして、期待されているようには全く思えない。
「ファルドフ様の、昨日の様子は、他の部隊と比べればまだマシな方なんだよ」
いちいち説明するのがさも面倒だ、とでもいうかのようにしてギルベルトは言った。何故、騎士団の隊員はそんなにも期待されていないのだろうか? 人が生きる上で害となる魔物を倒す。それが、騎士団員に与えられた使命であり、義務。それが、思うようにできていない、ということだろうか。
「何故そんなにも、俺たち隊員は低く見られているんだ?」
「さあ、何でだろうな。俺には分からねえよ、お偉いさんの考えていることなんて」
――騎士団の上層部は何かを企んでいるのか。
「僕もね、分からないんだ。でも、多分……きっと、死神討伐隊と関係しているっていう話を聞いたことがあるよ」
――ここで、死神討伐隊の名前を聞く事になろうとは。
「あくまでも、噂だけどね」
「ふん、下らねえな」
騎士団本部の建物の中に入って、しばらく廊下を歩く一行。たどり着いた部屋の前には、リヒトが待っていた。
「今日からよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
リヒトは、相変わらずの重低音で答えた。
「一応、今日の魔物討伐作戦の戦略を練っておきました」
「おう、ありがとうよ」
ギルベルトはこの部隊の部隊長か何かなのだろうか、と、俐斗は推測した。リヒトから、資料を受け取った。
「今日は、カルトッフェルン山脈近くの地方へ出向くことになりますので、一泊することになります。経費で落とせますが、なるべく格安の宿を探しておきました」
――カルトッフェルン山脈? 舌かみそうな名前だな。
「やっぱりクロウディアさんは、すごいね。同じ部隊になって心強いよ」
「お褒め頂き、光栄です」
「ほら、メンバーも揃ったし、トレーニングに行くぞ」
「待って下さい」
「なんだ?」
「実は、今日の朝に突然メンバーの追加を言い渡されたのです」
――っていうことは、まだ、揃っていないっていうことか。
リヒトの陰から現れたのは、女性だった。
――女か。
フィニラムを女性だと勘違いしていた俐斗だったが、いましがた現れた子に限っては、間違えようがなかった。なんたってその子は……。
「花乃木……。何でこんなところにいるんだ……?」
俐斗のクラスメイトだったのだから。
「色々あってね。本当に元島君がいるなんて、びっくりした」
事情を飲みこめない他の三人は、ただ唖然としている他無かった。
花乃木由良は、俐斗の記憶と変わらない黒髪のストレートを揺らしながら、恥ずかしげに言った。
「どうも、ユラ・フォールです。魔法しか使え無い無能ですが……、よろしくお願いします」