少年は潔く別れ、二人は快く送り出す
「やはり、手紙は偽物だったみたいです。とりあえず、戦うことになり、シュタルクさんは見事に勝ちました」
「そんなわけで、俺は明日から騎士団で過ごす。短い間だったが、世話になったな」
――本当に短かった。もう少し死神と一緒に過ごしてみるのも面白かったかもしれない。
「さすが、シュタルク。やっぱり、僕の予想は間違っていなかった。早いね~。入団おめでとう。今日はお祝いだ、宴だ」
語尾に星マークか、音符マークがつくような勢いで言うロレンス。
――きっとこの人は、退屈だとか、つまらないだとかいうような感情が、世の中にはあることを知らない。どんなことも楽しむ。多分この人は、楽しくないことも自分の手で楽しいものに作り替えてしまうのだろう。
「でも、寂しくなるね。一週間……、いや一か月延長サービスとかってないのかな?」
「無いな」
――DVDやらCDやらを借りるレンタルショップじゃあるまいし。それに、あの騎士団のことだ。そんな、悠長には待ってくれないだろう。
「はは、そうか」
ロレンスは、よく笑う。笑っていない事の方が、珍しい。
――そんなに、四六時中笑っていたら、顔の筋肉が痛くなったりしないのだろうか。
「では、俺は、持ち物の準備をする」
「分かったよ」
俐斗は、結局二日しか使うことのなかった部屋に向かった。
相変わらず広い部屋の中、準備をしているとドアをノックされた。
「……ああ、シュヴァルト」
「この剣は、昨日ロレンスが武器屋で買っていたものです。何故、大鎌ではなくブロードソードを買っているのかとても疑問に思っていたのですが……。見透かしていたんですね、きっと。あのロレンスのことですから」
渡された剣を手に取った。
「この剣、軽いな。使いやすそうだ」
「それは、良かったです」
――昨日まで使っていた剣よりも軽い。装飾が少ないからだろうか。どうやらロレンスは、あの剣が重く、若干使いづらいという事も見透かしていたのではないだろうか。
そう思うと、俐斗は何だか怖くなった。
――見透かし魔か、ロレンスは。
「きちんと、手入れもしておきました。頑張ってくださいね。では」
それだけ言うとシュヴァルトは、ドアをパタリと閉めて、居なくなってしまった。
――まだ、お礼を言ってないんだが。
剣を眺めていると、何とも形容しがたい感情が湧きあがってきた。
「短い間で良かった」
――あいつは、一体どこまで優しい死神なのだろう。何か罠があるのではないだろうか、と思うほどに優しい。まだ、会って数日だというのに大分俺はロレンスのことを信頼してしまっている。見ず知らずの俺を拾ってくれて、屋敷に泊めてくれて、必要なものを買ってくれて、不便の無いようにしてくれて。でも、所詮死神なのだ。ときどき忘れかけてしまうが、普通の人間ではない。死神が与えてくれる優しさなのだ。その優しさに頼るのが短い間で、本当に良かった。
「シュタルク、本当に大丈夫? 忘れ物は無い?」
俐斗は、必要最低限の物しか入れていないトランクを持って、外へ出た。勿論、剣も持って。
「ロレンス、その質問一体何回目だ。大丈夫だと言っているだろう、心配するな」
「シュタルクさん。まだ、たったの十回しかロレンスは聞いていません」
俐斗はもう、なにも言うまい、と心に決めた。いちいち突っ込みをしていたら、騎士団につく前に疲れてしまいそうな気がしていた。
大きな屋敷に良く似合う大きな門をくぐって、後を振りかえると、相も変わらず、朝からテンションの高い、ロレンスが大きく手をふっていた。
「本当に、世話になったな」
深く一礼して歩き出す。もう、後は振り返らない。
「Bis bald」
[Gute Rise]
何をいっているのかは、分からなったが、快く送り出しくれているような気持ちは、はっきりと伝わってきた。