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盛夏も過ぎた

作者: 竹仲法順

     *

 その日、仕事の合間に街のカフェでコーヒーを飲みながら、ゆっくりしていた。体はきつかったのだが、夏も盛りが終わり、そろそろ晩夏へ入る。不意に持っていたスマホが鳴り出し、取り出してから、着信を確認すると、会社からだった。受信ボタンを押して出る。

「はい、香村(こうむら)です」

 ――あ、俺だ。今から帰社してくれないか?頼みたい仕事があるんだ。

「分かりました」

 社長の須崎(すざき)からだったので、一言言って切り、会社へ向かった。ここからだと歩いて十五分ぐらいで程近い。歩きながら、街の光景を見る。段々と夏が終わっていくのが、街の様相からも察せられた。歩き続ける。仕事は逃げない。須崎も待っているだろう。社長室でパソコンに向かいながら……。

 長年、今の社にいる。何もかも知り尽くしていた。社内でも部長ポストにあり、内部事情はしっかりと把握していて、その都度手を打ってきた。須崎も最近、この街の建設業界の会合に顔を出し、中小建設業者とはしっかり手を携えている。俺もそれに習っていた。いつ社が巻き込まれるか分からない不祥事などを極力警戒している。下手なことをすると、検察が令状を持って乗り込んでくるのが、土建屋の実態だ。危ないな。そう思っていた。

     *

 帰社し、ノックして社長室に入ると、須崎がいて、

「香村、今から大事なものを渡す。見ててくれ」

 と言い、スーツの内ポケットから一本のフラッシュメモリを取り出し、脇にあった原本と添えて渡す。中を見ると、公共工事の入札記録だったが、どうやら不正な類のもののようだった。一通り見てから、

「これは……」

 と言うと、須崎が、

「隠蔽してくれ。何があっても検察に渡すな」

 と言ってきた。そしてまた執務に戻る。一礼し、社長室を出てから、フロアへ戻った。建設部の部長として、不正な工事記録をしょい込めということだ。まさに時限爆弾だった。厄介だが、これも幹部社員の仕事だ。部長席に行き、原本とデータの詰まったフラッシュメモリをデスクの奥に仕舞い込んで、厳重に鍵を掛け、閉めてからキーを処分した。検察が嗅ぎ付けると、どこまででも調べ上げるのだから、十分留意して……。

 何気ない風を装い、外へ出た。辺り一帯は蒸すのだが、一週間前よりも過ごしやすい。一仕事終えると、ドッと疲れが出る。自宅へと歩きながら、そう感じていた。

     *

 不意に前方からスーツ姿の壮年男性が来た。恰好からして検事だ。逃げられない。そう思って立ち止まると、一人が、

「香村健二郎さんですね?」

 と訊いてきた。頷くと、案の定検察官で、

「D地検までご同行願えますか?」

 と言い、俺を連行した。すでに検察は嗅ぎ付けていたのだ。あの不正な工事記録の実態を。そして須崎のいるオフィスも追ってガサ入れがなされるようである。思った。一巻の終わりだと。地検で聴取される際、今回の件は一切黙秘しようと考えていた。下手に口にすると、社に更に迷惑を掛けてしまうので。警戒していた。地検の捜査は恐ろしいのだから……。この連中にとって、会社一つ潰すのぐらい訳ないのだし……。

 乾いた街の一角から、ワゴンに乗せられる。そして車両はD地検へ向かった。まっすぐに。

                                   (了)

                            




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