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最後のガラパゴス。  作者: 坂戸樹水
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 ガラパゴスのポテンシャルはスゴイのよ?

新型はウイルス駆除アプリ何て投薬の過剰なサービスを受けたり、ダウンロードしなきゃ直ぐに病気にかかる軟弱物だけど、私のガラパゴスときたら病気知らず。

それはまぁ……各企業で使ってる旧式の電波が違うから、ウイルスを作る側も『手間がかかるからやりません』ってだけらしいけど……


 何にしても!!

病原菌 貰いまくって真っ先にダウンする新型とは、スタミナ以前に精神力がケタ違いなの!!

私が嫌がる迷惑メールだって9割がた撃退してくれる!

親のように恋人のように、私を守ろうとする意識が高い系!



(ベタベタ触られて可愛がられてばかりいるから、虚弱体質になるんだバカヤロ!!)



 険悪になってゆく私の顔に目を側んで、鰐口サンは新しい煎餅の袋を開けるとバリバリ音を聞かせながら問うて来る。


「ねぇ、音子は何で そんなに旧式に こだわんの?

確かに それは使いやすいけどさ、好い加減 人前で出すの恥ずかしいレベルだよ?」

「そうそう。そんなの使ってンの音子サンくらいですって!」

「新型、便利だけどぉ? スクロールとか画面にタッチで指1本!」

「怠惰よ、怠惰!! 心と心の通い合いが見られないわ!

アナタ達は便利に利用する事だけを考えて、相手の事を無視してる!」

「「「……」」」


 ホラ、ごらんなさい。言い返す言葉も無いでしょう。

私には全部お見通しなの。少しは反省すると良いわ!


 こうして私が鼻高々になっている所に、キャンパスで有名な男子大学生=大上筧吾おおかみけんごクンがヒョイと顔を出す。



「どうしたの、4人とも。黙り込んじゃって?」



 筧吾クンはビスクドールのように凛々しく美しい男子。

キャンパスでも この美貌に打ち抜かれない女子はいない。勿論、この私も。


(あぁ!! 今日もパーフェクトビューティー!!)


 筧吾クンは今時 珍しい程に硬派で美しいイケメン。

けれど、私は彼の持つ新型が1番嫌い。


 皆が筧吾クンに見とれている間に、彼のスマホがCD並みの音質を聞かせる。

どうやらメールを受信したようだ。

筧吾クンは慣れ親しんだ手付きでスマホを操る。


(あーあーあー!! クソォ、あの新型めぇ!!

筧吾クンに あんなにも寵愛されてるなんて憎い!! 憎い!!

ああやって奇麗なメロディーで気を引き、構ってチャン風を吹かすとは、

機械ながら恐ろしいヤツめ!!)


 コレよ。私が新世代の携帯電話を受け入れられない理由は。

ちょっと分からない事があれば『検索~』とかって、人目を憚らずイチャコラしまくる。

どうせなら人に聞けば良いのに、博識な人材を求めて自らの足を使えば良いのに、新型に頼りきり。

指先1つで思い通りって、そりゃ人は思い通りになりませんし、自分の都合の良い時に連絡が取れるわけじゃ無いけども。

だけど、その いじらしさが良いんじゃないかって私は思うのよ。

その いじらしさが、ガラパゴスには残っている。私はそう思うの。



(生きた人間同士が育むべき絆の過程を、ニュータイプなんぞに奪われてなるものか!!)



 ―― と、

1人熱い信念を燃やしている間に、筧吾クンはメッセージを読み終え、『うんうん』と頷く。

そして 再び私達を見ると、申し訳なさそうに言うのだ。


「あの、同じゼミの鶴野つるのってヤツが企画した事なんだけど、

今度 飲み会やるから女の子誘っとけって頼まれちゃって……

いきなりだけど、良かったら4人とも どう?」


 女の子を誘うのは不得意そうに、筧吾は苦笑しながら伺いを立てる。


(つ、鶴野めーーー!!

そんな安っぽい誘いを一声も上げず、活字だけで筧吾クンに頼もうとは けしからん!!)


 私が更なる怒りに震えていれば、我が女子友は構わず挙手。

偶然とは言え、筧吾クンと一緒に飲めるのだ。

こんなチャンスを逃しては、一生 彼の連絡先をゲット出来ない。



「ゎ、私も行けます!」



 乗り遅れてはなりません。当然 私も参加します。

飲めないけど飲みます。烏龍ハイ装いながらウーロン茶 飲み下します。


 4人の挙手が揃うと、筧吾クンはホッとしたように肩を撫で下ろす。


「ああ、良かった、助かったよぉ。それじゃ、予定はグループメッセージで決めようか?」

「「「賛成!」」」

「え!?」


 ま、待ちなさいよ……

私、グループメッセージ出来ないわよ。何の組織グループも持ってないわよ……

いいえ、出来たってやらないわよ。スタンプでやり取りする何て嫌だもの!

メールじゃ駄目なの!? 電話じゃ駄目なの!?

1通1通 手間隙かけて親睦を深めるってのは時代錯誤な思想なの!?


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