こっくりさん ③
こっくりさんの解決法、は。
関わらないのが一番だ。
昨日、影宮くんが呟いた言葉を、口の中でゆっくり転がす。
そう傍観してもいられなくなった事態に、おそらく私だけが、ついていけなくなっていた。
◆
「昨日、赤井優子、木下春菜、川瀬梨花、清水理沙が、放課後不審者に襲われた。とりあえずは全員命に別状はなく、――――」
赤井。木下。川瀬。清水。どいつもこいつも、聞き覚えのある名前ばかりだ。
私のクラスメイトなんだから、話した記憶はなくても、そりゃあ覚えはある。でも、そうじゃなくて。私が言いたいのは、そういうことじゃ、なくて。
こっくりさん。
昨日の、こっくりさんをやっていたグループが、そんな名前だったと、気づくのはたやすかった。
◆
学校は臨時休校となった。もう少し早めに連絡してくれたら、うちらも学校に来ることなかったのにねーと、花蓮の言葉をそうと聞き流す。教科書やらノートやらをしっかり詰めた重いカバンをよいせと担ぐ。彼女らがどこで不審者とやらに襲われたのかは知らないが、学校であることは間違いないんだろう。なんとなくそんな感じがした。
教室を出る。臨時休校、ということは、部活もさすがに休みだろう。それじゃああの部活に命を賭けているかのような後輩は捕まえにくい。私たちは一応カレカノの関係だというのに、お互いのことを何にも知らないのだ。彼がプライベート、何をして過ごすのかなんて、実のところ全く把握していない。
さてどうするか。
立ち止まって三秒くらい、あ、と私はすっかり失念していた携帯を取りだす。いまだ持ち慣れていないからか、これの存在はよく忘れてしまう。
よしさっそく、となったところで、タイミングよく着信。
「もしもし」
『電話出るの早くないすか』
「今ちょうど私も電話しようと思ってたから」
『先輩、今学校ですか』
微妙に会話がかみ合わない。まあいい。いつものことだ。
「……そうだけど。ていうか私、影宮くんに聞きたいことがあるんだけど」
『はあ。誕生日以外なら答えますけど』
誰が知りたいかそんなこと。この状況で。いやこの状況でそれだけを隠されたら気になるけど。
「あの、これってもしかしなくても、こっくりさんの仕業?」
『これって何ですか』
廊下で立ち止まりっぱなしだった私を、鬱陶しそうに人が避ける。私は邪魔にならないよう端の方に進んで、会話を続けた。
「……今日の、臨時休校の原因だよ」
『ああ。やっぱり昨日襲われたのって、例のこっくり集団だったんすね』
変なグループ名をつけられてると知ったら、彼女らもさぞ浮かばれないことだろう。いや、まだ死んでないけど。
「どういうことさ」
自然と、言葉には怒気がこもる。意識なんてこれっぽっちもしてなかったから、自分で驚いた。
先輩? と、不思議そうな声色。それさえわざとらしく感じて、でもここで声を荒げるのも大人げない気がしたから、必死にこらえて、かわりにため息。
この携帯の向こうでは、彼は首を傾げていることだろう。影宮くんという後輩は、驚くほど人の感情に疎い。それは長くはない彼と私の関係でもはっきりとわかってしまうのだから、よっぽどだ。
『何怒ってるんですか』
「怒ってないよ」
『はあ』
「影宮くん、わかってたんでしょ。こうなること」
『まあ、ある程度は』
だって、穴倉先輩そこにいたんでしょ。こっくりさんをやっていたその空間に、いたんでしょ。じゃあ答えなんてわかりきってるじゃないですか。先輩って、自分で思っている以上にホイホイなんですよ。怪異ホイホイ。先輩がいた空間でこっくりさんなんてやっていたら、大体どうなるかくらいわかります。先輩が参加してたんならマジでどうなったか。でもまあ、結果よしなんじゃあないですか。命に別条は、ないんでしょ?
影宮くん。
今日はよくしゃべる。
私がいるからそうなったと、言いたげに。
私のせいなんだと、言葉の裏にべったり貼り付けて。
「……影宮くん。ちょっと、お願い」
『はあ』
「私のせいで彼女らがそうなったっていうなら、なんとか、してあげたいんだけど」
『そうですか』
影宮くんは、ただ首肯するだけだった。