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こっくりさん ②



 今日は、やけに身体が重い。


 全体がだるくて、でも学校を休もうというほど気怠いわけでもなくて、なんていうかこう、微妙な感じ。

 風邪でも引いたのだろうか。額にこつりと手の甲を押しつけるが、よくわからない。心なしか熱いようにも思えるが、病は気からという。気の持ちようで、こんなものはあっさりと治る。はずだ。

 まあうだうだと考えるのも時間の無駄なので、私はいつも通りの時間に、いつも通りに家を出た。


 学校に着いて、下駄箱で靴を履き替える。やっぱり身体は重くて、保健室で少し休ませてもらえるかなあと思考したとき。



「それ、重くないんですか。先輩」

「は?」



 そう、間の抜けた声は、なぜだか呆れたように、それでいて、どこか不思議な声で、私の耳に入った。

 それは見覚えなんてまったくない、強いて言うなら廊下辺りでたまにすれ違うくらいかな? 程度の、まるまる初対面の後輩に言われたセリフだった。


 今思いだしても、あの場面は相当シュールだったと思う。


 それが私と影宮くんの初対面だった。

 そして、私のオカルト的スクールライフの始まりでもあった。


 いや、影宮くんいわく、それはすでに始まっているそうだけれど。









「こっくりさんの解決法、ですか。なんでまた」



 ぽん、と影宮くんの放ったボールがきれいな弧を描いてリングに入る。私はバスケのルールにはあまり詳しくないけど、これがスリーポイントとかそういうのらしいことは、なんとなく知ってる。前、バスケの漫画になんちゃらとあった。

 私は「うん」とひとつ頷いて、影宮くんの練習の邪魔にならないよう、体育館の隅っこで小さく丸まった。


 他の部員たちは、もういない。すでに今日の部活は終わってしまったので、みんな帰っていったらしい。今ここにいるのは、自主練習中の影宮くんと、その彼に話をしたくてこうして体育館で膝を抱えている、私のみ。


 もうすぐ日が落ちる。こういった時間を、黄昏時、と呼ぶらしい。

 誰そ彼れ時。『彼ら』の時間。



「なんすか。昼休みに変なメールよこしたと思ったら、今度はこっくりさんの解決法。まさか、やったんですか」

「え、あ、いや、やってない。ただ、クラスの子らがやってたから。ああいうの、私にも被害が来たりするのかなって……」



 思ったり、思わなかったり。影宮くんは興味が失せたように鼻を鳴らして、「穴倉あなぐら先輩のクラスメイトねえ」とつぶやいた。なにか思うところがあるのか、微妙な表情をしている。



「たぶん俺そいつ知ってます」

「え?」

「なんか、やたら媚びたような声でこっくりさんとはどうやるのかを聞きに来てました。そっち系に詳しいって話、どっかから聞いてきたんでしょうね」

「わ、私は何も話してないよ」

「話すほど友達いるんすか、先輩」



 なんて失礼な。……事実なぶん、何も言えない。

 ぽん、ぽん、と影宮くんはボールを床にぶつける。ぶつかったボールは跳ねて、影宮くんの手に戻ってきて、それはまた床に。



「こっくりさんて、一応、校則で禁じられてるんですけどね」

「は、そうなの。私知らない」



 何で一年はここに通い詰めてるはずの私が知らなくて、一年遅くこの学校に来たこいつが知ってるんだ。いや校則なんて、そんなじっくり読みまわしたりしないけど。


 ぼす。ボールが、床にてん、てん、と転がる。

 影宮くんは私の隣にあったカバンの中からスポーツドリンクを手に取ると、滝のように流れる汗もそのままにぐいっと呷る。



「…………まあ、こっくりさんなんて、要は集団催眠の一種ですし。学校側がそんな変なことさせるわけないでしょ」

「…………ああ」



 確かに、それは危険だ。



「もし先輩がその集団に関わったら、わりと危ないと思うんで、やらない方がいいですよ」

「うん、まあ。頼まれてもやらないけど」



 帰りましょうか。


 と、影宮くんが汗をぬぐう。

 私はひとつ頷いて、よいせと立ちあがった。



「こっくりさんの一番の解決法は、関わらないことですよ」

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