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百合の勇者  作者: otsk
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ドラゴンの住処

「こんな辺境にも宿屋なんてあるんですね」


「ダンジョン的な場所がある手前にはあるらしいよ。まあ、箸休め的なものみたいだけど」


 アリスさんが言っていた洞窟を見つけたが、日が暮れかけていたのでまた出直すことにし、近場にあった宿屋に身を置いていた。

 宿屋といっても、普通の民家がついでにやってるような場所ではあるが。

 それが、逆に安心感を与えるというか、下手にうちの国の城よりかは落ち着く雰囲気だ。


「こういう時にテレポートみたいなことができれば楽なんですけどね」


「できる人もいるみたいだけど、極少数みたいだし、私のお母さんも自宅にしか座標固定してないから、そこにしか移動できないんだって」


「そもそも使える時点で、他の魔法が疎かでもおかしくないんだけどね」


「そう言われればそうだね……。うちの親しかあまり見てなかったからそれが普通だと思ってた」


「だいぶ普通の感覚が麻痺してるみたいだね」


 一般的に言えば、魔法は多くても二つが限度なのだそうだ。

 弱いのをいくつも使うより、一つを最大限まで伸ばしたほうがいいとか、魔法の適性があるとか色々言われている。

 じゃあ、なんでお母さんが何でも使えるのかと聞かれると、お母さんは魔女の血族らしい。

 お母さん自身はもっと遅くに聞いたらしいけど、私には早めに知っておいてもらいたいからということだ。

 気になって調べたりもしたが、読んでてあまり気分のいいものではなかったことは事実だ。

 魔法が悪いものだと、言ってるような内容だったから。

 じゃあ、その魔法は誰から伝わったのか。

 それこそ、今も昔も変わらずにいたモンスターからだ。

 昔はモンスターと人間が手を取り合った時もあったようで……それも極一部のことだが、そこから人間へと伝わり、悪用した人間が、恩も知らずに、モンスターを淘汰したということだ。

 後半からはお母さんから聞いた話だけど、本ではモンスターが全部悪いみたいなことを書いてあったから。

 お父さんは、それを聞いて、モンスターと仲良くする先駆けとなりたかったらしい。

 それが、姉を拾うというよく分からない行為に出てた訳だけど。

 大体、姉ではモンスターと呼べやしないだろう。

 魔王の娘という話ではあるが、ああやって、翼でも生やさない限りは、人間とあまり変わりはしないのだし。

 やはり、人間と種族違えば仲良くするのは難しいんだろうか。

 どちらが悪いではなくて、それを受け入れて手を取り合えないんだろうか。

 アリスさんが会ったと言っていたドラゴンに話を聞けばそれは理解できることなんだろうか。


「そろそろいい時間だね。出発しよう」


 少し考え事をしていた私の肩を叩いたティンクル君と共に洞窟へと向かった。


 ーーーーーーーーーーーーー


「なんか……イメージ通りザ・洞窟、みたいな感じですね」


「ただの洞窟だと思って、適当に壁を触るとへんなスイッチ押すかもしれないから気をつけなよ」


 先導しているアリスさんからそう言われるが、あからさまという仕掛けはなさそうだ。

 ゲームのやりすぎだろうか。

 自分がこんなファンタジーな世界にいる時点で、どちらかといえば世界観的にはリアル志向なわけだけど。


「なんでこういう所って開発されずに残ってるんでしょうね?」


「まあ、場所が悪いとか、ドラゴンに追い返されたとか、そんなところじゃない?」


 確かに、徒歩ならさほどというところだが、何かしら乗り物に乗ってくるとなると、移動は難しいだろう。

 洞窟というからには、どこかに行き止まりがあって、どこかしらに繋がってるとかそういうことはないのだろうか。

 天然物ということもあってか、足場はあまり安定しない。

 でも、洞窟ってどうやってできるんだろう?

 そんなところまで考えたことはないので、アリスさんに聞いてみることにした。


「洞窟がどうやってできるか?そうだねぇ、天然物っていうとなかなかないけど、基本的には人やら何かが掘り進んだって考えるのが妥当だよね」


「天然物だとどうやってできるんですか?」


「雨とか風が蓄積してった……って考えるのが妥当だけど、人が歩けるぐらいのところなら、どう考えても人為的なものが絡むよね」


「そういうものですか」


「何?ドラゴンと会うのに怖気ついちゃった?かわいーなー、もう」


「あなたのおっさん的反応はうんざりなので、早く行きましょう。ほら、ティンクル君もぼーっとしてないで」


「あ、うん」


「どうしたの?ドラゴンに会うのに怖気ついた?」


「そういうわけじゃないけど……やっぱり、僕はよそ者なわけだから、こうやって見てると少し疎外感を感じちゃってさ」


「そっか……でも、旅は道連れって言うじゃない。距離なんて取らなくていいんだよ。まあ、女だし私じゃ頼りにしてなんて言っても出来ないかもだけど」


「そ、そんなことないって!リリアちゃんには感謝してるよ。素性も知れないのにこうして仲間に入れてくれたんだから」


「でもさ、同じ人間でも知らない人だったらこうなんだから、モンスターと人間なんてもっと難しいんだろうね」


「そうだね。僕だってモンスターと会うのは初めてだし、恐怖心はもちろんあるよ。でも、好奇心もある。ただ、そのドラゴンが、人間に対してどういう感情を持ってるのか」


 今からドラゴンに会うとはいえ、何の準備もなしに行くのは愚策ではないだろうか。

 アリスさんがいるとは言え……逆にいるからこそ不安を覚えざるを得ないのだが、突然行って、相手側の怒りを買う可能性もないとは言えない。

 不安はやはりある。

 でも、怖気ついていては自体は何も好転しない。

 お姉ちゃんがやりたいことは、私も助けてあげたい。

 お姉ちゃんだって、なにもしてないわけじゃないんだから。

 ここで、ドラゴンと話せないことには何も始まらないだろう。

 モンスターと交流を重ねていくうちに、モンスターの本質とか人間に対する考えとかも分かってくるかもしれない。

 これはその第一歩だ。

 私はモンスターに対する考えが変わるんだろうか。

 お姉ちゃんの助けをしたいとそれでも思えるんだろうか。


「アリスさん。いきなり襲われる……ってことはないですよね?」


「可能性はゼロじゃないよ。でも、私が守ってあげるから。お姉さんに頼りなさい!」


 お姉さん、というには若干ながらに苦しい年齢であるが、容姿は姉というより妹だ。

 そこは置いておいても、やはり頼れる存在がいるということは大きい。

 自分が失敗しても尻ぬぐいをしてくれる。

 だから、私は失敗を恐れてはいけないんだ。

 私は、アリスさんが呼んだその雄大な姿のドラゴンを前にした。






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