何やってるんですか姉さん
国、と言うぐらいだからいくつかの街から成り立つわけだけど、ティンクル君が仲間となった街の隣町をうろついていた。
姉の目撃情報がないか聞き込みするためだ。
何となく、ほっといても情報は耳に入りそうな気もするけど。
「なんか向こうの方が賑やかいね」
「祭りがあるなんて昨日誰か言ってた?」
「少なくとも僕は聞いた記憶ないけど……ゲリラ的なものかな?」
「ちょっと行ってみよ」
人混みをかき分けて、中心となっている何かを見に行く。
見に行くが……。
「ちょっ、どうしたの。いきなり膝を折って、手をついて」
「あの……バカ姉ぇぇえええー‼︎」
えっと、今日は何の日だ?
5月の5日。こどもの日か。
確かに、なんか親子連れ多いな。
子供たち喜んでるからいいか……じゃない!
「降りてこいや‼︎」
飛んでパフォーマンスをしている姉に向けて、石を投げつけた。
「おっと……げ、リリア」
「げ、って言うことは、私が言いたい事分かってるんでしょうね……」
「……さあーここで、マジカルロロちゃんの宿敵の登場だー!」
「え?」
「ほら、リリア。こっち来て」
「いや、来てじゃなくて」
「ロロちゃーん!がんばれー!」
「わるものやっつけろー!」
子供の声が大きくなっている。
勝手にヒーローショーやってるだけなのに、なんでこんなに声援が多いんだ。
昔から姉はこうだ。
勝手に人を惹きつけて、魅了している。
綺麗とか、美人とかではなく、ひたすら愛らしいという表現しかないのだけど。
姉は、自分の翼を惜しげもなく広げて宙に浮いていた。
「ぬふふ。そこからじゃ攻撃は届くまい」
「やかましいわ。魔法がトンチンカンな父さんと一緒にしないでよね」
自慢するほどでもないが、お母さん仕込みのため、魔法は詠唱なしで放つことができる。
とりあえず、炎魔法を飛ばしてみた。
姉は身を翻して、華麗にそれを避ける。
「危ないな!姉に対しての挨拶がそれか!」
「やられたくないなら、今すぐ中断して降りてこい‼︎その翼、焼けるまで魔法飛ばすよ!」
「すいません。やめてください。私が悪かったです」
情けないヒーローだった。
いや、女の子が主人公だからヒロインか。
どうでもいい話だけど。
しかも、宿敵にあっさり降伏しやがって、プライドというものはなかったのだろうか。
「ごめんね〜ちびっ子たち〜。次回は頑張るからまた応援してね〜。今日はこれでおしまい〜」
自分もちびっ子の部類に入ると思うのだが、それは言わないでおこう。
まずは問い詰める方が先だ。
「何やってるんですか、姉さん」
「何……って、軍資金調達?」
「融資断られたんですね」
「あとは人手の調達」
「誰が魔王城再建に協力するんですか」
「うう……」
「まったく……」
後先考えない姉だ。
父親が作った魔王城は過去の戦闘で崩壊してしまったらしい。
だが、今更作ったところで何になるというのだろう。
また、魔界との架け橋を作りたいのだろうか?
「姉さん。何を考えてるんですか?」
「これでもね、未練がないわけじゃないんだよ。私の本当の父親は城が崩壊した後、その身体はどこを探しても見つからなかった。もしかしたら、生きてるんじゃないかって」
「だから、自立できるようになったら、それを探そうってことですか?もう20年も近く前のことでしょう。まだいるとでも?いなくとも、お父さんとお母さんが親代わりになってくれたじゃない。また、魔王を呼び戻して、お姉ちゃんは何がしたいの?」
「……今度こそ、種族が違っても仲良くできるって証明したいの。事実、私は人間じゃなかったから。それでも、学校で生徒会長ができるほど、人望もあったし、友達もたくさんできた。みんながみんな、私のようにいかないかもしれないけど、私からちょっとずつやっていけば、変われるんじゃないかって……だから、ごめんね。もう少し、私のワガママ聞いてくれる?」
「お姉……」
最後まで聞くことなく、姉は飛び立ってしまった。
そりゃそうだ。
いくら姉であれ、何の目的も考えもなく魔王城を作りたいなんてことは言わないだろう。
それを止めることは間違ってるのだろうか。
姉がやってることが間違いであるというわけではない。
ただ、姉の力でそれが成就するかと聞かれたら難しい話なのだ。
だから、うちの両親は止めて欲しいのだろう。
たぶん、うちの両親はなんだかんだ甘いから、やりたいようにやらせるのが方針だから、結局押し切られてしまう。
現に今だって、飛び出していった姉を私に止めさせに行ってるぐらいだ。
姉の暴走を止められないと分かっているからこその判断だろう。
なら、私が取る行動は……
「リリアちゃん。今のがお姉さん?」
「うん。まあ、こうやって会うたびに説得しようとして逃げられちゃうんじゃイタチごっこもいいとこだけど」
「どうするの?」
「私も旅をするよ。まだ、モンスターはいくらか残ってるって聞いた。お姉ちゃんは、そのモンスターと人間の架け橋になりたいんだって。……お姉ちゃんが道を間違えそうになったら、私が止めに行く。それまでは、モンスターがどういうものなのか、私自身がこの身で知る必要があると思うんだ」
「君のお姉さんは、何者なんだい?」
「……ちょっと、ここで言うには人が多いかな。子供がいっぱいいるし」
姉が集めた子供達は、急に姉が離脱したので、行き場がなくなって、同じく勝手に宿敵とされた私に群がっていた。
別に敵じゃなくて姉妹だと説明するのに2時間も費やしてしまったが、必要経費だろうと、身も心もクタクタにして、今日の旅を終えた。