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百合の勇者  作者: otsk
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勇者の終わり

 国に帰ってきた。

 ということは、もう勇者と名乗る必要はない。

 元々必要のないことではあったのだ。

 だけど、学生としてフラフラしていたら、それはそれで問題なので応急措置として、勇者だと名乗っていたにすぎない。

 なんの役割もない勇者だ。

 お姉ちゃんが魔王になると言うのならば、それはそれで意味があるのかもしれないけれど、完全に諦めたようです。

 各々、自由にさせるのが一番だよね。

 自由にさせすぎて、何も成し得てないバカ姉はほっといて。

 報告と連絡を込めて、私はアリスさんと王様の元へと訪れた。

 よく考えたらアリスさんも色々失敗していた気がする。結局、結婚相手は見つからなかったし、斡旋しようとしたアックスさんはしばらくは修行だろうし。

 お姉ちゃんはお母さんのところに縛り付けておきました。しばらくは出てこられまい。

 ティンクル君はというと……。


「こっちの学校に転入したい……ね」


「無理ですか?」


「まあ、最高決定機関であり、決定権を持つのも僕だ。だから、僕が承諾すればそれでいい。だけど、さすがに王族の子だ。先方になんの連絡を取らないわけにもいかない。幸い、まだ大体の学校は夏休みに入ったところだ。時間はまだあるから、連絡ぐらいは取ってからまた来るといい」


「こちらはいいということですか?」


「……他ならぬリリアちゃんからだからね。無下にしたらお父さんが面倒だし」


「面倒な父ですいません」


 その父はといえば、今日は休暇で妹と遊んでるんじゃないだろうか。お姉ちゃんを監視してるかもしれない。帰って早速剣を失くしたことバレてたから。


「とりあえずのところはロロちゃんを連れ戻して、ソードさんの剣が行方不明になった……ってところかな?」


「お父さんもお父さんで使ってなかったからいいとは思うんですけどね。対して愛着があるわけでもなさそうですし」


「一応、勇者としての証みたいなものでもあるからね。防具は壊れてるから残すは剣だけなんだよ」


「なんなら、現状で使ってるものを勇者装備として言えばいいんじゃないですか?」


「でも、その辺で拾ったものか、それとも誰かに作ってもらったとかも定かではないけど、硬度、耐久性、魔法耐性、どれをとっても一級品のものだったらしい」


「……壊れたんですよね?その防具」


「唯一破壊できた剣がその勇者の剣なんだ。……ということに僕たちの中で完結させた。それ以上の追求もできそうになかったからね」


「防具が消滅してしまった今、立証する手立てもないですからね」


「そういうこと。さて、こちらへ転入するのはいいけど、住む家とかは決まってるのかな?なんなら、城に住み込んでもいいけど」


「そ、そんな滅相も無い。一応、アテはあるので……あるんだよね?リリアちゃん?」


「あ~うん。未だにお父さんが売ってなければ。なかったら、お母さんの実家に行こうか」


「リリアちゃん。あそこでいいの?」


「まさか自分たちで借りれるわけでも無いですし。さすがに、お城にお世話になるわけにも」


「うちは一向に構わないけど……アリスより何も言わなくても働いてくれそうだし」


「まさかの労働力源⁉︎私は用無しですか⁉︎」


「だから、働いてくれと暗に言ってるんだけど……」


「働いたら何かありますか」


「美味しいご飯と安らかな睡眠が付いてきます」


「働かなかったらまるで食べさせないかのような言い方!いいもん!ソード君のところ行くから!」


「いや、それは僕が全力で引き止める。そもそも、ソードさんも所帯持ちでここの衛兵として働いてるんだから、雇ってもらうも何もないだろう」


「ソード君に養ってもらう」


「ウィナさんから追い出されるから。養われるのは子供だけだよ」


「養子にしてくれないかな」


「自分が働こうという気はないのか、お前は」


「仕方ないですねぇ。週4で休日3日なら働きます」


「その代わり、週4の中では1日18時間働いてもらう」


「ブラックだ!お城の業務超ブラック‼︎」


「週5に改めるなら8時間にして、三食昼寝付きにしてあげよう」


「うわぁ、すごい落差。意地でも働かせる気だね。その労働時間の間に業務が終われば早退もオッケー?」


「それだけの自信があるのならなぜ今まで働かないのか……」


「私の得にならないもん」


「損得で働くことを考えるなよ。それに城の業務なんだから国民のためだろう。ひいては、ソードさんやウィナさん、リリアちゃんのためにだってなるんだよ」


「よし、働くよ!仕事は⁉︎」


「父上に聞いてくれ。だいたい割り振りはそっちでやってるから」


了解ラジャー!」


 アリスさんは謁見の間を出て行った。絶対に私の名前が出てきたから行ったのだろう。

 果たして、それが巡ってくるのはいつの話になるのだろうか。


「はあ。忙しない妹ですまないね。旅は大丈夫だった?」


「アリスさんより姉の方が酷かったので。なんだかんだ、ちゃんとしてましたよ。主にお姉ちゃんのストッパーとして」


「役割を果たしてない気がするのは僕だけなのか……。あまり、ここで話し込んでても仕方ない。えっと、ティンクル君って言ったかな?」


「は、はい」


「リリアちゃん。ちゃんと守ってあげるんだよ。……これからは主にリリアちゃんのお父さんから、になるかもだけどね」


「し、精進します」


「僕も仕事に戻るよ。ソードさんとウィナさん、それにロロちゃんにもよろしく伝えておいてくれ」


「はい。ありがとうございました。忙しいのに」


「いや、久々にリリアちゃんの顔を見れてよかったよ。旅立つ前より、凛々しくもなったし、女の子らしくもなった。これじゃ、お父さんが嫉妬するだろうね」


「お母さんに抑えててもらいます」


「そういうことだ。僕から言うことでもないけど幸運を祈ってる」


 それだけ聞くと旅立つ人に向けた言葉にも聞こえるが、きっとティンクル君の身を案じてのことでもあるのだろう。

 王様は身を翻して私たちの前から姿を消した。

 このまま残っているのもなんなので、ティンクル君と二人、城をあとにした。


 ーーーーーーーーーーーーー


「なあ、リリア。確かに家はあれ物置状態だし、勝手に使ってもいいとは言ったが、男を連れ込んでいいなんて一言も言ってない」


「だって言ってないし。言ったら許可しないし」


「リリア。いつからそんな子になったんだ?」


「いや、リリアは昔からこんな子だよ。ソードが見てないだけでしょ」


「昔はパパと結婚する〜なんて言って……」


「「ない」」


「二人して言うなよ。お父さん、悲しくなるだろ」


「まず、呼び名がパパの時点で違うでしょうが。昔からお父さんって呼んでたのに」


「え〜っと、ティンクルって言ったか?リリアで本当にいいのか?」


「と、言いますと?」


「俺に似てるぞ」


「なんかものすごく説得力のある欠点をあげてきた」


「ええ。ソードさんに似て、カッコよくて凛々しいですよ」


「え?マジで?」


「ティンクル君。お父さん、陥落したから住む方へ行こっか。本当に物置だから、まずは片付けから始めないと」


「あ、うん」


「ちょ、待ってリリア!まだ認めてないぞ‼︎」


「もういい加減にしときなさいよ。あの子だって年頃なんだから恋の一つや二つしたいでしょ」


「でもな……」


「うだうだ言わない。リリアが選んだ子なら間違い無いでしょ。いい子そうだったじゃない。それに王族の子だって」


「玉の輿?」


「とはいかないみたいだけど……」


「はあ……なんだよ。折角手塩にかけて育てても、親元を発つときは一瞬だな」


「いいんじゃない?まだエリーが残ってるんだから。まあ、リリアはちょっと早いかもしれないけど、そんなに遠く……どころか、すぐ近くだし。まあ、もっと心配なのはいるけど」


「……なあ、ロロちゃんよ」


「はい?私はエリーと遊ぶのに忙しいのですよ」


「いや……まあ、いいや」


「言いかけて諦めないでよ!」


「エリー。ちょっとこっちにおいで」


「?うん」


 まだ8歳の娘を呼び寄せる。

 手のかかるぐらいだけど、いつかリリアのようになっていくんだろうか。


「学校楽しいか?」


「楽しいよ。どうしたの?」


「いや、ならいいんだ。せっかく夏休み入ったし、どこか遊びにでも行こうかって思ってな」


「本当⁉︎行きたい行きたい!」


「入れ食いだな。そんな喜んでもらえるとは思わなかったわ」


「普段あまり構ってもらえないからでしょ」


「エリー。お父さんのこと好きか?」


「うん。好きだよー」


「そいつはよかった。あと、急だけどな、お姉ちゃんが別の家で暮らすことになったんだ」


「ロロ姉ちゃん?リリア姉ちゃん?」


「リリア姉ちゃんのほうだ。って、言ってもすぐ近くにアパートあるだろ?そこだから、いつでも遊びに行ってやってくれ」


「お父さんは?お母さんも一緒に行こうよ」


「こういうのは親が行くと邪魔にしかならないんだよ……」


「よくわかんないけど……ロロ姉ちゃんは?」


「ロロ姉ちゃんはしばらく家にいないといけないからな。いまちょっと片付けしてるだろうから、手伝いに行ってやってくれ。場所はわかるな?」


「うん」


 麦わら帽子を被せて、タオルと水筒をもたせてリリアの元へと向かわせた。

 まあ、本当に道挟んで向こう側ぐらいの距離なのでエリーでも行ける距離だろう。

 そもそもうちは今、ウィナの実家付近に立ってるしな。どんだけ狭い空間でやりくりをしているのか。

 そういや、リリアも勇者として出て行ったってスターのやつが言ってたな。

 帰ってきたということは、もう勇者は必要ないってことだ。

 まあ、何事も始まりがあるなら終わりもある。それだけのことだ。最後の魔王であるロロちゃんはずっと俺たちといるし。

 まあ、三ヶ月程度家出してたけど、リリアが戻してきてくれたからな。

 今、夏休みだし休み明けからは学校に復帰できるだろう。まだ高等部の一年なんだし俺みたくならず、青春を過ごしてほしい。


「あの……ソード」


「ん?」


「剣。どうしよう」


「……まあ、誰かしらが見つけて使うかもしれんし、見つからずそのまま錆び付くかもな。別にもう、モンスターと戦おうなんて言わねえし、なくてもいいよ」


「一応、家宝的な扱いはなかったの?」


「俺としては剣より防具のほうが残ってて欲しかったんだけどな……」


「なんで?」


「しろで働いてるとき、俺だけ防具違うからそれっぽく見えるだろう?」


「やっぱりソードはソードだったか……」


「なんだよ。落胆すんなよ」


「そして、私は陰謀に失敗したわけですが」


「魔王城建設だったか?それこそ、うちの城乗っ取ったほうが早いだろ」


「いや……勝てないし」


「情けない魔王だな。これからどうする気だよ」


「うーん。……なんか私、子供に懐かれやすいみたいだし、子供と関われる仕事しようかなって」


「いいじゃねえか。な、ウィナ」


「うちにいてゴロゴロしてるだけだもんね。でも、仕事するならちゃんと資格が必要だよ」


「分かってる。ちゃんと勉強する」


「どうしたんだ本当に。夏の暑さにやられたか?」


「正常だし、娘に向かってなんたる言い草なんだよ」


「じゃあ、どうしたんだ?」


「ミーナに会ってきたんだ。そこで言われちゃってさ。2、3日で成し遂げるようなものなら努力じゃないって。例え、1年、それ以上かかっても努力を続けることが必要なんだって」


「ま、仕事を何にするにせよ、採用試験は一年に一回だからな。まずはそこに向けて頑張ればいいさ」


「……リリアは何になりたいのかな?」


「まだ15だしな。三年も高校に行けば何かしらあるかもしれんし、もう少しかかるかもしれない。ただ、ロロちゃんのようにこの年までフラついてほしくはないけどな」


「引き合いに出さなくても……」


「そういや、なんかモンスターに会ったか?」


「会ったって言っても、シークだけだったな。やっぱりそっとしておくのがいいのかもね」


「確かにやたらと干渉されるとされた方も疲れるし鬱陶しいからな。たまに、その存在を知ってるやつが会いに行けばいいだろ。人類皆モンスターと仲良くしろなんて言わなくてもさ」


「どう考えてもそっちのほうが面倒だって今気づいたよ。そうだな……保育士とか目指してみる」


「頑張ってくれ。支援ならいくらでもしてやるから。さて」


「何かするの?」


「旅行先ぐらい調べとこうと思ってな。ウィナとロロちゃんはどっか行きたいところあるか?」


「私はソードが決めていいよ」


「ミーナのところは行ったから……」


「別に最北端でもいいぞ。線路直ったみたいだし」


「なんで今頃直るかな……」


「細かいことは言いっこなしだ」


「ま、私はお姉ちゃんだからリリアとエリーに聞いて、決まらなかったら言うよ」


「珍しいな。いつもなら真っ先に決めようとしてリリアと喧嘩になるのに」


「いや、リリアに勝てないことが分かったから」


「成長したというわけじゃないんだな」


「ねえ、ソード」


「なんだ?」


「勇者って結局なんだったの?」


「どうしたんだ急に」


「まあ、よっぽとこれからは必要なものではなくなると思ったら、勇者ってリリアで終わりじゃないかなって思ったらそれでいいのかなって」


「リリアも別に役割があって勇者になったわけじゃないからな。実質俺で勇者は終わりだ。どこかで聞いた話なんだけどな。この世界は繰り返されてるらしいんだ。だから、いつかまたモンスターがこの世界に現れて、魔王と勇者って構図ができるかもしれない」


「誰が言ってたの?そんなこと」


「どこぞかの悪魔」


「それこそ世界が滅亡するまで続くものなのかな?」


「例えば、宇宙の惑星も全て消滅したとしよう。でも、またビッグバンで創造されてまた繰り返されたとしても誰も気づかないだろ」


「知ってる人がいないもんね」


「ま、今度はまた別の文明が築かれているのかもしれねえし、モンスターと人間がずっと共存している世界なのかもしれない。本来ならば、勇者なんて必要のないシステムなんだよ。そりゃ、モンスターの親玉が襲ってくるのならば、それに対抗する手段は持ち合わせないといけないけどな」


「あんまり肯定するわけじゃないんだ。自分がやってたのに」


「なんだ?また魔王が現れるとでもロロちゃんは言うのか?」


「別に?私はなる気はないし。あ、でもリリアから一個聞いたんだ」


「何を?」


「セド・ギルフォード。私達が倒した後にその名前を聞いた人がいるって」


「…………同姓同名の別の人だろ」


「だといいけどね。姿形も分からないしどうしようもないよ」


「……さて、リリアとエリーに差し入れ持って行きがてら旅行どこに行きたいか聞いてくるわ」


「ちょっと、ティンクル君にも持っていてあげなよ」


「わーってるよ」


 リリアは頭がいい。俺と違って。

 勇者としてのことしかしてこなかった俺と違って選択肢はいくらでもあるだろう。

 勇者がいなくなった今、どうするかはあの子の自由だ。

 また、旅に出たいというのなら、それはさすがに高校を卒業してからにでもしてもらうか。

 それにしても、リリアに彼氏か……。

 ウィナの親のこと考えたら、その彼氏に俺もとやかく言えるような立場でもねえな。聞けば王族だとも言ってたし。

 しかし、どうやって会ったものか。

 娘の将来ぐらい心配してもバチなんて当たらないだろう。

 とりあえずは、馬の後ろ足に蹴られないように注意だけしておくとしますか。

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