帰り道の途中で
ふと疑問に思っていたことがある。
お父さんが使って剣は勇者だけに持つことが許されたものらしくて、他でも持てる人は限られているらしい。持てない人は本当に重くて持ち上げることも困難なようなんだけど……どういう了見か魔王の娘であったはずのお姉ちゃんはその剣が使えるらしいのだ。
その剣がお姉ちゃんの背中に背負われていない。どこへやった。
「……ヤバい。ソードに怒られる」
「そんなところよりどこにやったか記憶にないの⁉︎」
「リリアと戦った時まで持ってたことは覚えてる」
「あれ以来持ってなかったことに気づかなかったんかい!」
「リリアだって覚えてなかったじゃん!」
「だから自分が忘れてたことを棚にあげるな!」
「……なんでこの2人はもう帰るって時まで喧嘩してるんですかね?」
「どう見てもロロちゃんが悪いんだけどね」
あいも変わらず自分の非は認めない姉である。
今から探しに行こうともどこに忘れてたかすらも覚えてないようでは無駄な話であろう。
あれ、貴重なもののハズなのに。
「実を言うとソードも1度目の旅でボコられて勇者装備全て取られたらしいけど、記憶なくしてたらしいよ」
「なるほど。お姉ちゃんは私がボコボコにしたから記憶が曖昧だっていいんたいんだね?」
「察しがよろしいようで」
「じゃあ、もう一度ボコボコにすれば記憶を戻せるよね」
「そういう話じゃない〜」
姉が逃亡した。
逃亡したと言っても、少し先の木の木陰から覗いているぐらいの距離だが。
「あんまりお姉さんをいじめちゃ可哀想だよ」
「そうなんだよね……小動物いじめてるような気分になるから困ったものだよ」
「私が迎えに行ってくるよ」
「ありがとうございます」
アリスさんになだめてもらうために少し歩く足を止める。
ここで休憩を取ることにしよう。ずいぶん長く歩いてきた。
もう後、国へは1日もかからない位置まで来ていた。
そんなところに来てまで気づかなかったというのは私に落ち度があるとはいえ……ないな。なんで私に落ち度があるのだろう。私はちゃんとお母さんから借りた杖は持っているのだ。
「いっそ、お姉ちゃんを一度魔法で攻撃しようか」
「お姉さんのこと嫌いになったとしか思えない発言だよ」
「いやいや好きだよ。お姉ちゃん大好き。養いはしないけど」
「オチはつけるんだね……」
「つけないと付け上がるから」
「それでも、少し暇だね……そうだ」
「どうしたの?」
「リリアちゃん。少し手合わせ願えるかな?リリアちゃんと戦ったことはなかったよね?」
「共闘はしたけどね。一人で突っ走って見事に玉砕してたけど」
「それは言わないでくれ……」
小言なのか余計な一言なのか、少しいらだってるかもしれない。そんなつもりはないけど、確かにどこかでストレスの発散をしたいという気持ちが強く働いているのかもしれない。
ティンクル君と手合わせができるのら、気晴らしになるかな。
「ここでやるの?」
「もう少し開けた場所があるといいけど……こうも障害物が多いとどうしたは勝ちの条件にできるかね」
「魔法を一発でも当てたらにする?」
「僕のじゃ当たったか当たってないかって分からないと思うけどね」
「ん……じゃ、ティンクル君にこれ貸してあげる」
「これ、リリアちゃんのお母さんの……」
「私はこれ使うから」
魔法使いの国で買ったレイピア。
まだ使い慣れてないけど、ティンクル君には私が使い慣れた武器を貸した。
五分とはいえないかもしれない。ティンクル君は剣が得意じゃないって言ってたから。
「じゃあ、一撃でも入れたら勝ち。それでいい?あと、剣で大丈夫?」
「得意じゃないけど……使えないほどでもない。リリアちゃん相手だからって遠慮しないよ」
「遠慮されるほど弱いつもりはないよ。審判は……やめておこう。どう考えても私有利の判定しかしてこないから」
お姉ちゃんとアリスさんは遠巻きにしておく。むしろ見なかったことにしておこう。私は何も知らない。身内だけど知らない。
「でも、やっぱり狭いね」
「普通はこんなところでやったりはしないよね」
「ま、多少自然が破壊されても逃亡すればいいよ」
「言ってることがおかしいとは思わないの?」
「はて?」
「……たぶん、このあたりうちの国の領地だと思う。なんとなく遠足的な類で見たことあるし」
「なら破壊して問題ないね」
「なんでその結論になるの⁉︎被害は最小限にしてください‼︎」
「ティンクル君に言われてはしょうがない……できる限り被害はないようにするよ(被害は出ないとは言ってない)」
「そのかっこ内はなに⁉︎あと親指立ててもカッコよくないから‼︎」
「おかしいな。私の心の声が聞こえるの?私が普段考えてるあんなことやこんなこともただ漏れ?」
「今なに考えてるかぐらいは丸わかりだよ!普段なに考えてるかはともかく!」
「あらら?」
「とにかく。周りに被害を及ばさない。相手に1発攻撃を加えた時点で終了。それでいい?」
「石つぶてはありですか?」
「せめて、自分が手に持ってる武器だけでお願いします」
「手駒がいつでも一緒とは限らないんですよ」
「リリアちゃん。悪役のようだよ。むしろ負けフラグを立ててない?」
「ティンクル君に負けるほど弱くないですー」
「言ったな?じゃ、負けた方が勝った方の言うこと聞くんだぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「まだ戦ってすらないうえに勝手に自分が勝ったことにしない!」
「もう〜文句多いな」
「前フリが長いんだよ」
「仕方ない。じゃあ、西部劇みたいに1,2,3で早撃で」
「銃を持ってないし、剣を投擲しろと?投げて当てたら大惨事どころの騒ぎじゃないって」
「じゃあ、当てるってどこまでなのさ?」
「さすがに峰打ができないなんてことはないでしょ?」
「仕方ない……」
「仕方ない……って、言うまではどこを攻撃する気だったんだ?」
「気絶させるまで」
「あのねえ……」
「ま、しょうがない。三十秒お互い隠れよう。そこから、スタートだよ」
「一種のかくれんぼみたいだね」
私たちは合図は特になく、隠れ始めた。
勝敗はまた話すことにしよう。
別に私が負けて悔しかったとか言う話ではないので。




