それぞれの選択
カルマさん、もといリーチェルさんの宅へとまた二日ほど泊めてもらうこととなった。支度が出来たら、帰途へと着く予定だ。
その中日としてデートをしていた。夏休みもまだなので、私たちぐらいの人は歩いてる人はいない。
まあ、余計に絡まれる心配はないからいいか。
一番心配要素のお姉ちゃんはミーナさんといるし、アリスさんもそっちについてったし、鉢合わせしなければ大丈夫だろう。
盛大にフラグを立てたような気がした。
「リリアちゃん。何を警戒してるの?」
「いや、フラグ立てちゃったから」
「なんの?」
「鉢合わせの」
「そんな邪魔をしてくるようなことはしてこないでしょ。子供じゃあるまいし」
「いや、二人は子供だから……」
「…………」
そこで止まらず否定をして欲しかったんだけど、仕方ない。
なんかすでに見つかってて、遠巻きで見られてるような気もするんだけど。
「なんか適当にお店に入ろっか」
「服でも見る?」
「これ……可愛くないかな?」
「いや、新しいのが欲しいのかなって意味合いなんだけど」
「服より武器を見たくて」
「お母さんから杖を譲ってもらったんじゃなかったの?」
「本当は剣を借りる予定だったんだよ。お父さんが使ってた。でも、お姉ちゃんが勝手に持ち出してったからさ。本来は、杖より剣のほうが得意だから」
「そっか。でも、ここって魔法使いの国なんだよね?剣とか扱ってるところあるのかな?」
「さすがに全くないなんてことはないんじゃないかな……お、噂をすれば」
通りに魔法使い向けの店が乱立してる中に一つ、剣士や武闘家向けの武具を売ってる店を見つけた。
早速、来店してみる。
「いらっしゃいませ。おや、可愛らしい二人だね」
「残念ですが一人男です」
「そりゃ悪かった。旅の人?」
「旅……というか、旅行というか」
「じゃ、記念にってとこかな?」
「あ、いや、剣は普通に使いたいと思って、ここの国ってあまりそういう店がなさそうですし」
「もう後5年前に来てくれればそこそこ繁盛してたんだけどねぇ」
「何かあったんですか?」
「いやね。あの勇者もうちの防具を使ってくれた、って宣伝してたんだよ。でも、時間が経ちすぎてあまり売れなくなってさ」
「お父さんが使ってたのここのやつだったんだ」
「お父さん?」
「あ、はい。私、ソード・ブレイバーの娘です」
「あの挙動不審で女の子に引っ張られてた子がこんなに成長した娘がいる歳になったのか」
二度目の旅の時もお母さんに頼りきりだったのかお父さん。勇者の面目丸つぶれである。
まあ、人見知りというか、内弁慶というか、アリスさんといい、お姉ちゃんといい、なんで身内はそんなのばかりなんだろう。
「よし、そうとなればまけちゃうよ。3割引だ」
「経営大丈夫なんですか?」
「僕も歳だから、そろそろ畳んで隠居しようかなってね」
「隠居するような歳には見えないですけど……」
「なら、どうしたらもっと需要のある武器を作れるか指南してくれないか?勇者の娘さんだろう?」
「あの父はバカなのでそんなこと考えて武器使ってないです。従って私もそんなこと聞いたことないです」
「そうか……君は利発そうだね。お母さんの方に似たのかな?」
「お母さんも知ってますか?」
「一緒にデートで来てたみたいだったからね。まあ、普通の魔法耐性のついた防具だけ買ってったよ」
「だけって言われると、他にも買わせる気だったみたいですね……」
「ああ。光耐性のついた防具と闇耐性のついた防具をね」
「それ、効果あるんですか?」
「光魔法はいくらかあったようだけど、闇魔法はそもそも使う人がいなくてねえ。『ガラクタ押し付けやがって!』って、返品されちゃったんだよ。今も倉庫の奥で眠ってる」
「さすがに眠らせておくのはかわいそうじゃないですか?せっかく作ったのに」
「じゃあ、君が買ってくれるかい?」
「いや、私は剣を見に来たので」
「まあ、見るだけ見てってくれよ。時間はあるかい?」
「ティンクル君。まだ大丈夫そう?」
「うん。夕飯までに戻る話だから、まだいいよ」
「じゃ、一緒に見に行こう」
店主さんだったのか、店員もその人しかいない。色々不安要素は尽きないが、案内されるがままに奥に入っていく。
まあ、本当に倉庫状態だ、という感想しか出てこない。よくやってられるものだ。五年前ぐらいまでは繁盛してたからいいのかな?
どんな時代にも需要っていうものはあるし、需要がなくなれば廃れていくのもまた道義だ。
「あ。これかっこいいですね」
「女の子が扱うような武器じゃないと思うよ」
ティンクル君に言われるが、私が手にしたのは1メートルはあろう大剣だ。確かに私のような体格の人が振り回すものではない。
こういう剣は切るというより叩き潰すといった使い方の方が一般的だ。
一撃必殺には優れるけど機動性に欠ける。一長一短といったところだ。どんな武器でも長所、短所はある。
さすがに扱いきれるわけもないのでその大剣は戻した。
「そもそも使う機会はあるのかな?」
「なんというか、私のコレクター魂が燃えている」
「リリアちゃん。剣を集めてたの?」
「そういうわけじゃないけど……いつか、お父さんに勝つのが私の目標」
「……ふふ」
「どうしたの?」
「あるじゃないか。夢」
「あ……」
気づかなかった。それは当たり前のように日常生活に組み込まれたルーティーンのような感じで。
誰にも負けたことがないって、そう言って……。
そういえば、お父さんには一度も勝ったことなかった。女だからってハンデで負けたくはない。
お父さんとお母さんはどっちが強いの?って昔聞いた。
二人ともお母さんの方が強いって答えた。
人間的な話だけでなく実力でも。
お父さんは一対一なら勝ち目はないって。
お母さんが魔法のエキスパートだから近接攻撃しか出来ないお父さんではよほど距離を詰めなきゃ攻撃が当たらないとかそういう理由らしい。
まあ、この議論には意味をなさないとのことだけど。
同じ土俵で戦ってないのだから比べようがないという話だ。
そういえば、お姉ちゃんにも勝ちたいって思ってた。あの闘技場でよく分からないままに勝ってたけど……まあ、お姉ちゃんよりは私は強いってことでいいだろう。
「そういえば、さっき言ってた防具はどこに?」
「もう少し奥だ。使うことはないと思ってたけど処分しちゃうのもなんでねえ」
「あの、闇魔法の耐性とかどうやって分かったんですか?」
「いや、ところどころ僕が作ったものじゃないのもあるからね。それこそ、不要になったから買い取ったものもあるし。これも、その一つだよ」
「要するに言われただけと」
「なんだよねぇ」
店長さんがゴソゴソやってると、ようやく見つけたらしく、ズシャッ、とかなり重そうな音を立てて箱を下ろした。
「かなり重そうですね」
「それも原因だろうねー。動きにくかったんだろう。ま、耐久性は保証できるけど」
「ただの木偶の坊か、盾にしかなりませんよ」
「だよね……溶かして同じ耐性のものができるかって言われるとそういうわけでもないから」
「とりあえず、中見せてもらえますか?」
「ああ。もちろんいいよ。見てもらわないことには分からないからね」
箱の蓋をどかして、その防具の全容が明らかとなる。
少し暗がりだったが、それでも分かりやすいぐらい金ぴかである。
「あの……金メッキ貼っただけとか……」
「可能性はある。さすがに純金というわけではないだろう。まあ、別に分かりやすいというだけなんだけどね。耐性がある防具を作るには、相殺する相性の魔法をコーティングしなければならないし」
「……なら、闇耐性の防具よりこっちのほうが信憑性ないですか?闇魔法よりは光魔法のほうなら数はいますし」
「根本的に闇魔法が使われないかは効果が立証できないんだよ」
「でも、そうすると光耐性のついた防具っていうほうが気になりますね。相殺するなら闇魔法がコーティングされてて、闇魔法を使うことができたってことじゃないですか」
「そうなるね……。でも、それは手元にはないし、別に譲ってくれた人にはお金だけ渡したからね。そう覚えちゃいないや」
「誰が買って行ったかは分かります?」
「なんか、全体的に鍛え上げてそうな……自称コックらしい」
「……なんで料理人が防具買ってるんですか」
「旅してて、防具が壊れたらしくて、適当に見てたらしいけど、それに目をつけてなんかすごい金を積んで買ってくれたんだよ。売れないから、そんなにいらないって言ったんだけどね」
「値段って決まってるんじゃないんですか?」
「当時は時価だったんだよ。今は定価だけど」
「名前とか聞いてないですか?」
「知りたいの?」
「なんか、嫌に聞き覚えのある人が出てきそうな気がして」
「なんて言ってたかな……軽く10年以上前だし……勇者君が来て、1、2年後だったかな。名前は……そうだ。セドって名乗ってたよ」
「セド……」
「リリアちゃん、思い当たる節があるの?」
「……ううん。私の気のせいだったみたい。すいません。とりあえず、このレイピアもらっていいですか?」
「ああ。君は可愛いからさらに3割引から半額にしてあげよう」
本当に大丈夫なのか?この店。
そして、知らないと言ったけど、その名前はお父さんから何度も聞いていた。
セド・ギルフォード。
お父さんの話では戦いの後姿を消したって言ってたけど……ここに訪れたのが、同名の別人かはたまた本人か。
本人だとしたらまだ生きてる可能性は高い。
お父さんに土産話ができたかな。
とりあえず、予定していた額よりかなり安く買えたので、悠々と店を出た。
「リリアちゃんさ……」
「うん?」
「さすがにその服にレイピア差してるのはどうなの?」
「護身用だよ」
「まあ、いいんだけど……」
「ティンクル君は何か買いたいものはない?」
「欲しいものは度胸かな……」
「それは自分でなんとかしてください」
「精進するよ」
「あとは……デートって何するんだろう?」
「基本的には男女一組で一緒に遊んでればデートっぽいけど」
「恋心がなければそれはデートではないよ!」
「なんか食いつくなあ。リリアちゃん今からしたいことあるの?」
「特にないです」
「……帰ろうか」
落胆させてしまった。
まあ、やりたいことといえばいくらでもあるんだけど、白昼堂々できることといえば、手をつないでフラフラ歩くぐらいだろう。
そ、その先なんてまだいいの!
とりあえず、帰って、みんなが国に帰ってからどうするのか聞いておこう……。




