夢を見た後で
お父さんは勇者じゃなかったら、何を目指してたんだろう。
お母さんは意外にも乙女でずっとお父さんのお嫁さんになりたかっただとか。今は叶ったので、新薬を開発中だけど。それを娘に処方して実験台にするのをやめてください。……いや、馬鹿につける薬をお姉ちゃんに与えているだけだから問題ないか。お姉ちゃんを馬鹿扱いしてるのは母親としてどうなんだという話でもあるけど。
以前にも夢の話をした。
私は小さい頃からこれになりたい、っていう夢は持ってなかった。
だからこそ、可能性を広げるために自分の能力を伸ばせる限り伸ばしてきた。それでも、見つかることはない。靄がかかって、とても不明瞭で……自分は本当に何をしたいんだろう?
お父さんはお父さんで勇者として魔王を倒すという名目でそれを果たした。でも、お父さんにとってそれは本意ではなかった。
いつか聞いたことがある。俺は青春らしい青春なんて過ごせなかったから、リリアには絶対に損して欲しくないって。きっと、お父さんの夢は15歳の少女なりの青春を私に過ごして欲しいんだろう。それが今の夢なんだろう。
夢なんていつでも持てる。それこそ、ヨボヨボのおばあちゃんになった後でも。
今は今なりの夢を描くのはひどく難しい。それを形にするのはさらに困難だ。
夢ってなんだろう……。
考えてたら目が覚めてしまった。
なんか、お姉ちゃんに抱きつかれてたが、引き剥がしてテントの外に出る。
狙い澄ましたかのように水が溜まってる池があったので、今日のところはここに腰を据えて探索をしていた。成果はなかったようだけど。
というわけで、まあ洞窟の中だ。起きたところでロクな光があるわけではない。
でも、水が張ってるせいなのか、そこだけ特殊なのか光が反射している。その光を頼りに歩いてみた。
「ま、誰もいないか」
調査をする人たちは明日に備えて寝ている時間だ。夜に調査しようが、早くに調査しようが変わるものはこの風景程度だ。
でも、これが見れただけでも一緒についてきたかいはあったのかもしれない。
ティンクル君が言ってたな。私と一緒に色んな風景、色んな世界を見てみたいって。それが、ティンクル君の夢なんだろうか。
「わあ〜綺麗だな〜」
「ティンクル君?」
何度も聞いてる声を聞き間違えるはずはなかった。振り返ったら、その姿は確認できた。
「リリアちゃんもいたんだ」
「うん。考え事してたら寝れなくて」
「そうなんだ。僕は、なんとなくこんな光景が見れるんじゃないかって、みんなが寝静まりそうな時間を見計らって来たんだ」
「またなんで?」
「寝るまでは誰かしら魔法を使っているからね。自然な光景を見るならこういう時間を有効に使わないと」
「意外にティンクル君、人の言うこと聞かなくて怒られたタイプ?」
「よくわかったね。外ではさすがにしなかったけど、家では決められることをあんまり従わなかったんだ。だから、余計に上から反感買ってたのかもね」
「例えば?」
「星が好きでさ。よく寝ろって言われてもずっと望遠鏡覗いてたり、もっと綺麗に見れる場所を探して飛び出したりね」
「あんまり信じられないなあ。お姉ちゃんならともかく」
「引き合いに出さなくても……」
「だって、飛び出したお姉ちゃんを追いかけて旅に出たんだし。まあ、旅って言うよりは、壮大すぎる家出娘を探してる親みたいな気がするけど」
「確かに旅とは形容しがたいかもね……。それはともかく、リリアちゃんはどうして寝れなかったの?なんか悩みあるなら聞くよ?」
「ティンクル君には一生ない悩みだよ……」
「なんか絶対違う気がしたのは僕の気のせいじゃないな」
「あはは。さすがにバレたか」
「何回も同じことをあんまり日にちも跨いでないのにうだうだ言う子じゃないだろ」
「よくわかってきたね。頭撫でてあげる」
「それ、男がやられてあまり嬉しいことではないんだけど……」
「イヤ?」
「リリアちゃんからなら……」
「正直でよろしい」
「そうじゃなくて。結局何も聞いてないじゃないか」
「あ〜うん。大したことじゃないんだけどね。私さ、なりたいこととか、やりたいこととか、夢を持ってなくて。自分は何がしたいんだろうって、バカみたいに考えてたら寝れなくなっちゃって」
「僕も、あるよ。そういうこと。決まってたらこうして旅になんて出なかっただろうしさ」
「星、好きなんじゃないの?天文学者とかはなろうとは思わなかったの?」
「ん〜後で気付いたんだけど、星が好きっていうよりは、星っていう存在が好きだったというのか、たぶん、夜空が好きだったのかもしれない。昼には見られないだろ?星とか、月とか」
「うん」
「だから、自分が別に新しい惑星を見つけたいとかそういうことはなかった。綺麗なものを見たいってそう思った。まあ、こんなこと考えてるから女々しいだなんて兄たちからは言われてたんだろうね。姉さんは女性だったから、そういうことにも理解を示してくれてたんだけど」
「お姉さんは好きなんだ」
「あの家族では唯一頼れる人だったんだ。今更、戻ろうとは思えないけど、姉さんには会っておきたいかな」
「結局、ティンクル君は何かやりたいこととかなりたいものってある?」
「そうだな……写真家なんていいかもしれない。世界中旅して、自分が綺麗だと思った風景を撮りたい。ここだって、その一つだ」
「それなら秘境探索でもしよっか」
「それもいいけど、純粋に街並みとかでもいいんだよ?確かに秘境って言葉には惹かれるけど、何を綺麗だと思うかなんて人それぞれなんだし」
「じゃあ、私は綺麗?」
「来ると思ったけど、それは僕にはノーと言えない質問じゃないか」
「じゃあ、言い方を変えよう。大人っぽい?」
「いや、まったく」
「自分の彼女に対して何たる言い草!実はティンクル君はロリコンでお姉ちゃんとかみたいな容姿のほうが好みなんじゃないの⁉︎」
「いやさ……大人っぽいの基準が姉さんでさ……。どうしてもそれに比べたらと考えると」
「む〜。そこまで言われると見てみたい」
「写真の類は持ち歩いてないよ」
「じゃ、スケッチして」
「僕に絵の才はないよ」
「じゃあ、今度会わせてよ」
「その今度がいつになるか分からないけどね」
「その時はちゃんと彼女ができたって言うんだよ?」
「姉に報告する弟がいると思う?」
「お姉さん心配してるんじゃない?」
「悪い意味でいじってくるから、なるべく会わせないようにするか……」
「なにそれー!」
「ところで、リリアちゃんは何か熱中してたものとかないの?夢はそういうところから広がるかもしれないし」
「熱中か……ないなあ私。空っぽだよ。バカみたいに勉強して、バカみたいに修行したけど、それは必要なことであって自分のやりたいことじゃなかった気がするもん。お母さんみたいにお嫁さんって言えないし」
「お母さん、随分と可愛らしい人なんだね……」
「うん。若い時の写真見せてもらったけどすごい可愛いんだよ。私の顔はお父さんに目が似てるらしいんだけど。どうかな?」
「いや、比較対象を見たことないからどうとも……」
「それもそうか。今度うちのお父さんとお母さん紹介するよ。彼氏ですって」
「お父さんに殺される未来が見えるのは僕だけなのかな」
「心配しすぎ。手を出したら、お父さんの明日がないから」
「そっちも本当にありそうだから困るなあ」
「なんか話がコロコロ変わりすぎちゃったね。夢だったっけ?」
「リリアちゃんならいつか見つかるよ。焦ることはないって」
「ならさ……」
「うん?」
私たちは約束した。
私の夢を見つけ追いかけるためのものを。
それがいつになるか分からないけど。
いつか、きっと……それが叶うと信じて。




