やりたいこと、やらなきゃいけないこと
少し開けた場所に出た。
小休止にするにはちょうどいい空間だ。
探索部隊の人たちもそう思ったのだろうか、休息を取っているようだった。
その中にアックスさんの姿を見つけたので、話を聞いてみることにする。
「何か進展ありました?」
「それは俺が聞いたら、まったく別の意味合いに聞こえてくるな……そんなことはいいか。特にはないよ。今はこの洞窟の地形を確認してるところだしね。なんか、重要そうなポイントでもあれば別だけど、本当に何もない。このままだとだいぶ奥まで行かないとないかもな」
「奥まで行ったら逆に出口に出ちゃうかもですよ」
「まあ、そう見つかるものでもないみたいだしな。初めて行って見つかるものなら、世界中のありとあらゆるものは調べ尽くされてるはずだ」
「ですよね。見つかったとしても、何か分からなければ意味はないし、そこにあったのだとしても、見つけずにスルーしてしまえば、何もありませんでした、で終わっちゃいますし」
「男っていうのはそういうもんなんだよ。何もないかもしれないけど、何かあることを期待してロマンを追い求めるんだ」
「女は過程より結果ですけどね」
「手厳しいな。ティンクルは大丈夫か?」
「ティンクル君の前では乙女ですので」
「まったく。女っていうのは怖いな」
「お相手がいたことが?」
「リリアちゃんぐらいの年には割りかしモテたんだぜ?ただ、浮浪人だからなぁ。愛想つかされてばっかだ」
「ま、夢を追い求める人は、私は嫌いじゃないですけど」
「その夢すら持ってなかったんだ。その時はね」
「なら仕方ないですね」
「本当にバッサリだな」
「でも、今のアックスさんはかっこいいと思いますよ。早く相手を見つけてください」
「候補は?」
「あそこの二人ならどちらでももらってあげてください。お姉ちゃんでも、アリスさんでも私が進言するなら親もしくは兄弟は納得するので」
「正に鶴の一声だね。ただ、前にも言ったけど、俺じゃ荷が重いな」
「なら、見合うようになればいいんですよ」
「……ティンクルが一目惚れしたのもわかるな」
「褒めてもアックスさんとは付き合えませんよ」
「期待してないからいいよ」
それはそれでなんとなく腑に落ちないが、ただなんとなくティンクル君が足りないものを持ってる気がしたんだ。
でも、足りないものってなんだろう?ワイルドさ?
……ティンクル君にそんなのいらないかな。ティンクル君に似合うのはそういうかっこよさじゃなくて、凛々しいとかそういう類のものだと思う。
でも、やりたいことを見つけようと努力してる姿は素直にかっこいいものだ。
ティンクル君はもっと具体的なことでやりたいこととかないのかな?
「あ〜。休憩終了だ。ここから奥へ向かう。念のためにここをキャンプポイントとする。印つけ頼むな」
カルマさんから出発の指示が出される。
しかし、地下ならどこかに湧き水の一つや二つはありそうなのだが、もう少し奥に行かないとないんだろうか。地下というかこういう洞窟めいたところだとそういうのデフォだと思ってたのに。
う〜ん、本当にデフォかどうか聞いてみたほうが早いか。
「カルマさん。ちょっと聞いていいですか?」
「ん?」
「洞窟とかって、中に川が流れてたり、池みたいに水が溜まってたり、滝なんか流れてたりするの想像してたんですけど、実際そういうのってあるんですか?」
「んー、調べた総数が少ないからなんとも言えないけど、半々ぐらいかな。怪しい洞窟だと思ったら、ただの整備されたトンネルだったなんてこともありがちだし」
「それは調べる前に気づきませんかね」
「あえて、ということもある。そこを抜けたら別世界でした、なんてこともあってら面白いだろう?」
「どこかで聞いたことのある話ですね。カルマさんって、この仕事はやりたいと思って始めたんですか?」
「まさか。ま、成り行きだよ。妻の父親の護衛をやってたこともあったから行きがかり上というか、生きてゆく術のためというか……」
「でも、いつからやってるにしろ、こうやって人が付いてくるぐらいなんですし、長いことやってたりするんじゃないですか?」
「まあ、10何年はやってるかな。でも、本当はもっと魔法を追求したかったんだけどね。世の中、自分の思い描いた通りにはならないものだよ」
「なら、どうしてやってるんですか?この仕事」
「やらなきゃいけないことだからだよ。実際、自分のやりたいことを生業としてる人なんて全世界で何%しるんだろうね。でも、やりがいも感じてるし、新しい発見があればそれは楽しい。……まあ、この仕事に興味を持つ人はなかなか少ないからね。アックス君みたいに自発的にやりたいっていうのは歓迎する。それが長続きするかどうかは別としてね。今回ので続けたいなら教えやることも可能だし、無理そうなら別の道を目指すこともいいだろう。まだ若いんだから自分で道を閉ざすのはあまり褒められたことじゃないな」
「やらなきゃいけないこと……か」
「リリアちゃんは何かあるの?やりたいこと」
「特に考えたことなかったです。お姉ちゃんが無事に嫁に行って欲しいぐらいで」
「この調子だとリリアちゃんのほうがそれは早そうだね」
「……からかわないでくださいよ。もう……」
その相手はアックスさんと何か話していた。何を話してるんだろう?気になるけど、あまり水を差すこともないだろう。
あまり面白くなさそうにしてる後ろの二人のほうが気になってしまうのは、世話焼きの性なんだろうか。
「お姉ちゃんたち!露骨につまらなさそうな態度をしない!」
「だって〜」
「リリアちゃん構ってくれないもん」
子供かあんたら。お母さんに構ってもらえなくて拗ねてる子供ですか。誰が、あんたらのお母さんやねん。それよりも、この人たちのご機嫌とりをしなければならない15歳の少女の悩みは誰に話せばいいの?
あ、いた。
「リリアちゃん。その頼れる人見つけたみたいな目で見ないでもらえるかな。確かに一緒に旅したことはあったけど、本当に短い期間だったからね?」
「ダメなんですか?」
「ダメというわけではなく、無理だという話だ。それこそ、妻に任せたほうがいい」
「ちくしょー!なんでミーナに旦那がいるのに私にいないんじゃ!」
後ろのほうで姉が叫んでいた。カルマさんの声が聞こえていたのだろう。仕方ないので私がなだめに行くことにする。
「お父さんがフったからじゃない?」
「いっそのこと重婚してもよかったのに……」
「それはそれでお母さんが許さないと思うよ……」
立場上はお父さんの子供だからね。お姉ちゃんは。だから、私のお姉ちゃんであるのであって、もし、お父さんがお姉ちゃんとも結婚していたらとてもお姉ちゃんとは呼べないと思う。人間関係ドロドロしすぎて、お父さんが誰かに刺されるレベルだよ。
ところで、私は一体何をしにこの洞窟へ来たのかサッパリになってきた。
しかし、相変わらず不貞腐れている姫二人をなだめることに私は奮闘することになっていた。
アックスさん、とりあえず頑張ってください。




