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百合の勇者  作者: otsk
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海底洞窟(3)

「ふわぁ~」


 洞窟内へ行くこと一時間、ようやく姉がお目覚めのようだ。とんだ重役出勤である。運んでるのは私だけど。


「リリア?ここどこ?」


「洞窟の中だよ」


「そんなところあったっけ?」


「まあ、後々説明するから、起きたなら早く降りて」


「リリアの背中落ち着く~」


「あのねえ……」


 正直言うと、この人と身長差は約20cmもある。私がデカイのではなく、お姉ちゃんが小さすぎるのだ。140前後だ。姉は142と言い張ってるけど、正直138だろうが、あまり意味は成してない。お姉ちゃん飛べるんだし気にする必要ないでしょうに。


「はっ!」


 お姉ちゃんは何かに気づいたかのように、跳ねるようにして私の背中から降りた。

 そして、地面に頭を付けている。


「どうしたのお姉ちゃん」


「怒ってないの?」


「いつまでもへそ曲げてるほど子供じゃないし、アリスさんだったら真面目に王様にどう連絡を取るか考えてたところだけど、お姉ちゃんだから……だからって、次もやっていいって言うわけじゃないからね」


「ありがと!リリア大好き!」


「わっ……もう……」


 すりすりと頭を私の体に擦り付けてくる。その動作、一挙手一投足が子供っぽい。

 でも、その姿にはどうにも怒る気もなくて、なぜか頭を撫でてしまう。


「で、ここはどこなの?」


「私が岩を殴って破壊したら、奥に続いてそうな洞窟が出てきた」


「……それだけ?」


「それだけ」


「リリア、すごい怪力だね」


「いや、どうにも違うみたいだよ」


「どういうこと?」


「魔法で生成されたものだから、自然物のものよりはいくらか脆いんだって。それでも、さすがに殴った時は痛かったけど」


「大丈夫?まだ痛くない?」


「大丈夫だよ。ティンクル君に治してもらったし」


「とは言っても、お姉ちゃんは回復魔法なんて使えない無能なのですよ……」


「気持ちだけでいいから。ほら、早くしないと置いてかれちゃうよ」


「よし、ここからは手を繋いで行こう」


「怖いの?お姉ちゃん」


「そんなことないやい!リリアのためだよ!」


「どうだか」


 しかし、断る理由もないので、手をつないであげる。

 正直なところは「きゃ〜こわ〜い」とか言って、ティンクル君に抱きつくのが定石なのだろうけど、どう考えても私のキャラでもないので、というか、そんな自分を想像して吐き気してきた。


「うぇっぷ」


「ちょっ、リリア⁉︎女の子としてあるまじき状態になりかけてる⁉︎」


「いや、大丈夫……正直、女子力皆無なお姉ちゃんよりは大丈夫」


「どういう意味⁉︎脈絡がなさすぎる‼︎しかも私、なんでディスられたの⁉︎」


「化粧せずに、怠惰な生活を送ってるくせにツヤツヤな肌を保ち続けるお姉ちゃんには永遠に分からない悩みだよ。女の子はみな、劣化していく肉体に恐怖を抱いてるんだよ」


「本当に何の話?」


 私もなんの話をしているか分からなくなってきた。お姉ちゃんはまだ全盛期が来てないのか、もしかしたら、以前お父さんから聞いた10年単位での成長曲線を描いているのかもしれない。いや、それにしてもお父さんたちが養子にした時が120歳だと仮定した話ではいま140ぐらい?だとしても……


「やっぱり小さいよね……」


「だからお姉ちゃんをバカにしてるの⁉︎」


「お姉ちゃん、誰の子供かわかってるの?」


「魔王とエルフ。エルフのお母さんは人間とのハーフだったから、私は四分の一は人間なんだよ」


「お姉ちゃんが小さいのと関係あるの?」


「なんかエルフ自体が全体的に小さくて長生きなんだって。遺伝的なものらしいよ。お父さんはソードよりデカかったけど」


 お父さんよりデカイってどれだけのサイズだ?お父さんも190越えで人間でいうなら大巨人である。お母さんはそこまで大きくないというか、平均なので、私はそっちを受け継いだらしい。流石に身長が170,180もいらないけど。これぐらいでもう背は止まってほしい。


「リリア〜肩車して〜」


「普通は逆の台詞なんだと思うけどな……私は悲しい」


「リリアが小さい頃は私がやってあげたのに」


「もう初等部の三年生ぐらいの時にはほとんど変わらないぐらいだったんだけど」


「……女の子の成長は早いね〜。一部は個人差のようだけど……」


「「はあ……」」


 二人してため息をつく。この洞窟に成長促進する水とか湧いてないかな?

 まあ、そんなことを調査するためのものではないと思うんだけど。


「にしても、変化の乏しいところだね」


「本当に通路用にしか作らなかったのかな」


 歩き続けても、自力で掘り進めたのか、自然のものによるのかよく分からない。

 でも、少し下り坂っぽいので地下へとは続いているのだろう。


「わっ」


「っと、大丈夫?」


「う、うん。ありがと、ティンクル君」


 路面が安定しないので石に蹴躓いたが、ティンクル君に抱きとめてもらった。ついでと言ってはなんだが、お姉ちゃんは自分で色んなところに行ってみたいらしく、すでに私から離れている。と言っても、私の目で見える範囲にいることを条件としたけど。

 各々、魔法を使って照らしているので、暗くて見えないということはない。


「カルマさん。合流はまだできそうにないですか?」


「まずはこの内部の全体像を分かっておきたいからな。それにある程度は目印をつけて通ったところが分かるようにしてある。今のところは、直線状で分かれ道とかないからつけてはないけどな」


「歩いてる間にだんだん曲がってるかもしれないですよ?」


「そういう揚げ足取りはしなくていい……なんとなく、ソード君を思い出すよ」


「頭悪いくせに屁理屈ばかり言いますからね。だから、逆に揚げ足取りされて轟沈してます」


「やっぱりソード君はバカだったか……」


「仕方なしですね。お姉ちゃんにも言いくるめられるぐらいですから」


「まあ、リリアちゃんは頭は良さそうだ。勉学の面じゃなくてもね」


「褒めていただいて光栄です。……っと、分かれ道ですね」


「ちょっと待ってくれ。ここに戻るのか、もしくは、全員でそっちへ向かったのかで変わってくる」


「誰かが地図とか作ってるんですか?」


「大まかにな。いまみたいな分かれ道があるなら、行き止まりがなければほぼ無限に広がったりもする。さすがに、全部を探索してる余裕はないから、だいたい打ち切るんだけどな」


「何かあるんですかね?」


「なかったら、なかったで骨折り損だからあってほしいものだ」


「カルマさんはこっちでよかったんですか?」


「素人がうろちょろして怪我されるのが一番怖いからな。それに、さっきも転びかけてただろう」


「あう……」


 そう言われてはぐうの音も出ない。

 さっきはティンクル君が支えてくれたからなんとかなったものの、そのまま転んでたら大惨事だったかもしれない。

 自分の身は自分で守らなければ。


「どうやら、右のほうへ全員で行ったみたいだな。追跡しよう」


 カルマさんが印か何かを解読したのか、先導を始めた。

 進んだような気もするけど、あまり進んでないような気もする。

 まだまだ先は長いのかな。

 私たちはどこへ繋がってるのか。どこまで続いているのか分からない洞窟を歩き続ける。

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