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百合の勇者  作者: otsk
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仲間を探します

 気絶をさせたものの、数秒で復活して追いついてきた姫さまを引き連れて、隣国へ私は辿り着いた。


「次余計なことしたらその手を切り落としますからね」


「はい……でも、どうやって?」


「お母さんに教えてもらったんですけど、これ仕込み刀になってます。杖としても剣としても使えるものです。もっとも、お母さんは剣は使えなかったって言ってましたけど」


「そ〜」


 私は剣を居合抜きし、アリスさんの顔の横を突き刺した。

 冷や汗をかいて、何かしようとしていた手を下げた。


「次はありませんよ」


「いえっさー」


 大人しくさせたところで、探索を始めることにする。

 自国から出るような用事はないから、陸続きとなっていても他の国に来るようなことはまずない。

 ただ、一国の姫を連れて、というか尻に敷いて旅をしている私の立場は一体なんなのだろうか。王族より偉いって。


「ここで何をするの?」


「あなたを見張ってもらうために仲間を探すんです」


「共犯だったらどうする?」


「人を見る目はあると思ってます。今一緒にいる人は間違えたと思ってますけど」


「リリアちゃん……私のこと嫌い?」


「今のあなたには不信感を抱いてます」


「うわ〜ん!私、一国の姫なのに〜!」


「一市民にちょっかい出す姫がいてたまりますか!」


「ぐすん」


「そして、15歳の女の子に30にもなる人が泣かされないでください」


「いいもん。私だって仲間を見つけてくるんだからー‼︎」


「いや、あの……」


 足速いな、ニート姫。もう姿が見えなくなってしまった。

 隣国と言ったが、まだまだどこの所有地にもなってない土地はあり、なんというか、不可侵の領域となっているらしい。

 あんまりそういうところに身を置いてると荒くれ者というか爪弾き者というか、柄の悪いのが追い剥ぎなり恐喝なりしてくるそうだ。

 今回の移動間ではそんなことなかったけど、これからは何かあるかもしれない。

 誠実かつ、私に興味がなくて、アリスさんの暴走を止めてくれる人がいいんだけど……あとなんか賢者っぽい人。こんなところで見つかるとは思えないけど。

 とりあえず、宿泊施設でも探すとしよう。数日ぐらいは身を置いて、仲間探しに専念してもいいかもしれない。


「……ヤバいかな」


 一人で行くなって言われてたのに一人になってしまった。

 唯一頼りにできそうな人はどこかに走り去ってしまったし。

 あまり離れてしまうのも逆に迷惑をかけてしまうのではないだろうか。

 ……迷惑をかけているのはどう考えても向こうだけど。

 とりあえず、木陰に座ってよう。


「暇だなぁ……」


 座ったもののやることがない。

 人が通り過ぎるの見ながら、時間を潰す。

 ただ、女の子が一人でいるのに誰も話しかけてこないというのはどういうことだろうか。

 私に魅力がないのか?まあ、そりゃ15歳の小娘ですけども。

 だけどこのままいたらお巡りさんにお世話になるかもしれない。


「まあ……そのうちアリスさんが探しに来るか……」


 適度に涼しく、気持ちのいい気候だったために眠気が襲ってきた。

 こんなところで……寝ちゃ……。

 抵抗もむなしく、私は眠気に身を任せていた。


 ーーーーーーーーーーーーー


「はっ」


 目が覚めたら、少し視線が変わってて、道通りも少し赤みがかかっていた。

 どれだけ寝てたんだ私は……。

 しかも、あの人帰ってこないし。


「起きた?」


「ん?」


 よく見てみたら視線が変わってるのは私の頭がどこかに寄りかかっていたからのようだった。


「誰だー⁉︎」


「うわっ!」


 いきなり叫んだせいでその人は少し驚いたのか、ひっくり返ってしまった。

 さすがに申し訳なくなって手を差しのばした。


「す、すいません。いきなり大きな声出して」


「いや、元気そうならいいんだ。……ありがとう」


 私の手を取ってその人は立ち上がる。

 なんかマンガとかなら恋愛にでも発展しそうだ。

 トキメキなんて一切ないけれど。


「えっと、あなたは?」


「ん?ああ、僕は旅人だよ。君もそうみたいだからちょっと話しかけてみようと思ったんだけど、気持ちよさそうに寝てたからね。でも、女の子が一人で危ないじゃないか。誰か一緒に来なかったのかい?」


 一緒に来た人は自国の姫で、暴走してどこかに走り去って行きました。


 なんてことはとても言えない。そもそも、姫が勝手に何をやってるんだという話だ。私の護衛といえば、まだ分からなくないが、本当の目的が結婚相手を探してるんだしな……。

 どこに行ったのやら。


「もう一人いるんだけど、私も旅を始めたばかりなんだ。一緒に旅をしてくれる仲間を探してるの」


「えっと、そのもう一人の人は?」


「……何処か行っちゃって。ここで待ってたんだけど」


「その間に寝ちゃってたってことだね。ダメだよ。女の子が無用心にこんなところで寝てちゃ」


「面目無い……」


「とりあえず名前聞いておいていいかな?僕は、ティンクル」


「ティンクル……君?」


 一人称が僕だが、顔が中性的でどちらなのかよく分からない。

 女の子といえばそれで通用しそうだけど、男の子だったらなんかとても私がいたたまれないのだけど。


「あ〜やっぱり分からないかな。背もあまり高くないし、一応男……なんだけどね」


「……なんかゴメンなさい」


「いや、いいんだ。昔旅をしてたっていう勇者さんに憧れて旅に出たはいいけど、この通り女の子に間違われることも多々あってね……。ちょっとでも男っぽく見られるようになりたいなって思ってさ」


「そうなんだ。うん、いいことだよ。でも、勇者にはあまり憧れないほうがいいよ」


 うちの父親だし。


「君は勇者になんか恨みでもあるのかい?」


「やっぱり偶像を追いかけるより実物を見た方がいいんじゃないかなって思ってるだけだよ」


「現実主義なんだね。そうだ、君の名前聞いてなかったね」


「私はリリア。一応、勇者として旅してます」


「……?フルネーム聞かせてもらっても構わないかい?」


 一瞬迷ったが、別に隠したところですぐバレるようなものだし、隠しておけと言われてるようなものでもない。


「ブレイバー。リリア・ブレイバーだよ。直属の勇者の家系なんだ。まあ、モンスターも魔王もいない世界でどうしようもない血筋だけどね」


 魔王はいることにはいるけど、暴走中の我が姉だし。しかも、本当に魔王なのか疑わしいけど。


「ということは、魔王を撃退したっていうソード・ブレイバーさんの娘なのかい?」


「う、うん」


 実際、魔王を倒したのは父さんの元パーティメンバーだという話だし、その魔王はお姉ちゃんのお父さんだったとか聞いてるので、色々複雑なところがある。

 私が生まれる前のことだし、過去に戻ってやり直せるわけでもないけど。

 元々旅もお姉ちゃんをその魔王のところに返すための旅だったらしい。お姉ちゃんが戻るところがなくなって、お父さんとお母さんと一緒にいることを選んだらしい。

 ただ、兄弟とかではなく、お父さんとお母さんの子供として引き取ったということだ。

 本当にうちの親は何を考えてるのか分からない。それほどまでにお姉ちゃんのことを溺愛してたのかな。


「勇者って……なんなのかな……」


「確かに今の時代じゃ難しいところだね……それで、リリアちゃんでいいかな?」


「年齢による」


「今16で今年17歳」


「今15。……うん、まあ大丈夫かな」


「な、なんの話?」


「いや、姉も一緒に旅をしてる人も年齢詐欺すぎて……私より背が低いのもだし、顔も童顔なせいで一緒にいると私が年上に見られるんだよ……向こうは30越えてるのに……!」


「お姉さんがいるの?」


「あ、そうだ。この人なんだけど、最近この辺りで見てないかな?」


 写真を取り出す。私も一緒に写ってるのだが、私がかなり幼少期のころだ。

 というか、姉がそれぐらいからほとんど変化をしていないというのが問題なのだが。


「……えっと、リリアちゃんが結構小さい頃みたいなんだけど、ここからあんまり変わってないのかい?」


「ええ、腹立つことに」


「ゴメンだけど、見てないな」


「そう。ありがとう」


 写真をしまうと、遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。


「リリアちゃ〜ん。ゴメンなさい〜。私が悪かったです〜」


 いや、何に対しての謝罪だ?


「探してるみたいだから、私行くね。ありがと」


「ああ、うん。気をつけてね」


 ティンクル君に背を向け、声が聞こえるアリスさんのところへ向かう。

 聞こえるぐらいだから、そう大した距離はなく、すぐに見つかって合流できた。


「リリアちゃ〜ん」


「うわ。もう、そんなに泣きべそになるぐらいなら一人で行かないでください」


「見捨てられたかと思った」


「別れてからすぐのところにずっといたんですけど」


「大丈夫?何もされてない?」


「う、うん。一緒にいてくれた人がいたから……今さっき別れたけど」


「それ、リリアちゃんの後ろにいる人?」


「へ?」


 ティンクル君が私の後ろについてきていた。


「別れたでしょ!なんでついてきてるの!」


「あ、あの……僕、一人旅なんです。よかったらなんですけど一緒に旅をさせてくれませんか?」


「どちら様?」


「うたたねしてた私を……守ってくれてた?」


「疑問系で返すのはやめてね」


「うん。まあ、ティンクル君。こんな見た目だけど男の子だって」


「一目惚れ?」


「ないない」


 私は一目惚れとかには流されないタイプです。

 初恋もまだです。

 でも、お父さんとお母さんは幼なじみで本当に小さい頃からお互い好きだったらしいんだけど、あの人たち凄いな。私には到底真似できそうにはないよ。

 ともあれ、仲間を探してると言ったのは事実だ。ティンクル君なら、なんとなく純朴っぽいし……アリスさんの暴走を止めてくれるかという観点では微妙なところだけど、私が嫌がるようなことはしないだろう。


「一緒に行ってあげてもいいんじゃない?人手は多い方がいいし」


「ふむ。リリアちゃんに手出しをしないならいれてしんぜよう」


「いや、むしろアリスさんを監視してもらうのが目的です」


「あ、あの……いいんですか?」


「うん。一緒に行こう。よろしくね」


「よろしくお願いします!僕、ティンクルっていいます!」


「私はアリス。リリアちゃんの付き添いかつ保護者?」


「いや、むしろあなたのお兄さんに保護者を頼まれてるんですが」


「細かいことは気にしない!私の方が一回り以上上なんだよ!」


「いえ、言ってて哀しくならないんですか?これならお母さんについてきてもらったほうがマシでしたよ」


「私本格的に用無しじゃん!ウィナちゃんがいたら、他の用心棒誰もいらないレベルだよ!」


 うん。まあ、アリスさんの言うことはごもっともで、今や世界最強の魔法使いを冠するまでになってるらしい。

 その理由は基本魔法を全て使える上に最上級のところまで極めていて、回復魔法、補助魔法なんでもござれの才色兼備なのだ。おかしい、こんなことは許されない。

 聞くには魔女の血族というものらしい。なら、私にもその血が流れてるはずだ。

 というか、私どんだけハイブリッドな血筋やねん。勇者と魔女か。姉に魔王をもって、訳のわからないことになっている。


「その点、アリスさんは王族の血だけですから楽ですよね……」


「私だってリリアちゃんぐらいまでは大変だったんだよ」


「その結果が今、婚期を逃しそうで私の旅と一緒に婚約者を探している人ですか」


「うぇ〜ん。リリアちゃんがいじめる〜」


「リリアちゃん。あんまり人の傷口を抉るものじゃないよ」


「こっちはセクハラされてるからいいの!」


「そうか!私がリリアちゃんからいじめられれば、私がセクハラを働くという交換条件が成立するってことだね!」


「成立しない!どう都合よく解釈すればそんな結論に行き着くの⁉︎」


「ま、まあまあ。抑えて抑えて」


「ティンクル君はどちらの味方なの‼︎」


「立場的にはリリアちゃんの味方をするけど。……聞いてる限りだと、先に手出しをしてるのはアリスさんのようですね。自重したほうがいいですよ。そんなことばっかり繰り返してると本格的に嫌われますよ」


「リリアちゃん可愛いもん」


「可愛いからと言ってセクハラを正当化する理由にはなりません。裁かれますよ」


「私は王の名の下に守られているのだ!」


「……どういうこと?」


「この人。私の国の王様の妹なの。でも、正直言えば、あの王様のことだから、私に何かしようとするならば、監禁ぐらいは平気でするかも」


「すいません。これからは自重するので、兄さんには言わないでください」


 少し前まではかなり甘かったようだが、あまりにもこの人が好き放題にやるので、堪忍袋の尾が切れたそうだ。

 王様は妹に最近は非常にドライになっている。だから、あわよくば、この旅でさっさと結婚相手を見つけて欲しいのだろう。

 そんな理由で、アリスさんも王様を恐れている。

 普通にしてれば、普通にいい人なんだけど、この人がいらないことばかりするからこんなことになるのだろう。


「少し暗くなってきたね」


「僕が泊まってるとこでよければ、貸すけど……嫌だよね。さすがに男だし」


「あ〜一緒でも構わないよ。この人さえ監視しててもらえれば」


「ちょっと男の子より私の方を警戒するってどういうこと⁉︎」


「自分の胸に手を当てて今までの行動を思い返してください!」


「ごめん……ちょっと胸が大きいばかりに思い返そうにも少し届かない」


 ものすごく腹がたつ。貧乳の私に対する当てつけか。

 お母さんも大きくないからきっと遺伝的なものなのだろう。

 あまり自分で大きくないって言いたくないけど。


「分れることなら、私とこの人分けてもらえる?」


「信用が微塵たりともない!」


「ゴメン……僕の所持金じゃ二つ部屋を借りることは……」


「……まあ、今日は親睦会をということで、私は構わないよ」


「だ、ダメだよ!思春期の男女が一緒に寝ちゃ!」


「……この人にそんな度胸があるように見えないけど」


「いいよ。僕は床にでも寝てるから」


「ティンクル君が借りてるんだから、ちゃんとベッド使わないとダメだよ」


「ああ、大丈夫だよ。ツインしか空いてなくて」


「ツイン?」


「ベッドが二つあるってこと」


「……どちらにせよ。ティンクル君のほうにお世話になると思うから、その時はよろしく」


 小声で耳打ちをしておいた。

 なんかどうにも男の子という感じがしない。

 失礼かもしれないけど、そこに逆に安心感を覚えているのだろう。

 ……この人がコッチ系の人だったらそれはそれで扱いに困りそうだけど。

 何はともあれ仲間が増えたことに今は喜ぶことにしよう。

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