海底洞窟(2)
一度行ったことのあるところより、未開の地を行った方が、有意義な情報が得られるかもしれないということで、カルマさんを先導として、私が文字通り突き破った岩へと来ていた。
「この岩を?リリアちゃんが?」
「ええ。にわかには信じられないかもしれないですけど……」
案内をして、破壊した痕もあるけど、信じてもらえなかった。
当然の結果ではあるものの不本意である。証拠写真でも撮っておけばよかった。カメラなんて便利なものを持ち歩いてないのだけど。
「とりあえずは、俺が撮っておこう。それと……これ、魔法で作られた岩のようだな」
「岩を生成することなんてできるんですか?」
「世の中色んな魔法があるんだよ。基本的なことしか教えないけど、家系によっちゃ普通は使えないような魔法を使うところもある」
「そうなんですか」
「もしかしたら、この世界自体、魔法で作られたものだったりしてな」
「まさかぁ……ないですよね?」
「可能性の話だからな」
「じゃあ、私たちも魔法という概念で存在してることになりますよ」
「そういう矛盾が生まれるから、あくまでも……いや、そうか。もしかしたら、新しく出来た惑星に、元々人間だった人が送り込まれ、この世界ができたのかもな」
どこかで聞いたことのある話だ。
確か、魔法が出てきたのはすごく昔らしいけど、人間の歴史からすると比較的新しい部類だ。
天変地異かなんかで大陸が繋がって、空間が裂けて、そこからモンスターが出てきたっていう話だったかな。
もしかして、その空間から出てきたというのが、モンスターではなく人間だったとしたら?
それゆえに、いつか魔法を使える人間が生まれてきたのではないだろうか。
考えすぎか。それが確認できる史実はないし、確認できたからといってどうなんだと。
でも、そうすると、お姉ちゃんの実の親である魔王は姿を消したって話だったけど、お父さん曰く、どこかへ自分の配下であるモンスターは先にどこかへ飛ばしたらしい。そのどこかは今となっては分からないみたいだけど。
路頭に迷った悪魔が最後のゲートを使ってしまったからだとかなんとか。悪魔って、モンスターの部類なのかどうか微妙なところでもあるけど。
「今から行きますか?」
「いや、今日はもう遅い。元々明朝に始める予定だったが、別の探索場所ができたとなれば 話は別だ。こちらを主に据えてやっていくとしよう。まあ、少し時間を遅らせる程度だが……明朝と言わずとも、朝の時間帯には探索を開始しよう。構わないね?」
「ええ……私たちは……」
「問題ないです」
「よし。なら、君たちも早く寝るといい……」
「……どこでですか」
「君達、テントとかはあるだろう?」
「あの人たちどうしてましたか?」
「すでにアックス以外は寝ている。大方昼にはしゃいで疲れたんだろう。一体、誰が子供で誰が大人か分からなくなるな」
「……ねえ、ティンクル君。今日だけでいいから、そっちのテントに入れてくれない?」
「アックスいるけど、それでもいい?」
「あの二人より全然いいです」
「一応、アックスに聞いてみるよ」
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朝になった。
アックスさんは、護衛班のところで寝ると言っていた。遠慮したのか、気を利かせたのか。どちらにせよ、私たちでは何も起こる気配などないんだけど。
やっぱり、好きな人が側にいてくれるというだけで落ち着くのだ。
なんとなく惚れた弱みとでもいうのか、惚気ていると言われてもしょうがない。
先にティンクル君のほうが起きていたので、揺すられるように起こされる。ティンクル君は優しいから、私が起きるまで待ってるだろうと思ったから、先に起きたら、起こしてくれるように頼んでおいたのだ。私も寝起きが悪いわけじゃないけど、ほっておいたら昼近くまで寝てる可能性もある。
「ん~おはよう」
「おはよう。リリアちゃん。寝れた?」
「今までで一番よく寝れたかも」
「よかった……と思うのと同時に僕は少し残念だよ」
「まあまあ。気にしたら負けだよ。顔洗ってくるね」
「僕も一緒に行くよ」
まだ目は覚めきってないので、顔を洗ってスッキリさせる。近くにカルマさんの姿が見えたので、どれぐらいで出るかを聞いてみた。
「そうだな……あと、30分ぐらいか。まだ、寝てる奴がいるなら起こしてやってくれ。それ以内に支度が終わらなければ置いてくことにする」
「いっそ起こさないほうが平和じゃない?」
「かといって放置してたら逃げられる可能性があるけど」
「あの姉は誰の監視下におけば大人しくしてるのか……。ミーナさんも一緒に来てくれればよかったのに」
「まだ子供が小さいからな。婆やだけに任せるわけにもいかん。もう少し大きくなってからだな」
「まだ5歳でしたっけ?」
「もう10年近くは無理そうだな」
「やっぱり、お姉ちゃんをあの屋敷に置いていったほうがよかったかも。そうすれば後で回収するだけの簡単なお仕事だったのに」
「それはそれでゴネるんだろう」
「そうなんですけどね……とりあえず起こしてきます。二人とも朝弱いですけど」
ついでにいえば、テントは隣接して立てなかった。不安要素しかないからだ。だから、自分たちのテントを片してから起こしに行くことにする。多分こちらへ戻ってくることはないと言われている。あまり起こす時間も無くなるけど、お姉ちゃんはまだ軽いので最悪引きずってでも連れていけばいいだろう。アリスさんは王族の暮らしなので、割りかし朝は早かったりする。その分大抵不機嫌だが。
「アリスさん起きてください。もう出発しますよ」
「え~。あと1時間寝かせて」
「その場合、お姉ちゃんは強制的に連れてくので、アリスさん一人で留守番か先に国に帰ってもらいますよ」
「3分で支度します」
さすがに自分一人だけ置いていかれたくないという精神だけが働いて私がいるのにも関わらず、着替え始めた。もうこの歳になれば、私ぐらいであればどうでもいいのだろう。
こっちはこっちで姉をひっぱたいて起こすことにした。
「いたい……何すんの……」
「普通にやっても起きなさそうだから。あと10分以内でテント片して、着替えなさい。もう出るから」
「朝ごはんは⁉︎」
「寝坊してるようなのにあるか‼︎」
「うええ……」
そのまま倒れた。多分起きないので、服をひっぺかえして、着替えさせることにする。なんで、私がこんな子供の世話みたいなことをしてるのだ。
しかし、妹のおかげで慣れてるので、体躯があまり変わらない姉の着付けも終わってテントの外に放り出した。
もちろん外にはティンクル君を構えさせている。
「本当にリリアちゃんのほうがお姉ちゃんみたいだね」
「生まれる順番間違えたか、もう少し後で産んでもらえれば助かったのか……」
「後にせよ先にせよ結局やるのは変わらず、周りが余計に年取って面倒臭くなってるだけだよ。それにこういうのは何だけど、ロロちゃんはウィナちゃんがお腹痛めて産んだ子じゃないからね」
「……血はつながってなくても、私のお姉ちゃんですから。せめて、結婚相手が見つかるまでは世話焼いてやります」
「リリアちゃん、意外にお節介?」
「どうなんでしょう?言われたことないですけど。ただ、周りが過保護過ぎたんで、自分のことぐらい自分でやりたいっていう感じで、私に出来るぐらいなんだから、お姉ちゃんにもそれぐらいやってほしいっていう感じなんだと思います」
「ロロちゃんはどちらかといえば、ソード君に懐いてたから、そっちに似ちゃったのかもね。だから、お尻を叩かれないと動かないんだよ」
「姫としてその言葉遣いはどうなんです?」
「こんなところで体裁気にしてもしょうがないよ。さて、こんなものかな。行こっか」
「はい」
お姉ちゃんは結局、放り出されたまま砂浜に頭突っ込んで寝ていた。
苦しくないのか?あんたは肺呼吸ではないのか?
ティンクル君も下手に手をつけないほうがいいと思っていたのか、とりあえず何かしらの反応をするかを見ていたようだ。
私たちが出てくるまで何の反応も示さなかったようなので、盛大に顔やら装備やらについた砂を払って背負うことにする。
まったく、重いや……。
そして、程なくカルマさんたちが待機していた場所にたどり着く。
先遣隊としてアックスさんは先に行ったらしい。
そして、私の一回りも違う小さな姉は私の背中で小さく寝息を立てていた。




