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百合の勇者  作者: otsk
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海底洞窟

「いや~満喫しましたな~」


 そんな悠長なことを言ってるのは私の姉である。本格的に一度ぶん殴った方がいいかもしれない。

 人の着替え覗いてくるわ、胸を揉んでくるわ、その時も制裁したのに懲りないし。


「リリア?」


「次来たら、本当に強制送還するから」


「すいませんでした……」


「私は?まだやってないから猶予あるよね?」


「やったら、王様に頼んで牢屋コースにしてもらいます。二人ともおとなしくしてるんですよ」


「目が本気だ……」


 お姉ちゃんの暴走はティンクル君に止められるわけもなく、どこから嗅ぎつけたのか姉はマッハのスピードで小屋まで来ていたのだ。

 着替え終わってるわけもなく、バッチリ見られたのだ。事故なので、ティンクル君はおとがめなしにしたけど、姉はその後に流血沙汰の後、砂に頭から埋めておいた。私は悪くない。

 そして、日も沈む頃には姉は普通に復活していた。不死身かあんたは。


「もうティンクル君一緒にいてよ」


「着替える時もか」


「もう見たんだから一緒でしょ」


「問題しかないよ。しかも、それが切実に聞こえてくるから僕はどうしたらいいんだ?」


「いっそのこと、あの二人置いていこう。一番それが身の安全だと私は思うの」


「旅の目的忘れてやしないか?」


「私が斡旋なんかする必要はないんだよ。私よりいくつ年上だと思ってるの?一回り以上上なんだよ?」


「そう言われるとおかしいんだけど……そうしないと危ないんじゃなかったの?」


「う~そうだけど~」


「とりあえず着替えてきなよ」


「だから一緒に来てよ~」


「……僕だけじゃ心許ないからカルマさん呼んでくるよ」


「私も行く~」


「どれだけトラウマになったんだ……」


 ティンクル君は思い出してるのか、私の方に顔を向けようとしないのだが、別にそれはもういい。それより、もう一度被害がある方が私にとっては一大事だ。本当にお嫁さんに行けなくなる勢いだ。

 いや、あの姉は死ぬまで私に世話をしてもらおうとしてるんだから、むしろその方が好都合なのか。


「ティンクル君!早く私をお嫁さんにしてください!」


「唐突すぎるよ!」


「私の貞操が危ないです!」


「それが僕とかアックスじゃないことが容易に想像できることが僕は悲しいんだけど……」


「私は今、非常に不安定なのです……」


「ほら、着いたよ」


 まだ方向性が決まってないのか、会議中のようだったが、それでも声をかけた。


「あ~一旦休憩だ。拉致あかねぇ。で、どうした?」


「見張り、頼めないでしょうか?」


「こいつらなら俺が見張ってるから……」


「じゃなくて……」


「こいつか?リリアちゃんの彼氏じゃなかったのか?」


「でもなく……」


「じゃあ誰を?」


「私の姉と姫です」


「男よりそっちを見張っててほしいってどういう話なんだ?……が、リリアちゃんがなんかすごく悲壮感に暮れてるようだな。行ってやろう」


「覗かないでくださいよ」


「見張り頼まれてるのに、とんだ言われようだな……。それに、妻がいるのに、耳に入ったらただじゃおかなくなる。義父さんがこええんだよこれが」


「奥さんそんなに怖いんですか?」


「いや、あいつは優しい。が、優しいゆえに責め方を熟知してやがる。心を抉ってくるからな。身体的被害はなくとも精神的被害は甚大だ」


「とてもそう見えませんけど……」


「まあ、リリアちゃんもいつまでもその格好じゃ男の目についてイヤだろ。ほら、早く行った」


「いいです。どうせ、私の貧相な体なんて誰も見ませんよ……」


「あんまり卑下してっと、彼氏が怒るぞ」


「姉たちに散々揶揄されてきましたので」


「あいつらはエチケットとかそういものを持ち合わせてないのか?」


「そのあと、砂に埋めました」


「言わんこっちゃないな」


「次はないです」


「強制送還にするにしても時間はかかるだろうけどな……。もう、いっそのこと、あの二人だけ国に返した方がいいんじゃないか?」


「正直そうしたいです」


「リリアちゃんが心底疲れてそうで可哀想なんだが……彼氏。なんとか元気付けてやれよ」


「善処します……。とりあえずは、見張りを一緒に」


「任せろ。妹にまで手を出してるアホはとっちめとかないとな」


「ロロさんとアリスさんは溺愛してて、それが行き過ぎてるんだと思うんですけど……」


「本格的に戻した方がいいだろう。それは。国に帰れば、親もいるし、王様だっているんだし」


「……そうですね。とりあえず、この仕事だけはやらしていただきます。それでいい?リリアちゃん」


「え……?うん……」


 なんかあまり会話が頭に入ってこなくて、空返事だ。

 何を言ってたっけ?なんかすごく頭が痛い。

 ティンクル君にもたれかかったまま歩いて、着替えを渡されて、小屋に入る。

 手作りなのか、窓はない。窓となる材料がなかったのか。だから着替え場所に選んだのだが、その扉を突破されては仕方ない。今回はちゃんと守ってもらうことを祈ろう。


 ーーーーーーーーーーーーー


「それで私の可愛い妹は、完璧に彼氏君に取られてしまったというわけですな」


 何がですな、だ。すべてあんたの自業自得だ。


「ロロちゃんもいつまでもリリアちゃんに執着しない。そろそろ姉が鬱陶しくなってくる年頃だよ。というか、行き過ぎなのよアンタは……」


「こうしてみんな独り立ちしていくんだね。お姉ちゃん寂しいよ」


 未だに独り立ちしてない人に語られたくない。というか、アックスさん除けば誰も独り立ちしてないというのか事実である。


「もう、いっそのことこの姉だけ海底に沈めてこようか……」


「なんて恐ろしいこというのかしらこの子は」


「それだけのことをしたという自覚はないんか‼︎」


「リリアちゃん、落ち着いて」


「あんたもそれしか能がないんか!ティンクル君に言わせれば収まると思ったら大間違いじゃー‼︎」


「本格的に壊れてるよ。どうしてくれるんですか」


「あたし知ーらない」


「あ、ちょっとアリスさん!」


 そして、姉もいなくなった。

 ティンクル君と二人で残される。


「今の情緒不安定な彼女と残さないでください……」


「彼女の愚痴に付き合うのも彼氏の仕事でしょ。付き合ってもらうよ」


「とりあえず飲み明かすような酒はないけどね」


「そもそも未成年だよ。さすがに見境ないことはしないから」


「うん……そうなることを祈ってる」


「少し散歩しない?」


「二人で?」


「うん。少し頭冷やしたい。もっとも、反省の念を込めて、姉を縛り付けておきたいところだけど、姉は逃げ足にステータス全振りしてるからまず捕まらないし」


「それは危機察知能力が高いとかそんなんじゃ……」


「いーや。だったら、あんなことしない」


「ごもっともです」


 ところで、ここは海岸沿いなわけどけど、特に防波堤があるとかそんなことはない。

 特に守るものもないからだ。砂浜の後ろはすぐ密林地帯になっている。いっそ、こっちが無人島だって言っても通じそうなぐらいだ。

 おかげでこっちまでくるのに草に足を取られて大変だったわけだけど。人が来ないのも、道があまり整備されてないのもあるのかもしれない。

 まあ、シークが隠れて住むのにはちょうどいいのかな。


「リリアちゃん、どこまで行くの?」


「うーん。世界の果てまで?」


「意外に陸続きになってるから可能といえば可能なんだよね」


「まあ、行く必要性は皆無だけど。私は自分の国の中を歩き回ってるだけで十分」


「そっか。ぼくは、もっといろんな世界を見てみたいけどな」


「一人で行くの?」


「頼めばリリアちゃんはついてきてくれるのかな?」


「仕方ないなあ。ティンクル君の頼みとあればついて行ってあげよう」


「ものすごく恩着せがましいね」


「でも、ティンクル君と二人だけで、どこか見たこともない世界に行ってみたいな」


「生きてる間にどれだけ見ていけるんだろう?でも、大半は代わり映えしない毎日を過ごすことになるだろうけど」


「やっぱり、王族の仕事をするの?」


「わからない。多分、ぼくはやる必要はないんだ。末っ子だからね。アリスさんのように年子で子供が少ないって言うのなら本来ならば、やるんだろうけど」


 本来ならば、ですね。はい、そうですね。いつまでうろついているんだろうか、あの姫は。いつまでも姫という肩書きをもらえると思うなよ?

 もうしばらく、腰を落ち着けた場所から離れるように歩いていた。もう、陽は落ちて、月が照らして、星が瞬いてる。


「なんか写真に収めたい。この景色」


「確かに綺麗だよね。島があって、周りを海が囲んで、月が照返って、星が瞬いて」


「あの月が欲しいって言ったら、ティンクル君取ってきてくれる?」


「さすがに、リリアちゃんがそういうことを言う子じゃないって知ってるから無理って答えるよ。そもそも、本物も、ここから見えてるより綺麗なものでもないようだし」


「なんか新しい生物とかいないのかな?」


「そんな嬉々として言われても……そういう報告は聞いてないなあ。どこか、ロケットとか作ってるところってないのかな?」


「まあ、可能性の話で宇宙にもモンスターがいるかもしれないから、空を飛ぶのは止めたらしいね」


「天体望遠鏡なりで分かりそうなものだけどね。小型探査機とか使ってもいいのに」


「よし!次の行き先は宇宙だよ!」


「そもそも移動手段を持ってないよ……」


「あ、その前に海中都市……だっけ?」


「最も考えられるのは、海の中にシェルターでも作ってるっていうぐらいかな。人が海の中に適応したとか言うわけでもないし」


「酸素ないから呼吸できないよね」


「まあ、もしそんなものがあるのなら、そこに住んでる人たちも、そこだけじゃやってけないと思うし、そこへ行く手がかりがあると思うのだけど」


「意外にこんな岩肌にスイッチがあったりして」


「まさか」


 さすがに、手を置いてみたが、その岩が凹むこともない。が、この岩は思ったより大きく、もう少し奥までありそうだったので、沿いながら歩いてみた。


「何かあった?」


「中がなんとなく空洞っぽいような……空気が漏れてるような音が聞こえるし」


「でも、中に入れそうな入り口はないね」


「意外に小突けば開けるかも」


「そんなバカな……」


「せいや!」


 とりあえず正拳付きをかましてみた。お父さんから万が一襲われた場合の対処術として体術を教わっていたのだ。お父さんは勉強がからっきしな代わりに本当に体ばかり鍛えてきた脳筋らしいので、護衛術に長けてるらしい。旅の間はそれ以上に強すぎる人がいたせいでなんの役にも立たなかったらしいけど。

 お父さん、ここで役に立ったよ。少し手が痛いけど。


「おお〜中があったよ。まだ奥もあるみたい」


「リリアちゃん。手大丈夫?」


「存外人間の体というのは脆くとも頑丈に出来ているのですよ。まあ、少し痛いけど」


「まったく。ほら、手を貸して」


「申し訳ないです」


 ティンクル君に回復してもらって、さすがにそのまま奥に進むわけにもいかないので、カルマさんに報告に行くことにした。


「どこに続いてるんだろう?」


「向こうの島か、はたまたカルマさんの言う海中都市があるのかな?」


「とりあえず、明日には向こうに渡っちゃうらしいし、今日のうちに見てもらおう」


「そして、あの中に幽閉しておこうか……」


「怖いこと言ってないで、いい加減許してあげなよ。家族でしょ?」


「せめてもう少しだけでも大きかったらな……」


「まだ15歳なんだから、これからだって」


「うう……このままでも好きでいてくれる?」


「だから、大丈夫だよ。カルマさんの言葉を借りるようだけど、あんまり自分を卑下するものじゃないよ。リリアちゃんは可愛いんだから。もっと自信持って」


「おっぱいなくても」


「どれだけ胸に執着する気なんだ……」


「でも、お姉ちゃんよりはあるもん!」


「はいはい」


「ちゃんと聞いてよー!」


「はいはい」


 ティンクル君になあなあで流されながら、カルマさんのところまでついてしまったので、これ以上はどうでも……よくはないけど、あまり人前で言うことでもないので、報告の方に集中することにした。

 なんとか、大きくならないかな……。

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