探し物を見つけに
またも戻ってきてしまった。
この名もなき孤島は、随分と前に発見されているはずなのだが、名称もつけられず、ほったらかしらしい。
今回はシークが出会い頭に出てくるようなことはなかった。
まあ、以前はお姉ちゃんがいたから出てきたのだろう。いや、今回もいるのだけど、もっとも他の人が大量にいるので、余計なことはしないだけだろう。
もっとも、カルマさんは存在自体は知っているので、命令を下しておけばいいだけの話ではあるんだろうけど。どちらにせよ、余計なことはしない。それでいいのだ。
「で、カルマさん。探すといったところでいきなり海中に潜るわけにもいかないと思うんですけど、どうするんですか?」
「それなんだよな。向こうの島に渡ってみるしかないんだが……」
「次、いつ道ができるか知ってるんですか?」
「以前、ここでこの辺りのことを知ってる人と一緒に働いていてね。といっても、文無しのタダ働きだけど。その時に周期を教えてもらった。今回は明日の明朝ぐらいだろう」
「へぇ。そんなことまで分かるんですか。なんか理屈とかあるんですか?」
「ランダムって言われてたらしいんだけど、ちゃんと法則性があったんだよ。知らない人にとっては、勝手に道ができたりする程度にしか思ってなかっただろうけど」
「ちなみにこの調査はどれぐらいの期間やる予定ですか?」
「今回は手がかりが見つかりしだいかな。早く見つかればそれに越したことはないけど……」
「ないけど?」
「向こうに渡ったとしたら、自力で戻るのは4日後だ。僕らはそれ以降もまだ残る予定だけど、君たちは最短でもそれぐらいいてもらうよ」
「……あの、前にあそこの塔に行ったんですけど、特に何もありませんでしたよ?」
「まあ、俺もかなり前だが、あそこに行っている。確かに何もなかった。ただ、あれだけデカイ海竜がいたんだからな。何かしらあっても不思議ではない」
「……なら、誰か潜って確かめればいいんじゃ……。このあたりなら、何百mと水深があるわけでもなさそうですし」
「海に素潜りできるやつがいると思うのか?」
「それを言ってのけるのも恥ずかしいとは思わないんですか?」
「そもそもの前提で海には浮力というものが働く。それに、地に足をつけてないと、色々危険なこともある。とりあえず、何の装備もなしに、海に突撃することは愚の骨頂ということだ」
「誰か水魔法で水圧に耐えられるだとか、水の中でも呼吸が続けられるとか、そういうコーティングが出来る人とかいないんですか?」
「それが出来るのはおよそ、君のお母さんぐらいだろうねぇ。そもそもの話、水魔法自体、覚える魔法としては優先順位が低い。覚えれば便利なものだけどね」
「仮にも魔法使いの国の人たちですよね」
「基本、魔法ができなくて、体ばっかり鍛えてた連中なんだ。かくゆう俺自身も魔法使いの国出身ではないしな」
「結局、私たちは何をすればいいんですか?」
「ぶっちゃけた話は、邪魔をしなければそれでいい……と言いたいけど、君のお姉さんだな。一番ぶーすか文句を言うのは」
「最初から戦力外扱いありがとうございます」
「本当にやる気があるのは、あそこのアックス君だったかな?あの子だけ俺と同行させよう。君たちは固まってもいいし、各々探しててもいい。なんか発見した場合は報告すること」
「何かお宝だとしたら?」
「うちは分配してるけど、君たちはまた別のパーティだからね。そっちで共有するといい。でも、何があったかぐらいは手掛かりにはなりうるから教えてもらえるかな」
「はあーい」
「あとは今日のところは君たちは自由行動でいいけど、あまり危険なことはしないようにね」
「大丈夫ですよ。そこまで子供じゃありません」
「いや、君じゃなくてね」
「あ、はい分かりました。言っておきます」
誰に対しての発言かはすでにわかったので、それ以上は言わないでもらっておく。ここまで言われてると耳が痛い。前の時はどうだったんだろう。
「勝手に卵を孵して、その生まれたばかりの海竜を乗り回してた」
「鬼か!」
「それでなんで懐いたのかが一番疑問なんだよ」
「なんかそういう特性がついてるらしいです」
「しかし、あの子ももう30だろう。本当に30なのか?下手すればリリちゃん、君の方が……」
「言わないでください!それだと私の方が老けてるみたいに聞こえてイヤなんです!」
「そういうつもりじゃないんだけど、あの子が幼すぎるという話なんだが……」
「どうにも年齢詐欺の人が多いです。どうもありがとうございました」
「時に君のお父さんとお母さんは元気かい?」
「ええ。お父さんが20歳。お母さんが19の時に私を産んで、現在35歳と34歳。お姉ちゃんが30という、勘違いされそうな家族構成ですけど、元気にやってます。お父さんは相変わらずお母さんの尻に敷かれてます。あ、9歳の妹がいるんで、お姉ちゃんが飛び出した時にお父さんではなく、私が捜索に出たんです」
「一緒に出たわけじゃなかったのか」
「ええ。今はとっ捕まえてますけど。アリスさんに見張らせて」
「……あの子は姫じゃなかったか?」
「兄のスターさんに業務全部押し付けて、私の監視役の名目で」
「……どう考えても逆じゃ……」
「その通りですけど何か?」
「……これ以上は言及しないことにするよ。まだ15歳だったっけ?リリアちゃん」
「……ええ。なんで私がこんなに頑張ってるんでしょうか」
「今日は羽伸ばしても大丈夫だよ。俺が統括してるから」
「お願いします……」
なんか色々考えてたら、本当に私が何をしてるんだろうと思ってきた。
はしゃぎ過ぎないように、言っておいてくれと言われたが、2名ほど海へとすでに突撃した後だった。どこに水着なんて持ってたんだ。
私は入らないからいいけどさ。もう、あの人たちが疲れ果てるまで遊んでもらったほうがあとが楽なのかもしれない。
アックスさんは他の隊員の人たちに話を聞いているようだ。本気でなにかをしたいと思ってるんだろう。
私はといえば、すっかり手持ち無沙汰というか、荷物番を任されたのであろう、ポツンと座っているティンクル君の下へと行った。
「ティンクルくん」
「ああ、リリアちゃん。戻ってきてくれたか」
「なんか疲れてる?」
「せめてリリアちゃんが戻ってくるまで待っててくださいって言ったんだけど……あの人たち人の話を聞かなさすぎるよ。よく、言うこと聞かせられるね」
「私には頭が上がらないから。私を蔑ろにすると、あの二人は四方八方から雷食らう羽目になるからね」
「リリアちゃんは海に行かないの?」
「別に泳ぎたいわけじゃないし。水着ないし」
「水着ならあるみたいだけど」
指をさした先に確かに私用だと思われるワンピース型の少しフリルがあしらわれた可愛らしいデザインのものだ。
ビキニじゃなくて逆に良かったのか、私の胸のことを配慮したのかで変わってくるのだが、どちらにせよムカつく。
「いいよ。私は……」
「ええ……」
「そんなに見たいの?」
「そりゃ、彼女のなら見たいよ」
「谷間ができるようなオッパイはないよ」
「いや、別に……」
「別にってなんじゃあ!お前のオッパイになんて期待してないってことかー!」
「最後まで聞いてよ!別に胸でリリアちゃんを見てたわけじゃないんだから!」
「でも、やっぱりいいや。ティンクルくんと遊べないし」
「そう?」
「なんなら、今から着替えるだけ着替えてティンクル君に見せてあげよっか?」
「えええ……お願いします」
「欲望に忠実だな!私の彼氏!そんなんだったのか⁉︎」
「リリアちゃん、言葉遣いが荒れてきてるよ……」
「いや、私こんなもんだよ」
「でも……どこで着替える?」
「お姉ちゃんたちどこで着替えてた?」
「なんかいつ間にか水着になってたから」
あの人たちは別次元で魔法を使ってるような気がする。
お姉ちゃんに至っては学校で使ってたようなスク水なんだけど、30になる人にそんな需要があってたまるかっていいたいけど、似合ってるっていうのが悲しいのやらなんなのやら。
もしかしたら、あれは私が来ていたのかもしれない。
というか、たぶんアリスさんの好みだったんだろう。お姉ちゃんのほうが背が低いから着せたのかもしれない。
「どうしよう……」
「確か、小屋があったから、僕も一緒に行って見張っておくよ」
「ついでに覗く気じゃ……」
「なんか信用なくない?」
「……お父さんのせいかもしれない」
「ちょっと待って。君のお父さんなんなの?」
「お母さんのスカートの手突っ込んだり、お姉ちゃんのスカートの中を普通に覗いたり」
「僕の中の勇者の像がとんでもない勢いで崩れ去っていくんだけど」
「しょせん、勇者といえど男だということです。よくそんなんで、二人ともお父さんのこと好きでいられるよね」
「好きだったから、自分に興味を持たれてるって思えたんじゃないの?」
「そんな興味の持たれ方は微妙に嫌なんだけど」
今日着てる下着どんなのだったっけ?
いやいや、見せる気ないからいいんだけど、万が一のためです。
「いや、そんなに警戒しなくても」
「ティンクル君は大丈夫だとしても他の人がね……」
「まだ遊んでるし大丈夫だよ」
「ちゃんと見張っててよ」
「了解。この命に代えても」
「見るんだったらティンクル君だけだからね」
「え……」
「冗談だよ。本気にしない」
「あんまりからかわないでくれよ。耐性がないんだから」
「それじゃ、ちゃっちゃと行きましょー」
水着と、服を入れるための袋と一応念のためのタオルを持って……なんであるんだろう。
あの人たち最初から遊ぶ気だったな?
それはともかくとして、ティンクル君に見張りを頼んで着替えることにした。




