番外編:お転婆織姫と弱気な彦星
七夕です。
でも、この時期はこの辺りだと大体雨が降ってるので、天の川を見ることは大抵叶いません。
時系列としてどうなんだという話ではありますが、カルマさんの仕事の手伝いをしてその後ぐらいです。
「もうすぐ七夕だね〜」
「旅してる私たちにそんなものが関係あるとでも?」
「いいじゃんいいじゃん。織姫に彦星だよ。一年に一度しか会えないんだよ」
「しかも、それって、彦星が毎日のように織姫に会いに行って仕事しなかったから、怒った神様が、一年に一度だけ会えるようにして、それ以外はちゃんと仕事をさせるっていう話じゃなかった?」
「夢もロマンもあったもんじゃないな〜リリアは。ティンクル君。こんなのがお嫁さんでいいの?『将来の夢はお嫁さんです』って言ってくれるぐらい可愛い子の方がいいんじゃない?」
「誰を捕まえて可愛くないって?」
「痛いいたい。そういうところだよ〜」
「リリアちゃん。ロロさんをそうやってるといじめてるようにしか見えないからやめてあげよう」
「さすが、未来の弟だよ!話が分かるね!」
「暗にバカにされてるのに気づいてないのかこの姉は……」
「しー」
私の手から解放された姉は今度はアックスさんにちょっかいをかけに行った。能天気なものである。
「それにしても梅雨って面倒な天気だね」
「そうだね。今はまだ曇ってる程度だけど、いつまた雨が降ってくるかわからないし」
「でも、それはこの地球だけの話であって、更に上の宇宙には、星の橋、ミルキーウェイが架かってきっと二人は出会ってるんだろうね」
「…………うーん」
「リリアちゃんは、こういう話、あまり好きじゃない?」
「いや、そうじゃないんだけどね。私もロマンがないわけじゃないよ。ただ、光も何万光年って離れてるわけじゃん。だから、今見えてる星も一体いつのもので、天の川もいつ繋がったものなのかなって。一年に一度っていうけど、実はもっと頻繁だったりしてね」
「それだったら面白いね。でも、宇宙とここでは光の速度が変わるだけで、日付に関しては変わらないんじゃないのかな?」
「なんか、なんとかっていう物質があって、速度が速くなればなるほど、逆に時間だけは遅くなっていくっていう理論もあるらしいよ」
「いつのまに天体の話から物理学の話になったんだろうか」
「細かいこと気にしない」
「あ、少し雲が晴れたみたいだよ」
ティンクル君が私の手を引いて、空を指差す。
すっかり暗くなった時間だけど、雲の切れ間からは月の光が差し込んで、辺りを照らしている。
さて、これもいったいいつの光なんだろう。
そして、この間にも彦星と織姫は出会えているのだろうか。
ただ、一年に一度しか会えないというのなら、数日一緒にいるとかそういうのはダメなんだろうか。
神様もケチくさいな。それほどまでに彦星が仕事をサボっていたのが悪いような気もしなくはないけど。
「残念だけど、天の川は見えないね」
「しょうがないよ。星ならもっと晴れた日に見ればいいんだから」
「それもそうだね」
「ねえ、ティンクル君」
「ん?」
「織姫と彦星は一年に一度だけだけど……ティンクル君は私の側にいて、私を守ってくれるんだよね?」
「……うん。もちろんだよ。織姫様」
恭しく、ティンクル君は頭を下げた。
「よろしくお願いします。彦星様」
私も私で、到底似合わないような口調でそう言った。
「あとは、短冊かな」
「何かお願い事あるの?」
「いや、ここに笹はないし、書くものもないから、見えてる月に祈っておこうかな」
「じゃあ、私も」
二人で手を合わせて月へお祈り。
何を考えてお祈りをしているのかはわからない。
少し長めにお祈りして顔を上げる。
「終わった?」
「うん」
「内容は教えてくれる?」
「それは教えない」
「なんでさ」
「願い事っていうのはそういうものなのだよ。誰かに言ったら叶わなくなっちゃう。だから、叶ったらその時に教えてあげるね」
「本当かな」
「叶わなかったら、永遠に知らないままだからね。どちらにせよ、叶ったかどうかは、ティンクル君の手では分からないのだ」
「全く。口ばっかりは上手いんだからな」
「そういうティンクル君は何を願ったの?」
「リリアちゃんが叶わなくなるって言ったじゃないか」
「すでに叶っているとしたらいっても問題ないんじゃない?」
「そういう考え方もあるのか……詭弁のような気もするんだけど」
「まあまあ細かいことは気にしちゃいけないよ」
ティンクル君は頬を掻いて、観念したかのように告げた。
「リリアちゃんにずっと好きでいてもらえるように、だよ」
「えへへ。私も一緒。よかった」
「違ってたらどうするつもりだったの?」
「んー?どうもしないよ。それはティンクル君の願いだから、私が邪魔する権利はない。人に教えたら叶わなくなるって言ったけど、私に言ってくれたら、それはお手伝いするだけだから」
「本当……君には敵わないよ」
「もっと誇ってもらっていいよ」
「ああ。自慢の彼女だ」
「む。なんか、こう堂々と言われると照れますな」
「いつも言われっぱなしじゃあね。さて、そろそろ戻ろう」
「来年は、天の川見れるといいね」
「うん。そうだね」
きっと、来年、再来年、一緒に居続けたらいつか晴れる日があって、空には綺麗な星空が架かって、ちゃんと笹に短冊を吊るして、願い事をする日が来るだろう。
ずっとずっと、再来年と言わず、その先もずっと。
隣に、あなたの隣にいられますように。
私はそう願い事をした。




