調査兵団(3)
2日が経ち、お姉ちゃんも存分に満喫したのか、顔はなんとなくスッキリしていた。
もうこのまま国へ帰りませんかね?
そういうわけにもいかなく、今日はカルマさんの仕事について行くことになっている。2人ほど文句を垂れていたが、来なければ、2人だけ国へ強制送還させると言ったら、おとなしくついてきた。
15の小娘に脅されるってどれだけなんだろう。私はそんなに怖いか。
普段なら、この屋敷から護衛がてら、集合がかけられるらしいけど、今回は私たちにその役目を任せるとのことで、他の人たちは現地集合ということだ。
「カルマさん。そこってどれぐらいかかるんですか?」
正直何も情報をもらってなかったので、私が聞いておくことにする。
「……一週間ぐらい……かな」
「なんで言い淀んだんですか」
「いや、場所を言ったら怒られる気がしてな……まあ、娘ほどに年が離れた子から言われる話でもないか。ちょっと、妻から話を聞いてな。君たち、前に海の方へ行ったそうじゃないか。俺も、そこに行ったことがあってさ。そこに今日から行く予定なんだ」
「もしかして、シークに会ったことあるんですか?」
「俺が見たときはまだ子供だったけどな。まあ、その時すでにロロちゃんを背中に乗せて飛んでいたけど。モンスターってのはすごいもんだ」
確かに、もう一度行ったところに戻るってお姉ちゃんたちに伝えたら今度こそ憤慨しそうな気がする。
でも、シークにまた会えるとも考えれば嬉しくないわけはないのだけど、時間があまり空いてないから感慨深さがないのも確かだ。
どこに向かうとも言ってないので、カルマさんが先導して歩いてくれている。色々聞きたいことがあったから、私はカルマさんの横で歩いているのだ。
4名ほどはただ、それに付いて歩いているだけである。
「じゃあ、カルマさんが言うとうだうだ言う人たちがいるんで、私から言っておきますね」
「すまないね」
聞こえていたかもしれないが、もう一度、私はみんなに今回の行き先を告げることにした。
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今度は先頭から一転して最後尾を歩いていた。
ふてくされている姉をなだめるためである。
何度も言うがこの人はもう30歳である。こうして見てると子供でしかないのだけど。お姉ちゃんはどうしたら大人として見てもらえるんだろうか。性格も子供っぽいから余計にそう見られるし、本人も別にそう見られることに特に文句を言ったりもしないし。だからと言って、子供割引で何でもかんでも済まそうとするのは間違ってると思います。
「さっきからリリアはなんなの⁉︎お姉ちゃんをバカにしてるの⁉︎」
「もう見た目に関してはとやかく言わないから、年相応の落ち着きぐらいは持って欲しいって言ってるの。どうせ、今なんて目的なき旅なんだから寄り道したぐらいで誰も文句言わないでしょ」
「その寄り道する場所が問題なんだよ。もういっそのことアックス君だけ置いていってもいいでしょ」
「そんなこと言う人はお母さんのところへ強制送還させるぞー」
「もう、ソードのところじゃなくてウィナのところって言うのが脅しだよね……」
お父さんだったら、甘過ぎするので、すぐに開放してしまう未来が見えているからだ。本来ならば、お姉ちゃんも結婚していて欲しい年齢なんだけど、相手がいないことにはどうしようもない。
「お姉ちゃん、何度も言うけど結婚する気はないの?」
「何度も言うけど、リリアが一緒にいてくれればお姉ちゃんは何もいらないよ」
「そうは言うけどさ。まだうちには妹がいること忘れてない?」
「我が妹はリリアとエリーだよ。まだこんなもんだけど」
自分の腰より少し上辺りで腕を止めてもう一人の妹の背を表す。
いや、姉よ。多分初等部をあの子が卒業する頃にはあなた抜かれてる気がします。
「本来は私たちが面倒見てあげなきゃいけないのに、こんなところであまりほっつき歩いてるわけにもいかないし、30過ぎて親に迷惑かけるなっていうこと」
「私は私なりに独立しようとした結果なんだよ」
「城の建設が?」
「そう」
「資金も人手もないのにかつてあった魔王城を建てようとしてるのは愚策だと思うんだけど」
「だからこうして資金と人手をかき集めようと旅に出たわけだよ」
「せめて、みんなに伝えてから出て行ってよ。心配するから。しかも、結局何も集まってないし」
「……全部リリアが妨害したからではないでしょうか?」
「お姉ちゃんが出来っこないことをしようとするから止めてきてくれって私は言われてるの‼︎」
「だ、誰から……」
「お父さんにお母さんに、王様から」
「うわぁ……私信用なさすぎ。生徒会長までやったというのに」
「何年前の話よ……とにかく。お姉ちゃんはいきなり思いつきでデカイ理想を立てすぎ。もっと現実的なものにしてよ」
「……現実的なもの……」
顎に手を当てて考え始めた。
まあ、なんにせよ、考え直してくれるのならそれほどいいことはない。
いくらなんでも、どれぐらいの大きさかは分からないとはいえ、かなりの大きさだっただろう。
お姉ちゃん一人で全ての負担がかかって、全部自分て責任を負っていけるのなら、責任を負って、誰も悲しむ人がいないのならばそれでもいい。
お姉ちゃんに何かあったら、たとえ、誰にも知られてないような小さな人だけど、確かに心配して身を案じる人はいる。
一人で何でもかんでも出来るなんて思い上がるのは勘違いも甚だしい。
「ねぇ、お姉ちゃん。もうさ、モンスターだって、残り少ないんだよ。人はほっといてもまだまだ増えるかもしれないけど、モンスターはこれ以上に増えることはない。わざわざ私たちが干渉するんじゃなくて、そっとしておいてあげるのも……優しさなんじゃないかな」
本当は、モンスターがいなくなれば、お姉ちゃんが躍起になる必要もない。そう言うつもりだった。だけど、それを口にすることは間違っていると感じた。でも、それを理想としたお父さんは魔王を討伐したという名目でその活動に終止符を打った。同じくその理想を掲げていた魔王も倒されてしまった。
出来っこない理想なのだ。どちらが歩み寄るにせよ、どちらかが結局、家畜同然の扱いとなるのは目に見えている。それなら、お互いに非干渉のままで平行線をたどっているのが、お互いにとっていいことなのではないだろうか。
「よし」
「なんか思いついたの?」
「リリアと小さい拠点を立てる」
「誰がやるか!」
「リリア、お姉ちゃんと結婚してください!」
「彼氏が私にはいるのー!」
「じゃあ、ティンクル君。私にリリアを譲ってください」
「先に本人が断ってるのにそれもどうなんですか?もちろん、お断りしますけど」
「丁寧に断られた!私はどうすればいいの⁉︎」
「同級生とかにいなかったの?そう言う対象になりそうな人は」
「なんか犯罪臭がしたし、ソードがあんなんだし」
うちの父親もいい加減にしたらと思う。でも、かといって許す相手も王様ぐらいだったと思うけど。それレベルでお父さんから信頼されている人はすでにいないだろう。ちなみに一番信頼度が低いのが前国王。何をしたら国王に対してそこまでになるのだろうか。
「じゃあ、ユウキ君にでももらってもらうよ……」
「あと10何年以上先だし、その時お姉ちゃんは40超えだよ。さすがに無理があるし、お姉ちゃんはそれでいいの?」
「じゃあもう独身貴族でいいよ。ウィナの実家で細々と働いていく」
「何がお姉ちゃんをここまでダメにしたのか……」
甘やかしたのもあるけど、なんなら本来ならばどこかに就職していても良かったのだ。王様という最大のコネがある以上普通ならば食いっぱぐれることはない。
普通ならば。
まあ、ここにいるから少し強調して言ってるのである。お母さんの実家で働くというのならば、それはそれで全然構わないのだが、卒業以後それをする気配が全くなかったからお母さんがなんて言うか、とまあお母さんに小言を言われるだけで済むのなら安い話ではある。
「でも、お母さんの店で働くなら、きっとちゃんと正社員としてしか雇ってくれないと思う」
「えー。ソードは店番してるだけとか言ってたよ」
「それはお父さんが私ぐらいの時の話でしょうが。お姉ちゃんいくつのつもりよ。その年ならちゃんとした知識を持って働いてよ」
「やっぱりニートでいいや」
「私が許さないからね」
「八方塞りになってしまった。助けておくれよ彼氏君」
「全面的にロロさんが悪いと思ったのは僕だけなんでしょうか?」
「いや、全員思ってるからこれ以上傷つけなくてもいいよ」
「なんだよー!私離脱するぞー!」
「それも許しません」
「アリスー」
とうとうアリスさんに泣きつくことになった。
この人もニート姫なので、どうしようもないという話なんだけど。
結婚云々より、まずこの人は働く先を見つけないと。
まだまだ長いあの海岸までの道のりで、またも姉の心配をしていた。




