調査兵団
「アックスが……でも、あいつが何かやりたいことを見つけられないなら、それも一つの選択肢じゃないのかな」
「そういえば、アックスさんといつから知り合いなの?」
「……いつだろう?気づいたらちょくちょく遊びに来てたよ。いつからとかはよく覚えてないや」
「やっぱり、アックスさんのお父さんとかがティンクル君のお父さんの側近だとか?」
「ああ、その通りだよ。なんだかんだあいつもいいところ……一応、直属ではないけど、勇者の家系なんだ」
「うん。それをさっき話してたんだ。どうにも自分の親のことが嫌らしいんだけど」
「まあ、でも勇者そのものっていうよりは、自分の父親が嫌いなんだ」
「ティンクル君は……自分の親、尊敬できる?」
「……どうだろうね。僕も逃げてきた身だ。立派だとは思うけど、それを尊敬できるかって言われると僕もアックスと変わらないのかもね」
「お父さんもお母さんも尊敬できるし、大好きなんだけど……それは、珍しいことなのかな」
「いいことだよ。本当はそれが理想なんだ。でも、全てが理想通りになんていかないんだ。僕だって、上に兄弟がいなかったら、とか、もっと普通の家に生まれてたら、とか考えたこともある。でも、それは絶対に覆せないことだ。自分を受け入れるしかないよ」
「ティンクル君。お姉さんと離れてるって言ったけど、お兄さんたちとはどれぐらい離れてるの?」
「上二人は年子でさ。7と6離れてる。もう小さい頃から悟ってたよ。僕が兄たちに敵うはずがないんだって。歳も離れてたから、いつも遊び相手はアックスだった。それでも上だけどさ。兄たちと相手してるより、ずっと気楽にいられた。腐れ縁かと思ったけど、割と心の拠り所なのかもね」
「ったく、普通の顔で、気持ち悪いこと言ってんな」
本の表紙で不意に現れた、アックスさんがティンクル君の頭を叩いていた。
「いってえな。普通に来いよ」
「そうするつもりだったが、お前があまりにもキモいこと言うから手が出ちまった」
「何が悪いんだよ」
「お前の心の拠り所なん、もう目の前にいるだろ。確か、上の人たちは全員結婚してんだっけか?あんなやつらなんかより、リリアちゃんのほうがずっといい子で、ずっと可愛いぜ。お前が羨ましい限りだ。俺なんかほっといてもいいぐらいだ」
「いい訳ないだろ。お前にどんだけ世話になってきたんだよ。居場所なんてどこにもなかった僕に作ってくれたじゃないか。そんなやつを彼女ができたからって、見捨てるわけないだろ」
「……ったく、いつまでも俺に構ってるとリリアちゃんも愛想尽かすぞ。とりあえず、俺は先に戻ってら。地図は置いとく。何心配すんな。道ぐらい覚えてる。リリアちゃん。こいつ、道に迷いやすいから、手を引いてってやれよ」
「あ、あの……」
私の声にも手を挙げることなく、ポケットに手を突っ込んで、そのまま姿を消した。
「まったく。バカにしてるのか?僕だって、道ぐらいすぐ覚えるっての」
「たぶん、そういうことじゃないと思うよ」
「じゃあどういうこと?」
「自分でわからない人には教えてあげない」
「ひどい彼女だ」
「彼女がいつでも彼氏に優しいとは限りません」
そして、あの言葉はティンクル君ではなく、自分自身に言っていたことなのだろう。
アックスさんは今、道に迷い続けているのだ。必死にもがいてる最中なのだ。もがいても、人は結果しか見ない。過程は見てる人しか見ない。
アックスさんはそれを認めてくれる人がいるんだろうか。もしくは、今から頼みに行くと言っていたカルマさんに認められるまで頑張るのだろうか。
「ねえ、ティンクル君」
「ん?」
「手伝ってみない?」
「何をさ」
「アックスさんのこと」
「手伝うって……何を?」
「まあ、それはおいおい決めていくってことで」
「また君は……あいつが何をしたいのかわからないだろ?」
「それも含めて……だよ。アックスさんが何をしたいのか見つけるまで、手伝ってあげるんだよ」
「…………」
「気が進まない?」
「いや、どうして君がそこまで頑張る必要があるのかなって」
「だから、別に人のためじゃないよ。私と……私の好きな人のため。それに、ティンクル君だって友達のために頑張ってみるのも悪くないでしょ?自分のため自分のためって、切り詰めてちゃそんなの疲れちゃうよ」
「そうだね。正直、僕もあいつのことあまりわかってないのかもしれない。付き合いは長いけど、それは表面しか見てないのかもしれないしね。僕も友人のために一肌脱いでやろう」
「よーし。頑張るぞー!」
「おー!」
少し声が大きくなってしまったために、他の利用者に目線をぶつけられていた。
恥ずかしくなって、2人でそそくさと図書館を後にした。




