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百合の勇者  作者: otsk
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没落した勇者(4)

 元々勇者と呼ばれる人よりは魔法使いの人たちが先に生まれてたらしい。

 それもそのはずで、モンスターと交流を図った人が、魔法を教わったからである。これが、魔法の始まりの起源だ。魔法についての本ではないので、魔法のことはこの辺りで終わっている。

 そして、いかにして勇者が生まれたわけか。

 どんな国でも、そこを治める人がいるように、急に現れたモンスターたちにもそれを統率するリーダーがいた。

 それが、いわゆる魔王と呼ばれていたモンスターだ。

 何分昔の話なので、お姉ちゃんみたいにほぼ人間に近い個体だったのか、人々が畏怖を抱くような容貌だったのかは分からない。

 一モンスターは人と会話することは叶わなかった。もしかしたら喋っていたのかもしれないが、それはおそらく人間が理解できるような言語ではなかったのだろう。

 それでも、急に現れたものというのは、恐怖心を抱く者もいれば、好奇心を抱く者もいる。

 きっと、最初に魔法を教わったその人はとても好奇心の強い人だったのだろう。

 その人の子供が後に魔法使いの祖となる。まあ、その人がモンスターとの間に子供を作ったのだ。

 そこからなんだろう。人の中に魔力と呼ばれる器官が生成されたのは。

 教わった人自身は無論そんなものはなかったので理論だけは分かっていたが、使いようはなかったようだが。

 なぜ、こんな話をしているかというと、やはり、異端だと戒められたらしいのだ。相手を殺せと。そうすれば、お前のやったことは水に流そうと。

 ここまでくれば、多少は予測できる。

 愛し合った二人は引き裂かれた。

 後に勇者と呼ばれたそのモンスターに歩み寄った男の手によって。

 そのモンスターこそが魔王だったのだ。

 だが、またすぐに魔王と呼ばれるものは誕生した。まるで、前の魔王のことがなかったかのように。

 勇者は心を無にし、次々と出てくる魔王に立ち向かい、倒し英雄として崇められた。

 だが、彼の罪はそれで贖罪できたわけでもなかった。初代魔王との間にできた子供が覚醒し、魔法を自在に操るようになった。魔女の起源だ。そりゃ、魔王と勇者の子供だ。そうなることも予測はしえただろう。だが、力が予想以上で、制御しえるものでもなかった。無差別に攻撃し、自分の力に絶望したその魔法使いは人目につかないところへと去った。

 やがて、勇者は力が衰え、第一線で戦うことはできなくなっていた。だが、後進を育成しようにも自分の子供、ましてや娘にそんなことを強要できず、行方知れずとなっていて連絡をとる手段もない。

 勇者は、魔王を倒した後に普通の人と結婚して子供も授かっていた。その子を勇者として育て上げようと、そう思っていた。

 そして、子供は成長し、そこから分岐するように勇者の血を受け継いだ家系が増えていった。ただ、生まれて勇者となり果敢に挑んだものが若くして亡くなってる例も少なくない。

 何をそうさせるのかわからないが、大体勇者が子供を育てていたのは大抵二人程度だ。本当ならば鼠算で増えていくのだろうけど、そもそも勇者が勇者としている期間が長いために勇者とならなかったものもいたりで、名前だけで特に記載のない人も数多くいる。

 直属となると少し期間が空く。そのために、近隣の分家で勇者の血が流れているものが勇者となる機会もあった。

 それが、アックスさんの家の家系だったらしい。

 ちょうど過渡期ではあったのだ。お姉ちゃんの本当のお父さん。最後の魔王が、何とか人間と共存を図れないかとしていて、モンスターの数を減らしていき、尽力していたからだという。

 たとえ襲われたとしても滅法に強かったので、倒されることはなかった。

 まあ、要するにウチの国からおじいちゃんの後釜として排出された勇者も負けてしまったということだ。

 私の国ではその人は消息不明ということになっていた。

 薄情なものだが、調査隊を送り込んで同じ目に合うわけにもいかないし、連絡は定期で送るものだったから、期間が空き、連絡も途絶えたらそう判断せざるを得なかったのだ 。


「これは結局、ブレイバー姓が直属ってことですか?」


「最初は違うみたいだね。勇者って名乗るから、それに準じた姓をつくったとかそんな感じかもよ」


「……ああ、そうか。最初はウィザードか」


 最初の魔法使いの姓がウィザードってお母さんから聞いた。お母さんは魔女の血族で、こちらのほうは少し変遷を重ねているようだけど。お父さんと結婚する前はウィルザートだったかな。

 まあ、魔女の血はまだ受け継がれるわけだけど、もう、名前で分かるものはお母さんはお父さんと結婚することで途絶えてさせてしまった。

 お母さんには他に兄弟もいないし、おじいちゃんにもその兄弟がいるのかは定かではない。

 まあ、でも後悔なんてものはないだろう。お父さんもお母さんもお互い好きな人と結婚できたのだから。

 私の目からはよく分からないけど、結構バカップルらしい。

 よく知る人はお父さんは結婚……2度目の旅に出る前まで貯蓄が尽きたとかでお母さんの実家に居候してたらしいし。

 よくそこで間違いが起きなかったなと感心せざるを得ないのか、お父さんが意気地無しなのか。

 まあ、その辺りはいいや。段々話が脱線してきている。


「とりあえず、おじいちゃんとお父さんの間の勇者。つまり、アックスさんのお父さんは生きていると」


「まあ、そうなるね。何も成し得ずに敗走してきた、勇者の面汚しだ」


「そういう言い方はよくないですよ」


「馬鹿みたいなんだ。負けて逃げてきただけのくせに、武勇伝のように語りやがって。それでも、仮にも勇者の血が流れてるだけあった。周りよりは辛うじて強かったからね。だけど、子供ながらそれが、恥ずかしく思えてさ。こんなこと考えてる時点で俺自身もガキなんだろうけど、せめて、何かを成し得て親父の鼻を明かしたいんだ」


「でも……現状、魔王はいませんし、勇者としての役割はおよそ果たせませんよ?」


「勇者としてじゃなくていいさ。何か新しい発見ができれば。それこそ、リリアちゃんのお姉さんの言うように、モンスターとの共存の足がかりでもいい。なんの手土産もなく戻るのだけは辞めておきたい」


「あの……お母さんはどんな人なんですか?」


「ん?ああ、別に普通の人だよ。普通にどこにでもいる平凡な人だ。特に旅に出たとか、なんかの血族だとかそんなことはないよ」


「そうですか」


 勇者の末裔ということは、やっぱりそれなりの力を期待されて生まれてくるのだろうか。

 私は、戦うことは強制されなかった。

 魔法を多く扱うことを強要されなかった。

 でも、私はその両方を選んだ。

 私が教えを請えば、手解きはしてくれた。

 それが何に繋がるかもわからないまま。

 魔法は最近は日常生活にも多用に応用できるようになっているので、覚えている数が多いに越したことはない。

 でも、私が教わった剣は?

 これはただの護衛術だ。昔ならモンスターの太刀打ちだとかあったかもしれないけど、もう、人が中心となっては余り意味をなすものではない。

 やはり、勇者というのすでに過去の遺物なんだろう。

 私のも名目上だけのものだ。別に勇者という枠組みに興味はないし、今日日、勇者になろうなんて意気込んでいる人もいないだろう。

 じゃあ、私が勇者の名を受け取ったのはなんでだろう。

 どこかにお父さんがやってたことで憧れがあったのかもしれない。それに、いつまた、モンスターが再来するかもわからない。


「アックスさん。勇者だって、魔王を倒すことだけが全てじゃないと思います。私は、確かに勇者として旅に出ました。でも、これはいわゆる役職みたいなもので、この称号自体に意味を持たないんです。認められるのはアックスさんが言った通り、何かしらの実績を残すことだと思います。でも、もしアックスさんのお父さんがいなかったら、世界は魔王に支配されてたかもしれません。たとえ、負けてきたのだとしても、魔王がこの世界を支配する抑止力になってたとしたら。それだけで、勇者がいた意味は成せると思うんです。だから……私が言うことじゃないし、無理なことかもしれないけど、自分の親を誇ってください」


 少し説教臭くなってしまっただろうか。私が言える立場でもないことは分かってる。

 でも、自分の親がどうしようもない人だと子供が思ってしまったら、それは寂しいことだと思う。

 ふと、私の頭に手が置かれた。そのまま撫でるように手を動かす。


「リリアちゃんは、いい親に恵まれたんだね。でも、一度持ってしまった意識はなかなか拭えないんだよ。だから、うちは結局、名前も知られるようなことはない、格落ちの勇者だ。それは変わらない。でも、魔王がいなかろうとやることはいくらでもある。リリアちゃんのお父さんだって勇者としての役目が終わってからも生きていくために働いているだろう?」


「ええ。まあ……」


「役割を全うしたところで、生きている限りは何かしら、社会に貢献していかなければならない。それが、人として生まれたものの義務だと俺は思う。そうだな。俺も、ミーナさんの旦那さんのお手伝いでもしてみようかな」


「カルマさん……でしたっけ?直接見てはいないですけど」


「俺も見ちゃいないけどな……。さて、そろそろリリアちゃんを解放しないとな」


「え?まだ時間は大丈夫ですよ?」


「向こうじゃなくて、あいつにな」


「あ……」


 話に夢中になっていて、ティンクル君を放置してしまっていた。

 別に、知ってる人だからティンクル君も問題はないだろうけど、やっぱり嫉妬したりするんだろうか。

 ティンクル君がアリスさんに捕まってても特に文句は私は言わないけど。取られる心配がないことが分かってるからかな。あの人、逆に私を攫いそうだし。それはそれで大問題だ。抑止力はあるからなんとかなるだろうけど。それはそれで心配なことは多い。


「さ、早く行ってやれ」


「は、はい」


 ちょっと押し付けがましいかと思うけど、それに負けないぐらいにティンクル君とお喋りすればいい。ティンクル君は奥手だし、口下手だから中々話を続けることは難しいところはあるけど、ちゃんと聞いててくれる。

 とりあえず、次は何をしよう?

 それを考えて、ティンクルが座る場所へと向かった。



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