正しい選択
生まれて初めて、異性で人を好きになった。
いや、これまでも、”友達”としてなら、そういう対象もいたかもしれない。
でも、一緒にいるだけで、心が苦しくなって、でも、それでいて離れたくないって、そう思うのはきっと恋をしたんだ。
だから、告白をした。
相手は、ある一国の王子様。
本当ならば、相手もいたのかもしれない。
でも、そんなことは度外視して、私が一番近くにいるんだから、顔も分からないような人じゃなくて、私を見て欲しくて。
「リリアちゃん」
その人は、私に声をかけた。
私は告白してからというものの、俯いていた。
答えはyesかnoか。
本当ならば、私は我慢をするべきだったのだ。でも、気持ちを押さえつけたまま、隠したまま一緒に旅を続けるなんてことは、そんな器用な真似は出来そうになかった。
だから、ここで終わるとしても、伝えたかった。
「……君は、これからもっと魅力的な人に会うかもしれない。そもそも、僕は王子とはいえ、その身分に相応したものにはなってないし、何より、僕にとって君は眩しすぎた。だから、僕のことは君にとって眼中にもないんだってそう思ってた。近くにいてはくれるけど、それは仲間とか、友達とか、きっとそういうものなんだろうって。僕自身はきっと、一目惚れだったんだ。だから、あの時、君に肩を貸して、仲間にして欲しいって頼んだんだ。一緒に居られるだけでよかった。でも、それ以上を望むのはムシが良すぎるって。だから、半ば諦めてたんだ。それでも、リリアちゃんが僕を選んでくれるって、そう言ってくれるなら……王子とか、そんな身分はどうでもいい。僕もリリアちゃんが好きです。僕と結婚してください」
「はえ?」
あれ?今、結婚って言った?
いやいやいやいや。聞き間違いだよね?だって、私はまだ今年16才の人生経験もまだまだ未熟な小娘で……だから、一歩ずつって思って……。
「ごめんなさい!」
求婚を断っていた。
いや、これ何に対しての謝罪なんだろう。自分でもよくわからなくなってきた。
え?これは受け入れていいものなの?いやいや、まだ問題だらけだろう。
「そ……そうだよ……ね。僕が旦那さんじゃ頼りないよね。迷惑だったよね……。ごめん、今の忘れて」
「ちょっ、ちょっと待って!ティンクル君!話が性急すぎる!気持ちは嬉しい……嬉しいんだよ⁉︎でも、あの……そこまで行くのにもプロセスが必要というか……なんというかですね……」
本当、なんて言えばいいんだろう。
言葉は難しい。喋ってることが思ってることのどれだけを吐き出せているのだろう。
もっと、色々伝えたいのに、それは頭の中でぐるぐるして、いまいちまとまらない。えっと、私はティンクル君が好きで、恋をして、だから告白して……普通、告白してOKもらったら、どうするんだっけ?いや、結婚ではなく。
「そ、そう!ティンクル君、私と付き合ってください!」
「え?そういう話じゃなかったの?」
「え?」
「え?」
どうやら、何やら双方で齟齬があった様子。とりあえず、ティンクル君から話を聞くことにした。
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「えっと、ということは、ティンクル君の結婚してくださいは、結婚を前提に付き合って欲しいってそういうこと?」
「う、うん……。なんか、面と向かって言われると恥ずかしいね」
「なんか、告白したムードが一気に吹っ飛んじゃったんだけど」
「なんかゴメン」
「そか……結婚……か」
そういえば、元々この旅の目的は、アリスさんの結婚相手を探す旅も含まれていた。
それなのに、私の方が先に見つけてしまったようだ。
まだ、結婚できるって決まったわけじゃないけど。
「あの……至らないところがたくさんありますけど、よろしくお願いします」
「はは。リリアちゃんでそれだったら、僕なんかもっと沢山だ。でも、それを二人でできることに変えていこう」
「……ねえ、ティンクル君。今、こう聞くのもなんだけど、私のどこが好きになったの?そんな一目惚れされるような容姿でもないと思うんだけど……」
「なんだろうね……最初は1人の女の子が座ってるな、ぐらいのことだったんだ。そしたら、すぐ寝始めちゃって、危なっかしい子だなって、周りに誰もいなかったから、どうにもそのまま素通り出来なくて。きっと、そんな無防備なところに惹かれて、僕が僕なりに守ってあげたいって思ったんだ」
「……ティンクル君って寝顔フェチ?」
「なんかすごい解釈されてしまったみたいだ。……リリアちゃんだったからだと思うよ。アリスさんならこうはならなかったかもしれない」
「なったかもしれないと」
「揚げ足取らないで。僕が好きなのはリリアちゃんなんだから」
「……ありがと」
「こう、素直に返されると、それはそれで反応に困るな……」
どうすればいいんだろう。
恋人同士になった。
かといって、今の私たちにこれ以上の進展なんて見られないだろう。
普段通りにすればいいんだろうけど、意識してしまって、普段通りがどうだったかなんてすでに分からない。
きっと、お互い好きだったくせに、お互い、それを隠して、抑えながら、一緒にいたんだ。
「ねえ、ティンクル君は私の前からいなくならないよね」
「ああ。そうだな……王族なんて蹴っ飛ばして、リリアちゃんと一緒にどこか静かなところで暮らすのもいいかもね。そうすれば、無駄なしがらみに囚われることもない」
「……そっか、ティンクル君、王子なんだもんね。本来、私とは出逢おうにも、出会うことはなかったんだ」
「でも、こうして会えて、恋人になれたんだ。僕は、相手がリリアちゃんでよかったって思ってる」
「ティンクル君にも許婚みたいなのはいたんじゃないの?」
「……どうだろうね。本来は、18からそういった話をされる。それが法律上の結婚できる年だからね。親の方は相手を見定めていたかもしれない。でも、親が選んだ人なんかじゃなくて、自分が選んで、自分が好きになった人じゃないときっと後悔すると思う。ま、その前に見つけられたから。……もしかしたら、勘当されるかもしれないけど」
「そうなったら、私が養ってあげるからさ」
「女の子に養われるって、どれだけ情けない男なんだよ。……まあ、それでも就職先の斡旋ぐらいしてもらえると」
「情けない旦那さんだなぁ」
「もっと、リリアちゃんが胸を張れるように頑張るよ」
「張る胸はないけどね……」
「…………」
「何か言ってよ!」
「僕にどう答えろと⁉︎」
まあ、確かにかける言葉はないと思う。いや、お姉ちゃんもないし、問題ない。あれはただ単にロリなだけだけど。
私は……こう、なんか年相応に成長してくれない。
「別に、僕は胸を見てリリアちゃんを選んだんじゃないんだから、そんなこと気にしなくていいよ」
「ティンクル君も私とあまり背が変わらないくらいだしね〜」
「ま、まだ伸びるかもしれないだろ⁉︎」
「私のだって、まだ増量するかもしれないでしょ⁉︎」
なんか傷の抉りあいをしていて二人とも悲しくなった。
いや、ティンクル君は背が私とあまり変わらないと言ったが、私が女子にしてはそれなりに高い方で162cmだったかな。たぶん、ティンクル君は165そこらだと思う。私よりは高い。
正直、隣に立ってると誤差の範囲ぐらいな気もするけど。
「(そこの二人……痴話喧嘩はもういいか?)」
「シ、シーク……」
「いつから……」
「(そろそろ時間だと思って来たのだが、お邪魔だったようだな。もう1日そうしてるといい)」
「いやいや!もう帰る!てか、もういい加減帰らないと!」
「(お前の姉は二人でいていいと言っていたぞ)」
「お姉ちゃん逃げる気だから!そんなの!私が見てないと!」
「(きっとロロは、姉の自分を追いかけているより、妹自身の幸せを願っているんだろう。そして、魔王城再建というのは……)」
「なに?」
「(いや、それは直接聞くべきだろう。俺がとやかくいうことではない。さて、背中に乗れ。ここであったことは全て黙っててやる)」
「全部聞いてたんじゃない!」
「(だから黙っててやると言ったんだ。もう一人の女がうるさいのだろう?)」
「バレたらバレたでその時だけど……アリスさんは分かってるだろうけどうるさそう」
そして、嫉妬する相手を間違えるだろう。いい加減私離れをするためにもちょうどよかったのかもしれない。
今度こそはちゃんと大義名分もできたことだし。
「ほら、行こ。ティンクル君」
「うん」
私は先にシークの背中に乗り、ティンクル君の手を取って引っ張り上げた。
そして、そのまま手をつないで、無人島から離れた。
そういえば、謎も何も解明しなかったけど……ま、いいか。また、お姉ちゃんかアリスさんに聞くとしよう。




