日が沈む頃に
目覚めた。
どれぐらい寝ていたのだろう。
ただ、窓の外から見える明かりから、まだ日が昇って間もないぐらいだろうか。
そして、顔を上に向けるとティンクル君の寝顔が見えた。
それに驚いて、飛び起きる。
でも、それでもティンクル君が目覚める様子はなかった。
……本当に私はどれぐらい寝ていたんだろう。
あんだけ派手に体を動かして、倒れて、たかだか数時間寝ていただけとは到底思えない。丸一日は寝ていたのかもしれない。
そういえば、シークの姿も見当たらない。どこに行ったのだろうか。次の夕暮れには帰ると言ったのに。
シークも疲れ切ったのだろうか。きっと、海に戻ったと考えるべきだろう。
なら、あとはティンクル君が起きるのを待とう。
……でも、流石にこんな座ってる状態で放置していくわけにもいかない。
思えば、出会った時からいつも体をティンクル君に預けてばっかりだ。
だから、今日ぐらいは私が貸してあげよう。
うーん。でも、どうやったらこの体勢からうまいこと寝かせられるだろうか。正座で座って、首だけ下に向けてる状態だ。
下手に動かしたら、床にぶつけかねない。それに、ティンクル君だって男の子だ。線が細いとはいえ、私とは体重だって差もあるだろう。私の細腕で抱えられるだろうか。
まあ、テコの原理で動かしてもいいか。
私はティンクル君の頭を太ももに乗せ、膝を伸ばさせた。幸い起きることなく、そのまま寝ている。
そう考えると長いこと私の側にいたのかもしれない。
なんか、私、変な寝言言ってなかったかな。今更になって、ずっと寝顔見られてたのが恥ずかしくなってきた。
きっと、今は顔が赤くなっていることだろう。誰も見てなくてよかった。からかわれるだろうし。
ふと、視線を落としてティンクル君の顔を見る。
まつげ長いし、目だってぱっちりしてる。ホリが深いわけではなく、むしろあっさりしているし、肌もすごく綺麗だ。
……なんで、男の子なんだろう。確認したわけではないけど。かといって、今確認するわけでもないけど。
いや、触れば一発だろうって、乙女にそんなことさせないでよ。
でも、凛々しいとかかっこいいとかでなく、やっぱり失礼だけど、可愛いというか、でも……あの時は、やっぱりカッコよかったな。
そういえば、体が軽い。ティンクル君が魔法を使ってくれてたし、その影響もあるだろう。基本魔法を習得してるといっても、回復だけはどうにも向かないようだ。それでも平均的にはできるけど。
でも、回復魔法はあくまで傷の回復で、疲労とかは普通に蓄積されていくはず。寝たぐらいで到底回復できるわけもないと思ったけど……。どうやったんだろう。
それより、ティンクル君寝心地いいかな?私、肉付きあまりよくないし。胸同様。もしかしたら、私の方が下手すると男の子に見られかねない。……由々しき事態だ。
だからといって、今増量することは不可能だけど。やっぱり悔しい。
でも、今は少しでも長く、こうしていよう。しばらくは来ない機会だろうし。
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そして、また日が沈みかける頃、私たちは塔の外に出ていた。
よく考えたら、どれだけの期間ここに滞在していたのだろう。お姉ちゃんたち心配してるだろうな。シークが伝えててくれればいいけど。
あとは……
「ティンクル君。ここであったことはシーだよ」
「え?シークと戦ったことぐらいいいじゃないか」
「その後ー!」
「あ……ああ。それは……もちろん」
バツが悪いのか頬を掻いていた。
どっちもどっちだけど、お互いに寝こけていたことが何となく申し訳なくて……それでいて、何もしなかったことが少しもどかしくて。
「とりあえず、海辺の方に行こうか」
「そうだね」
私は、ティンクル君の半歩後ろを歩いた。
本当は隣に立ちたいくせに、そんな勇気もなくて、恥ずかしくて、後ろから手を伸ばしてはそれを引っ込める、その繰り返し。
結局、前の手に一度も掴めないまま海辺までたどり着いた。
ティンクル君からかけられる言葉も上ごとのように返事して。
「リリアちゃん?」
「ん?」
「大丈夫?体調良くない?」
空返事だった私を心配してくれていた。やっぱり、優しいや。
ずっと浮ついたままで、このままお姉ちゃんたちの元に戻っても、ずっと私はティンクル君を前にしたら、こうして意識して……それで、私はいいの?気持ちを隠したまま、満足できるの?こんなに近くにいるのに。
きっと、チャンスはここを逃したらしばらく来ない。あの時に言った言葉はティンクル君には届いてないだろう。本当に好きなら、怖がってちゃダメだ。
勇気を出して。
勇者の名に恥じないように。こんなところで臆病になってちゃ、お父さんに笑われちゃうよ。
……いや、お父さんだときっと怒り狂うだろうな。なんか、思い浮かんで笑いが込み上がってきた。
そして、少しお腹を抱えてしまったのが悪かったのか、ティンクル君が本気で心配していた。
「ちょ、ちょっと!本当に大丈夫⁉︎」
「ご、ごめん。ちょっと考え事してたら笑えてきちゃって」
「それはそれで心配なんだけど」
笑って涙が出て、それを拭ったら、緊張なんてどこかへ行ってしまった。
シチュエーションとしては、海辺の夕日が沈みかけてるこの上ないロケーションだけど、心境がとてもそんなロマンティックなものではなくなってしまった。
でも、その方が私らしい。
頬染めて、可愛らしく、照れながら告白なんてとても柄じゃないって。
だから……
「ティンクル君。あなたのことが好きです」
私は、そう告げた。




