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百合の勇者  作者: otsk
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夜明けの前に

 初手で決めるつもりだった。

 正直持久戦に持ち込んでこちらに利があるとも思えなかったからだ。

 だから、私の魔法を最大限に活用するためにティンクル君には風魔法を使ってもらい、最大火力の火の魔法をぶつける。

 それだけの単純な作戦。

 単純だからこそ、愚直でも、最も火力の出る方法だった。

 だけど、考えが甘かった。これほどのモンスターを一撃で仕留めようということが。

 最初に言っていたじゃないか、力が徐々に最高潮に近づいてるって。

 それは同時に耐久力だって上がってるのと同義だったんだ。

 私の魔法を受けたシークは、毛ほども効いてないかのように、そこに悠然と佇んでいた。


「(……終わりか?)」


 とりあえず、初手は終わりだ。

 ならば、次の手を考えなければならない。でも、これで決めるつもりだったから、次が考え付かない。これが戦闘か。


「(ならば、こちらも行かせてもらおう)」


 私はとっさに杖から剣を抜いた。

 剣術には長けている方だ。実のところ、魔法よりは近接攻撃の方が得意な面もある。自分の手で相手を倒したって感覚がなければ、それはただの自己満足で終わってしまうような気がしているからだ。

 ただ、防御のために剣を使うのは初めてだ。相手の攻撃を予測し、それに備えて、防御を取る。

 不慣れなものだ。

 私は自分から攻めて、相手に手出しをさせないことで国では勝利してきた。何度も言うように抵抗されたら女である私に勝ち目は薄いと分かっているからだ。

 例外もある。けど、私は結局常識の範疇から抜け出せない。

 シークは私に向かって水かきの発達した前脚を振り下ろそうとした。

 私はそれを受けるために剣を構える。さすがに今から回避を取ろうとしたところで、無駄に被弾するだけだと踏んだからだ。

 だけど、それに耐えられるはずもなく、私の体は軽く飛ばされた。


「けほっ……」


「リリアちゃん!」


「来ちゃダメ!これぐらい大丈夫だから!」


 言葉で制する。ティンクル君はその場から動くことを辛うじて踏みとどまっていた。

 これから攻撃を食らうたびにこれでは先が思いやられる。ただ、ティンクル君が近接攻撃を得意としない以上、この場では私が前線に出るしかない。人に不得意なものを押し付けるべきではない。ならば、得意な人間がそれをやるべきだ。

 育成目的ならともかく、これは勝つための戦いだ。

 勝つ?何のために?

 いや、これは勝つことで意味を見出すのだ。勝つことが最低条件となる。

 こんなところで立ち止まってる暇なんてない!


「てぇぇぇりゃああああ‼︎」


 剣を振りかざす。だが、一刀両断できるわけでもない。いくらこれが、業物かもしれないものでも、こんな細身では、精々手負いにさせるのが限度だろう。

 それでいいのだ。

 よく戦いで殺す気でいけと言うものもあるが、殺す気もないし、殺せるはずもない。

 ならば、どうすれば勝ちになるのだろう?

 私の跳躍力を合わしても、辛うじて垂れ下がった翼に剣先が届くかどうかというところだ。

 完全に動きを止めるとなれば、どれ程までに傷を負わせればいいんだろう。そして、私はそれほどまでに相手を傷つけることが出来るのだろうか?それに耐えられる?


「リリアちゃん!」


 シークが翼を振りかざしていたのに気づいてなかった。突風を巻き起されて、壁に打ち付けられた。

 今打ち付けられた場所はティンクル君の近くだったので、すぐに駆け寄ってきた。


「……リリアちゃん。何を焦ってるの?」


「……焦ってる?そんなことはないよ……」


 転がっていた剣を杖代わりにして、体を起こす。風が止むのを待って、そのまま突撃しようとする。だけど、肩を掴まれてその動きを止められた。


「離してよ」


「イヤだよ」


「離してって言ってるでしょ!」


「君が一人で傷つくのを黙って見てられるわけないだろ!」


「っ!」


 その言葉に怯んで、動き出そうとしていた足を静めた。


「止まってくれたね。少しは年上の言うことを聞きなさい」


「う……」


 そう言えば年上だった。なんか忘れていた。頼りないのが原因だろう。気が優しすぎて、今のように強く止められることなんてなかった。

 ……きっと、変わってきているのだろう。ティンクル君も。そうでもなきゃ、ティンクル君は最初のままでは、私を止められなかっただろう。そのまま押し切られていたに違いない。今、私をこうして止められたということは成長の証でもある。


「何か……策があるの?」


 私は剣を戻した。私が一人で出張って勝てる見込みはまず少ない。一人で戦ってるのはまだしも、今は2人いる。どこかで、きっとティンクル君を侮って、私が一人でやらなきゃって。

 そう……思ってたから。きっと、無理してたんだ。


「頼りないかもしれない。けど、僕を頼ってほしい。僕だって戦えることを証明する」


「でも、ティンクル君の魔法は……」


 圧倒的に攻撃に向かない。

 風魔法だって精々、動きを止めるぐらいが関の山のもののはずだ。

 そんなので、抵抗できるわけない。

 シークはあの翼を使って、私たちが魔法を使うように、同じく風を巻き起こせるのだ。

 シークに比べたら、私たちはひどく軽い。


「リリアちゃん。どんなものを使いかた次第、だよ。だから、申し訳ないけど、1分耐えてほしい。それまでに詠唱は終わらせる。僕はリリアちゃんみたいに詠唱なしで魔法は使えないから」


 ティンクル君の自信ありげな目に私は黙って頷いた。

 1分。

 それは戦いにおいて長いのか短いのか。

 でも、今の私の役割はティンクル君を信じて、ティンクル君に攻撃が向かわないようにするだけだ。

 そして、ティンクル君が詠唱を開始したのと同時に今度こそ駆け出した。

 そして、私はシークにこの空間における欠点を見出した。

 5mを超えるシークは翼があり飛ぶこともできる。

 だが、この頂上は天井があり、私たちから見れば相当に高いものだが、シークが飛び回るには少々狭い。だから、シークは一点に留まって、そこから来た私を迎え撃つという方法を取っているのだ。

 まあ、飛ばれたからといって、これぐらいの距離なら当てることはわけないのだけど。

 私は、ジリジリと距離を詰めていく。剣を振るうにも、射程距離に入らなければ当てることも不可能だ。

 それなら、その射程距離に入るまでは魔法で対抗するしかない。

 翼を再び使われてはティンクル君に被害が及ぶし、近づくこともままならない。なら、怯ませて根本的な行動を制限させる必要がある。

 私は小規模の魔法で、牽制を始めることにした。

 基本の五大魔法を火、氷、風、雷……一つは回復だった。とりあえず、4つを順繰りに放っていく。反応で、どれが一番効くのか試していこう。さすがに、全てに抵抗があるなんてことはないだろうし。人間は全て弱いけど。やっぱり欠陥だなぁ。

 でも、やはりというべきか、炎は毛ほどにも気にしてないようだ。これから、炎には耐性があることが分かる。

 元々水の中に住んでいるせいか、同じく水からの派生でもある氷もあまり聞いてないようだ。

 ただ、雷は嫌がっているように見えた。

 これが弱点か。

 風はやはり弱の状態だと、ここまで大きいと、何の意味も為さないようだ。でも、風に関しては効かないというわけではなさそうだ。

 ただ、雷に関しても、見えてはいると思うので、光を嫌ってるのか、雷、という攻撃属性自体を弱点とするのか。

 でも、光であるならば炎も同じようなものだろう。やはり、雷の属性自体が弱点なのだ。

 私は雷魔法を杖から再び抜いた剣にまとわせた。

 こればかりは、お母さんもやらなかったし、お父さんも出来なかった。

 お母さんに関しては出来たかもしれないけど、剣自体が得意ではなかったはず。だから、これを使うのは私ぐらいのものだ。

 あまり、基本魔法の中で雷は得意ではないのだけど、それでも並よりは上の自負はある。これで使いこなせませんじゃ笑いものだ。

 私は、右手に握った剣に魔法を纏わせることに集中しつつも、距離を詰めるために、魔法を数発放つ。


「リリアちゃん!離れて!」


 後ろからティンクル君の声が届いた。

 私は左手を引っ込め、斜め後方に素早く下がった。


「いっけええええ‼︎‼︎」


 私が完全にシークから離れたところでティンクル君は魔法を放った。





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