月明かりの差す場所で
窓もないため光がない。
そのために時間もいまいち把握ができない。
「ティンクル君。時計とか……ないよね」
「ないことを前提に話されてるけど、まあ確かに持ってないよ」
「どうしよっか。日没までには出たいけど……ま、いっか」
「心配しないかな?」
「……まあ、あの人たちは心配するベクトルが違うから、むしろ心配かけるぐらいがちょうどいいし」
「どうなることやら」
私の火の魔法で灯火を出してなんとか足元を見ている状態だ。
だから、望む望まないに関わらず、手を繋いで歩いていた。
汗ばんでないかな?鼓動が少しはやくなってるの伝わってないかな?
あれ?もしかして、私、男の子とこうやって歩くの初めてじゃない?
お父さんと王様を除けば、男っ気なんて微塵たりともなかったように思える。
「はあ……」
「どうしたの?もしかして楽しくない?」
「いや……あのさ……」
この人もこの人でどうにも鈍感すぎやしないだろうか。一緒にいるだけで、それだけで楽しいって面と向かって言えるほど私も浮かれてる気もないけど。
いや、こんなこと考えてる時点で浮かれてるのだろう。
そして、勘ではあるけどもうすぐ頂上な気がする。
もうだいぶ歩いた。階段も上った。でも、それで息が上がるほどヤワに鍛えてきたつもりもない。
女の子である私がそんなことをする必要性もないのだけど、お父さんの子供である以上、周りに負けることは私が許せなかった。お父さんはもちろん、私が強くなることは望んでいなかったけど、強くなることを止めはしなかった。
そりゃ、限界は来るだろう。なら、その限界が来るまで、私は進むだけだ。
「そういうことでしょ。シーク」
「(どうして、俺がここにいると分かっていた?)」
「大方、お姉ちゃんにでも頼まれたんでしょ。私のことを見てやってほしいとかそんな感じで。さすがにお姉ちゃんも水を差すことはなくても、何かしらの監視をつけたかったと思ったから」
「(水を差す?何のことだ?)」
「ああ、いや。こっちの話」
「リリアちゃん。戦うの?」
「拳を交えてこそ分かり合えるものもあるはずだよ」
「リリアちゃんが交えるのは杖じゃないか」
「そりゃ、リアルファイトで敵うはずないでしょ。得物があってこそ、戦いは成立するから。ま、加減は知らないけど」
「(俺は……実は戦ったことがない。縄張り争いをしたこともない。する必要がなかったからだ。他の生物は俺を見ただけで尻込みし、ひれ伏してきた。俺の母親が原因かもしれない。もしかしたら、強かったのは母親だけで、俺は弱かったのかもしれないのにな)」
「じゃあ、文字通り、尻尾巻いてそのまま帰ってもこっちは一向に構わないよ。無為に傷を負う必要はないんだから」
「(口の減らん娘だ。お前の姉もそんな感じだが)」
「そりゃ光栄。姉妹ですのでね。あと、こっちは二人でやるよ。それでもいい?」
「(持てる戦力を発揮して戦うのは自明の理だ。一対一じゃなくて卑怯だなんだとは言う気はない)」
「よし。じゃあ、今度こそ、ティンクル君」
「……一つ言いたいんだけどいいかな?リリアちゃん」
「なに?」
「二人とも魔法が主体なんだけど、いささか問題がない?」
「私が近接攻撃でも全然平気だけど」
「君が傷ついたらどうするんだ」
「戦うんだから、傷つくことは覚悟しなきゃ。そうしなきゃ、一歩も踏み出せないよ。そもそも、相手がシークだからこうやって待ってくれているけど、本当に野良で戦うんだったら、相手は待ってなんかくれない。全ては臨機応変に、だよ」
「まったく……リリアちゃんには振り回されっぱなしだ……けど。僕も男だ。女の子が頑張ろうとしてるのに、自分が引っ込んでちゃ示しはつかないね」
「(決めたか……。もう、月もそろそろ一番上に昇る。それが、俺が最も強くなる時間帯だ)」
「とういうことは、最初からほぼ最高潮ってことだよ。ティンクル君」
「気を引き締めないとね」
「裏を返せば、あとは下降していくだけだよ」
「その楽観的な考えもどうなの?」
「スタートはどうする?」
「(そちらからどうぞ。仮にもお前達よりは長く生きてるつもりだ。たかが数年だけどな。だが、それでも譲ってやるのが年の功というやつだ)」
「じゃ、お言葉に甘えて、ティンクル君行くよ」
「いやいや、作戦も立ててないのに特攻するのはそれこそ愚の骨頂だよ」
「ティンクル君魔法でサポート。私がそれをうまく使って攻撃します」
「雑!」
こんなところで尺を取ってもいられない。
そもそも、魔法というのは自衛目的が今となっては最たるものだが、人に向けて当てても、言うほどの被害がないという話だ。
だからと言って、人に向けて使っていいということでもないが。
モンスターに対してはどうなんだろう。私たちと違って相応のダメージを負うのだろうか。
でも、そこで躊躇っていてはいつまで経っても攻撃が出来ない。
幸い頂上には窓があった。今日は晴れてることもあり、その窓から月明かりが差し込み、お互いの姿がはっきり視認できる。
だけど、身を隠して戦うような遮蔽物は見当たらない。
その方がはっきり実力差が出るだろう。
モンスターに対して、私はどれだけ戦えるのか、そして、モンスターに手を貸すことが、私たちにどんな影響を及ぼすのか。
私は、初めてのモンスターとの戦闘を持って知ろうと思う。




