二人きりのミステリーツアー
「というわけで、今日は謎の塔と無人島の究明を急ぐよ」
「僕たちの旅にその必要性は皆無だし、1日じゃまず無理だろうけどね」
「水を差すな~」
「いはいいはい」
気を取り直して、私たちは塔の前に来ていた。どうにもしばらくは誰も立ち入ってないようで草木が生い茂っている。
しかし、腕まで想定して装備をつけてなかったので、結構草で切ってしまった。
「う~お風呂はいる時沁みそう……」
「リリアちゃんは回復魔法は?」
「使えるけど……あまり大したことないよ。お母さんがなんでもできるから勘違いされがちだけど」
「まあ、魔法って普通は一つ二つが限度だしね。だから、リリアちゃんも相当だと思うけどね」
「魔法使うのだって無条件にホイホイできるものじゃないし、それについてはティンクル君だって分かってるでしょ?」
「その通りだね。まあ、それぐらいなら僕が治してあげるよ。回復魔法と風系魔法を僕は習得してるから」
「ザ・人のためみたいな魔法だね。なんとなく、ティンクル君の人間性を表してるみたい」
「魔法も実際そうなのかもしれないね。使う人によって適正ってあるんだから、その人の内側を表してるのかもしれない」
「あはは。そうしたら、お母さんはものすごい多面性を持ってることになっちゃうし、私もそうじゃない」
「例外はあるってことだよ。世の中何事もね。はい、終わり」
「う~まだなんとなくヒリヒリするよ」
「もうあと30分もすればそれも気にならなくなるよ。それまでまた切らないようにしてね」
「はぁ~い」
「でも、流石に中まで生い茂ってることはないと思うし、大丈夫だとは思うけど……」
私たちは扉を開けた。意外にも錆びついていなかったのでスムーズに開いたのだが、逆にそれが不気味だ。まだ誰かの出入りがあったのではないだろうか。
そして、前言撤回しよう。
「ティンクル君……またも生い茂ってますが」
「だね……ジャングルだよこれじゃ」
「でもその割には扉には絡みついてなかったよね?」
「絡みつかないように設計したか……もしくは、誰かが近日中に出入りしているかのどちらかだね」
「でも、近日中って言っても、ここは一週間に一度しか道が繋がらないんだよね?とすれば、ここのことを知ってる人じゃないと」
「でも、こんな杜撰な管理で人がいるとも思えないけどなぁ」
「もしかして……幽霊とか?」
「幽霊が草木を刈ったりできる?」
「それもそうだね」
いたら見てみたいものだ。いや、実際にはいくらでもいるのかもしれないけど、目に見えないだけで。
……なら、まだモンスターはそういった類のものであれば残存する可能性はあるのかな?
「なんか興味湧いてきた」
「リリアちゃんはお化けは怖くないの?」
「私の目に映らなければ、それは結局存在しないわけだし、目に映るならば、向き合えばいいだけの話だよ。見えないものに怯えてる方がバカみたいじゃない」
「……なんかちょっと残念」
ガッカリされてしまったが、目に見えない得体の知れないものより、目に見える変態の方がよほど恐怖である。それが近くにいるのはどういうことなんだろうか。
そして、私から言わせれば、私よりもティンクル君の方がこういうことに敏感に怖がりそうな気もする。なんというか、若干神経質っぽいし。
「ティンクル君は幽霊を信じたりする人?」
「あんまり非科学的なものは信じないけど……サンタクロースなんかいたらいいなって思うよ」
「ああ、あの赤装束のずんぐり白髭オジサン」
「リリアちゃんは何かサンタクロースに恨みでもあるの?」
「いや……」
イブが姉の誕生日なので、昔からサンタクロースもへったくれもなかった。姉が誕生日だから、私も一緒にもらえるんだと思ってたら、それがクリスマスプレゼントだったらしい。
だから、すでにサンタクロースの存在がバレているという悲惨なことになっていた。少しは夢を見せろよ、うちの父親は。隠してもしょうがないのは同意するけども。
「うちは兄弟が全員上だったから夢は短かったな。まあ、いつまでも夢見てるんじゃないって話なんだろうけど」
「私は今でも夢見る少女だよ♪」
「……なんか空耳かな?」
「なんか言った⁉︎」
「いえ……」
なぜ私は年上の男の子に威圧的に出て勝てるのだろうか。きっと、ティンクル君は優しすぎるのだろう。言ってしまうのもなんだが、人の上に立つタイプの人ではない。じゃあ、なんなら向いてるのかって聞かれても、私はなんとも言えないんだけど。……私も、将来何をやりたいんだろう。
腰のあたりまで伸びてきている草を、剣で切りながら、奥へと進んでいく。円柱形の建物だったと思うのだけど、思ったより奥行きがある。
「宝箱とかないかな?」
「そんな嬉々として言われてもないんじゃないかな。そもそも以前にお姉さんが来たとか言ってなかった?」
「じゃ、じゃあ隠し扉とか」
「見つけたところでどうするのさ」
「どうしようもないですね……」
そもそも何のために建ってるものなのかを探索しているのだ。見たところかなり高い建物だったし、上のほうに行かないと意味のないものかもしれない。
「こうさ、宝箱じゃなくても地図ぐらい落ちててもいいじゃない?」
「誰が作ってるのだろうかと」
「そりゃ……誰だろ?」
ダンジョンには割りかし地図があるとかお父さん言ってたけど、その地図自体は誰が作ってるものなのか。
そのダンジョンのモンスターが道に迷わないように自分で作ったとか?
いや、ないだろう。根本的には誰にも来て欲しくないから奥深くにいるのだ。好戦的であるのならば、外に出て来ればいいだけの話である。
「ある意味これが一番ミステリーじゃない?」
「確かに……」
謎だらけだった。もしかしたら本当に探索隊とかいたかもしれないけど。だけど、毎回のように都合よくは用意されているわけもないと思うんだけど。
「あ、階段あったよ」
「またなんで一番奥に」
「設計上の都合じゃない?」
「いや、きっと冒険者たちの疲労を狙う目的だね。かつて一番上にはボスモンスターがいたんだよ」
「違う気もするけど……今の所は手がかりが見つからないね」
「ある程度は推測立ててったほうがいいんじゃない?上に着いて何もありません、じゃあどうしよう、ってならないために」
「何もなかったら?」
「……先に地下とかないか探してみない?」
「時間はあるからいいけどね。そういえばこの島はここ以外に何か目立ったものがあったかな?」
「上から見た限りはなかったと思うけど……地下への入り口もあるかわからないし、上に行こうか」
「そうだね」
ティンクル君は一人でスタスタと階段を上っていく。
あれ?二人きりなのに、向こうなんのアクションも起こす気ゼロですよ。女の子と二人きりなのにですよ。どういうことですか?
「リリアちゃん?どうしたの?先に行っちゃうよ?」
「うん。今行く」
そりゃ、ティンクル君だもんね。多分、気づかないようにしているのかもしれない。もしかしたら、自分がその相手な訳がないって思ってるのかもしれない。
こちらからアクションを起こすべきなのかな?
あと二歩程度で隣に立てる距離についたが、差し出そうとした手を引っ込めた。
今はまだいいか。
そう思って、ティンクル君の隣に立って歩き始めた。




